伝説的な野球選手ベース・ルースと、現代の野球界におけるユニコーンと称される大谷翔平。ともに投打の二刀流として知られる2人は、「史上最高の野球選手は誰か?」という野球ファンなら誰しも考えたことがあるであろう議論に火をつける存在だ。
本誌『スポーティングニュース』のJoe Rivera記者が、ルース対大谷という史上最高の二刀流選手の比較にあたっての「評価基準」を提示する。
ルース対大谷の議論のための比較材料とは?
ゴリアテ vs. ゴリアテ
大谷翔平はMLBではわずかに5シーズンしか過ごしていないにもかかわらず、その二刀流での驚異的な活躍によって、すでに野球史上の偉人たちが祭られる神殿に招かれるべき存在となっている。そして、野球ファンたちが酒場で盛り上がる「史上最高の野球選手は誰か?」という議論に火をつけてしまった。
この話題はスポーツ番組のトークショーにはうってつけだが、真剣な会話には向いていない。
大谷の登場によって、ベーブ・ルースとの比較が議論の的になってきた。しかし、ルース対大谷の話題には大いに解釈や文脈化の余地があり、単純に成績を比較するだけでは結論に辿り着くことはできない。
それでも、議論に勝つための有効な手段として何らかの数字を知っておきたいという人のために、いくつかの比較評価基準を紹介しよう。しかし、本当の意味での比較はありえないことは覚えていてほしい。
ルースと大谷のどちら側につくにせよ、議論の材料にはなるだろう。
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ベーブ・ルース vs. 大谷翔平:打撃成績比較
言うまでもないことだが、大谷翔平のキャリアは現在進行中だ。それでも、成績の平均値や確率で測られる数字でこの2人の打者を比較すると以下の通りになる。
まずは一般的な数字から紹介する(162試合平均の成績)。
ルース | 成績 | 大谷 |
---|---|---|
688 | 打席数 | 650 |
186 | 安打数 | 152 |
33 | 二塁打数 | 29 |
9 | 三塁打数 | 6 |
46 | 本塁打数 | 36 |
.342 | 打率 | .273 |
.474 | 出塁率 | .354 |
.690 | 長打率 | .532 |
183.1 (2503試合) | bWAR | 24.8 (566試合) |
そして、確率で測られる成績も役に立つだろう。
ルース | 成績 | 大谷 |
---|---|---|
6.7 | 本塁打率 | 5.6 |
12.5 | 三振率 | 26.9 |
7.8 | 四死球率 | 11.4 |
新しいものはよく見えがちで、その点ではルースは不利かもしれない。ルースのキャリア成績平均値(打率.342、出塁率.474、長打率.690)は野球の歴史上でも稀な、そして偉大なものだ。しかし、それだけで大谷のそれ(打率.267、出塁率.353、長打率.532)が劣っていると決めつけるわけにはいかない。なぜならルースは現在とは大きく異なる時代にプレイした選手であり、対戦した投手たちも現在とは大きく異なるからである。
関連記事:二刀流はなぜ難しい? 大谷翔平の活躍、大谷以外に二刀流に挑んでいる選手は?
ベーブ・ルース vs. 大谷翔平:投手成績比較
ルースは二刀流選手と呼ばれるし、実際にそうであったが、ある意味では部分的なものだった。ルースが真に二刀流選手として過ごしたシーズンは1919年のみである。フルタイムの投手からフルタイムの外野手へとコンバートしたからだ。大谷はフルタイムの先発投手とフルタイムの指名打者として直近の2シーズンを過ごしている。
投手成績を比べてみると以下のようになる。
ルース | 成績 | 大谷 |
---|---|---|
163 (147) | 試合数 (先発登板) | 63 (63) |
1221 1/3 | イニング数 | 349 2/3 |
.222 | 対打者打率 | .206 |
.571 | 対打者OPS | .610 |
9 | 被本塁打数 | 35 |
2.28 | 防御率 | 2.96 |
9.8 | 奪三振率 | 31.1 |
驚くべきことに、ルースの対打者打率.222はMLBの平均数値である.332より110ポイントも低かった。対打者OPS.571はMLB平均の.831より260ポイントも低かった。
大谷はそれほど同時代の他の投手たちから隔絶しているわけではない。MLB平均の対打者打率は.247で、大谷の.206より41ポイント高い。大谷の対打者OPS .610はMLB平均より121ポイント低い。それでも、ルースとの違いは無視してよいものではない。
ルースの時代には打者はあまり三振しなかった。しかし、大谷の奪三振率31.1%はMLB平均の22.8%よりかなり高い(大谷が投手として出場した4シーズンの数字)。
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ベーブ・ルース vs. 大谷翔平:どちらがより優れている?
異なる時代の選手を比較することは、とくに野球においては、いつも愚か者がすることだ。ルースの時代はメジャーリーグに黒人の野球選手は入れなかった。つまりその時点の地球上で最高レベルの選手たちのうち何人かはメジャーリーグでプレイできなかったということだ。このことは無視できるほど些細な事実ではない。
そして野球自体が広がっておらず、チーム数も現在より少なかった。よく見知った相手と対戦することは、成功と失敗を分ける大きな要素になる。
現在よく用いられる統計数値、たとえば球速や打球距離などのことだが、ルースの時代には測定できなかったものが数多くある。大谷がレーダーガンで時速160kmを叩き出し、とてつもない飛距離の本塁打を打つところを見ることは、ルースが帽子を振りながらベースを回るところを見ることとは、少し異なった印象を受けるものだ。
ルースが相手にしていた投手たちも現在とは異なる。彼らは160kmを越える速球も、ベースを端から端まで横切るようなスライダーも投げなかった。トレーニング方法が進化したおかげで、現在の選手たちは過去に比べると、より大きく、より強く、そしてより速くなったのだ。
さらには野球というスポーツと近代野球選手の進化も忘れてはならない。野球はかつてのように国立公園のようなサイズのスタジアムで行われることはなくなった。伝説ではルースはそうした広大な球場をまるで小さな公園に見せたということになっているわけだが。そしてここ30年ほどの統計ブームによって、1900年代初期のころから使われてきた評価基準より、選手たちの「本当の」生産性が明らかになってきた。
しかし、もしルースと大谷を比較する単純な方法を探しているとすれば、それはこの世には存在しない。大谷が今やっていることも、そしてMLBに移籍して以来やってきたことも、過去のだれもやったことがないのだ。繰り返すが、それが真実である。
ルースのキャリアのなかで大谷と比較するための最適なシーズンは1919年であることは間違いない。1919年以前、ルースは261試合でわずか789打席にしか立っていない。それまでは主に投手としてプレイしていたのだ(1919年はルースが500打席以上に立ち、15試合以上に先発登板した唯一のシーズンである)。
大谷はすでに直近の2シーズンでそれを行っている。
1919年の後、ルースはわずか4試合にしか先発登板せず、31イニングを投げたにすぎない。
ここにひとつの事実がある。1900年以降、1シーズンで500打席以上に立ち、10試合以上に先発登板した選手のリストは以下の通りだ。
- ベーブ・ルース(1919年):9.8 bWAR (打者)、0.8 bWAR (投手)
- 大谷翔平(2021年):4.9 bWAR (打者)、4.1 bWAR (投手)
- 大谷翔平(2022年):3.4 bWAR (打者)、6.2 bWAR (投手)
リストはこれで終わる。これしかないのだ。これで全員なのだ。近代野球以前には3つ例がある。1888年のデーブ・ファウツ、1892年のボブ・カラザーズ、そして1892年のエルマー・スミスだ。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドク・ブラウン博士と野球解析データおたくがデロリアンに飛び乗り、100年前にルースがどのようにプレイしていたかを検証することは不可能だ。大谷がやっていることは真に歴史的であり、そしてルースが今でも伝説的な存在であることだけを知っておけばよい。
はっきりとした解答を望んでいた人には申し訳ないが、「史上最高の野球選手は誰か?」の質問には、これ以上何も述べることはできない。
どうか議論を楽しんでほしい。
※この記事の作成には『スポーティングニュース』のEdward Sutelan記者が協力した。
原文: Babe Ruth vs. Shohei Ohtani: Key stats to know in debate over MLB's best two-way player ever
翻訳:角谷剛
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