野球ファンを怒らせ続けてきたロブ・マンフレッドMLBコミッショナー…物議を醸した言動の歴史

Edward Sutelan

野球ファンを怒らせ続けてきたロブ・マンフレッドMLBコミッショナー…物議を醸した言動の歴史 image

ロブ・マンフレッド氏がまたもMLBファンからの批判にさらされている。

2015年にコミッショナーに就任して以来、マンフレッド氏は次から次へと物議を醸してきた。不祥事への対処、発したコメント、そして野球というスポーツのルール変更など、その都度、野球ファンと選手の怒りを買っている。

MLBファンにとって、もっとも新しい痛恨事は包括的労使協定を巡る交渉でマンフレッド氏が取った行動である。試合を中止し、選手たちにその責任をなすりつけようとしたのだ。

スポーティングニュースでは、マンフレッド氏がコミッショナーに就任して以来これまでに引き起こし、そして野球ファンを苛立たせてきた言動を時系列で振り返ってみた。

プレイのペース

MLBファンはプレイのペースが速くなることを望んできた。そしてマンフレッド氏がコミッショナーに就任した際の公約のひとつが、野球のその部分に関して取り組むことであった。コミッショナーとして1年目となる2015年シーズン開幕を前に、マンフレッド氏は以下のルール変更を行い、試合のスピードを速めようとした。

  • 打者は片足を常にバッターボックスに入れておかなくてはならない(例外ケースもある)。
  • 攻守交代や投手交代など、プレイ以外の時間を計測する。
  • 投手のウォームアップは30秒に制限する。
  • 打者はタイマーが残り20秒になるまでにバッターボックスに入り、投手は打者の準備ができ次第、すぐに投球しなくてはならない。このルールを冒す行為には罰金が科せられる。
  • 監督は審判に歩み寄らず、ダグアウト内からビデオ判定を要求することができる。

いくつかのルール変更は過度な内容となり、ファンからは驚きをもって迎えられた。その最大の問題とは何か。成果がなかったことだ。野球データ専門サイト『Baseball Reference』によると、2015年における9イニングの平均試合時間は2時間56分だった。2013年と2014年からはやや短縮されたものの、ここ直近の3シーズンでは逆にそれまでより長くなっている。

2015年以降、プレイのペースはかえって遅くなり、9イニングの平均試合時間はずっと3時間を越えている。2021年はMLB史上で最長となる3時間10分にまでなってしまった。

その間もマンフレッド氏はいくつかのルール変更を主導してきたが、そのどれも成果は上がっていない。2018年からは、監督やコーチはマウンドへ向かう回数を制限された。2020年には、MLBはひとりの投手はイニングが終了するか、3人の打者と対戦するまでは、交代ができなくなると発表した。その目的は投手交代の回数を減らすことだった。

マンフレッド氏の目標は試合のスピードを速くすることであるが、それは実現していない。

異なった公式球

この問題を難しくしているものにひとつの矛盾がある。試合ペースを速めることと、打撃が活発になることを、同時に願うことだ。

マンフレッド氏がコミッショナーに就任してまもなく、MLBの打撃成績は大幅に上昇した。そしていくつかの調査結果が示すように、MLBはずっと公式球を変えてきたようである。そのうちのひとつ、2017年にスポーツサイト『リンガー』が掲載した記事によると、2015年の公式球は反発力がより大きく、2016年の公式球は縫い目がより低くなっていた。それでもMLBは公式球に変更をしたことはないと度々述べていた。

しかし、2018年にMLBが公表した報告書では、公式球がそれまでに変更されていたことと、ホームラン数が増大した原因はそれにあることを認めた。それでもMLBは変更がどのように発生したかは不明であるとした。加えて、公式球の縫い目が低くなったことで投手の指にマメができやすくなったと批判する声も多い。

名門誌『スポーツ・イラストレイテッド』が2021年に発表した報告によると、2018年にも公式球の変更は続いていた。そのシーズンの公式球はさらに平べったくなった。そして2019年のレギュラーシーズンではホームラン数がふたたび急上昇した。すると2019年のポストシーズンでは異なる公式球が使われたことをMLBの報告が結論で述べている。その報告によると2020年でも公式球は意図的に変更されたものの、MLBはシーズン途中に公式球が変更されたことをまたしても否定した。

そして2021年、ニュースサイト『ビジネスインサイダー』はMLBが2021年に2つの異なった公式球を使用していたことを暴露した。それによると、シーズン前半は攻撃力が急増することを防ぐための変更がなされ、シーズン後半では下がった得点数を戻すために再変更がなされた。選手、監督、コーチ、そして他のチーム関係者らは、誰も公式球の変更を知らされていなかった。MLBはローリングス社の製造が遅れたためだと説明している。

この記事が公開される前、マンフレッド氏は経済紙『フォーブス』に、これらの変更は野球の一貫性を高める目的で行われたと述べた。

「現時点で私が言えることは、私たちはもっと予想しやすく、安定したパフォーマンスを野球に求めるための変更ができるかを見極める必要があると考えていることです」
これはマンフレッド氏がフォーブス誌に語った言葉である。

公式球が変更され続けているらしき現状はファンの間に疑心暗鬼を生じさせている。あるシーズンが開幕する前、使用される公式球によってそのシーズンが投手有利になるのか、あるいは打者有利になるのか、分からないからだ。そのようなことを知らなくてはいけないとは、野球ファンの誰もが以前は考えてもいなかったことだ。

アストロズの不正疑惑

マンフレッド氏が初めて大きな不正スキャンダルに対応せざるを得なかった際、氏が下した決断は誰にも歓迎されなかった。

ヒューストン・アストロズは2017年シーズンを通して、ビデオ機器を使ってサインを盗み、打者に次の球種を伝えていた。その年のアストロズはワールドシリーズを制覇した。

MLBが2020年の公式発表でアストロズに不正行為があったとことを認めたとき、ファンは何らかの重大な罰則がこのチームに下されることを予想した。だが、その通りにはならなかった。アストロズのジェフ・ルーノウGMとA.J.ヒンチ監督は2020年シーズンの活動を停止する処分を受けた。チームはドラフト指名権を4つ失い、そして500万ドル(約5億5700万円)の罰金が科せられた。

しかし、ただひとりの選手にも、出場停止処分や罰金は下されなかった。実際のところ、選手たちには何の罰則も科せられなかったのだ。その代わり、選手たちはシーズンを通して遠征先でファンからブーイングを浴び続けることになった。それが実質的な罰則だったと言える。

MLB選手たちの多くが、アストロズに厳罰が下されなかったことに怒りを表明した。ロサンゼルス・ドジャースのコディ・ベリンジャー外野手はワールドシリーズ優勝リングを強奪されたように感じると述べた。ロサンゼルス・エンゼルスのマイク・トラウト外野手は選手たちが罰せられるべきだと感じていると述べた。アトランタ・ブレーブスのニック・マーケイキスに至っては、選手たちが「殴られる」べきだとまで言った。

NBAのスター選手、レブロン・ジェームスまでもが、選手たちに罰則がないことへの苛立ちを口にした。

「選手たちが過去にしたことの代償を払うことを人々が求めていることは分かりますよ。この明らかになった問題に対応しているときの選手たちの顔をみれば、彼らが既に代償を払ったことが分かります。彼らが春季キャンプに嬉々として向かっていると考えるのは、まったくの誤解にすぎません。厳罰を求める声があることは理解しています。理想的な世界では、そのようになっていたでしょう。現実的になろうとすれば、私たちにはこうするしかありませんでした。もっとも重要なことは、事実を知りたい人々に明らかにすることだと考えています」とマンフレッド氏は『ESPN』のカール・ラベック氏に言った。

「ただの金属片」

その2020年2月に行われたラベック氏とのインタビューでは、マンフレッド氏のもっとも物議を醸したコメントも飛び出した。ファンと選手たちがアストロズのワールドシリーズ優勝を剥奪するべきだと主張したのに対して、反対の立場を表明したのだ。

マンフレッド氏はかつて優勝タイトルを剥奪されたチームはなく、アストロズの不正行為によってその前例を作りたくはないと述べた。そして、次のコメントが続いた。

「ただの金属片に注釈をつけるとか返却を求めるというのは馬鹿げた考えのように見えます。人々は2017年シーズンでは何かが違っていたことをずっと知ることになるでしょう。私たちが下した決断が正しかったのか、それとも間違っていたのかは分かりませんが、私たちが徹底的な調査をしたこと、そしてけっして好ましくない結果であったにもかかわらず、その事実を公表する確固とした信念を持っていたこともです」

「ただの金属片」とはコミッショナー・トロフィーのことである。野球の頂点に立ち、北米スポーツでもっとも伝統ある優勝タイトルのひとつを獲得した勝者を称えるものだ。

ESPNによると、マンフレッド氏はワールドシリーズ優勝トロフィーを「敬意を欠いた方法」で表現したことについて謝罪へ追い込まれた。

「私はお詫びを申し上げたいと思います。何の言い訳もありません。私は間違いを冒しました。私はポイントを説明しようとしましたが、それはもっと効果的な方法で行うべきでした。そのことをもう一度謝りたいと思います」とマンフレッド氏は言った。

新型コロナウイルス・パンデミック

マンフレッド氏はパンデミックのさなかにMLBを運営すると言う前例のない困難に立ち向かうことを余儀なくされた。

2020年シーズン開幕直前にパンデミックが始まったとき、マンフレッド氏にはレギュラーシーズンを通常の長さで行う選択肢もあった。リーグ機構と選手会はパンデミックのさなかでシーズンをどうするべきかを模索し、交渉を続けていた。シーズンをどれだけ短縮するか、選手たちの報酬はどうするべきか、そして安全のためのプロトコルはどうするべきか、議論しなければいけないことは多かった。6月にはリーグ機構と選手会の交渉は暗礁に乗り上げ、マンフレッド氏は60試合制のシーズンを導入した。

それは始まりに過ぎなかった。リーグが定めた安全対策は強制力を持たず、選手たちはスタジアムにいないときは隔離されるようにと提案するだけに留まった。各チームには選手たちがルールを遵守するように監視する担当者もいなかった。

短縮されたシーズンの前半で、早くも数件の集団感染が発生した。スポーツ・イラストレイテッド誌によると、ある時点ではリーグの20%がパンデミックを理由に閉鎖された。

マンフレッド氏はシーズンが中止される可能性もあると警告を発した。新型コロナウイルス感染者が増えたことで選手たちを非難し、彼らはもっと良くならないといけないとまで言った。スポーツ・イラストレイテッド誌によると、選手や監督らは感染拡大の理由のひとつはロースター枠が増えたこととダグアウトが狭いことでソーシャル・ディスタンスを確保できなかったことだと反論した。

しかし、MLBはなんとかその年のシーズンを終わらせることができた。2020年ワールドシリーズを制したのはドジャースだった。

2021年オールスター戦開催地変更

2021年はマンフレッド氏がもっとも世間を騒がした年だった。それはまず、2021年オールスター戦の開催地をジョージア州アトランタからコロラド州デンバーへ変更することをMLBが4月に発表したときから始まった。

この決定は、ジョージア州が投票に関する新たな法律を可決し、それが多方面からの非難に直面していたことに対応したものだった。

マンフレッド氏が下したオールスター戦をジョージア州外で行う決断を称賛するものは多かった。その一方で、MLBを政治的論争に巻き込み、ひとつの側に立ったことを非難するものも多かった。マンフレッドはそれを「私たちスポーツ界の価値観を示す最良の方法」であると表現した。

加えて、この決断はアトランタが同年の1月に亡くなったハンク・アーロン氏の偉業を称える準備をしていた年に下された。地元ファンからの反発を抑えるかのように、マンフレッド氏はMLBがアトランタのチャリティに寄付を続け、そしてこのアトランタの英雄をオールスター戦で称えると話した。

加えて、アトランタ・ブレーブスのワールドシリーズ制覇により、オールスター戦開催地を変更した決断に対する地元ファンの留飲をさらに下げる結果になった。

スパイダー・タック

2021年はボールに関連して別の問題が浮上した。今回はボールに細工することではなく、選手たちがそれに付着させるものについてだった。

6月、MLBはボールに異物、特にスパイダー・タックと呼ばれる滑り止め、をボールに付着させることを厳しく取り締まることを急に決定した。投手たちが握りを強くするために日焼け止めと汗を混ぜることはもっとよく行われていたが、それも禁止された。

突然、選手たちは帽子、グローブ、そしてベルトを審判に見せてチェックを受けなくてはいけなくなった。もし何かが見つかった場合、その選手は退場を命じられ、出場停止処分が科せられることになった。

投手たちは長い間そうした物質を使って、ボールの握りを強化していた。スパイダー・タックはあまりにも強力な物質であったかもしれないが、それ以外のものは長年使われてきたものだ。

突然の変更によって、ほとんどの選手は握りを強化する方法を失うことへの対応を迫られた。タンパベイ・レイズのタイラー・グラスノー投手は出場停止処分への恐れから日焼け止めの使用を取り止め、そのあげく故障してしまった。同投手は後にトミージョン手術が必要になり、故障の原因はルール変更であると信じていると言った。

何人かの打者はこの変更を歓迎した。しかし投手たちの多くは、リーグがシーズン途中に急な変更を行ったことで大きな混乱が生じたことへの不満を口にした。

包括的労使協定交渉

そしてマンフレッド氏を巡る最新の騒動とは労使協定交渉である。

昨年の12月2日、MLBは公式にロックアウトを開始し、球団施設から選手たちを閉め出した。前の包括的労使協定が失効し、両サイドが新協定の合意に至っていなかったためだ。マンフレッド氏はそれを「交渉を合意に向かわせるため」の必要な措置であるとリーグは信じていると言った。また「選手会が譲歩するなら、リーグも譲歩する用意がある」とも言った。

12月20日にごく短い会議があっただけで、両サイドの会議は1月13日になるまで再開されなかった。43日間もの間、有効な議論が行われなかったということだ。そして再開された後も、話し合いに歩み寄りが見え始めたのは2月になってからだ。

その時点では、MLBは2月28日が合意に至るデッドラインと一方的に宣言していた。2月28日に長時間の交渉が未解決のまま終了すると、そのデッドラインは1日だけ延長されたが、合意なしの結論を先延ばしにするためのものでしかなかった。

デッドライン後の記者会見の場で、マンフレッド氏は最終的な責任を選手たちになすりつけるために多くの釈明を行った。過去5年間でリーグは経済的苦境にさらされていると言ったが、実際にはリーグの収益は過去最大だったのだ。そしてリーグは試合を中止するしか方法はないとも言った。その記者会見中、マンフレッド氏は笑いを顔に浮かべていた。

多くの選手がコミッショナーは交渉について嘘をついていると非難し、自分たちがいかにフィールドに戻ることを願っているかをあらためて強調した。その日がいつになるかは、現時点では想像するしかない。

(翻訳:角谷剛)

▶MLBを観るならDAZNで。スマホやTVでスポーツをいつでも楽しもう

Edward Sutelan

Edward Sutelan Photo

Edward Sutelan joined The Sporting News in 2021 after covering high school sports for PennLive. Edward graduated from The Ohio State University in 2019, where he gained experience covering the baseball, football and basketball teams. Edward also spent time working for The Columbus Dispatch and Cape Cod Times.