ブライス・ハーパーら"3割超え"打者たちは、ただの好打者たちとの差をどうやって広げているのか

Kevin Skiver

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MLBシーズンも4分の1を過ぎたが、5月終了時点で打率3割以上を維持している打者が20人もいる。そのうちの5人の打率は3割5分以上である。守備シフトが精巧になり、また飛ばないボールが使われているとの疑惑がささやかれていることから、MLBの平均打率は3年連続で下がり続け、2022年にいたっては.239と1968年以来最低の数字であるにもかからず、である。

打率は野球統計のなかで最も予測不可能なものであるうえ、多くの要因が打者に不利な状況を生み出している。それでも高打率を上げている打者たちはいかにしてこの困難を克服しているのだろうか。

肝要な点がひとつある。超一流の打者たちは試合中かあるいは打席中にでも状況に応じて即座の適応ができるということだ。それ以外の好打者たちはそれを行なうのに何試合も必要になるか、あるいはオフシーズンの練習でようやく弱点を克服することがふつうだ。そして2022年の統計がその違いを裏付けている。

現在のMLBをリードしている選手

前述した通り、現在20人の打者が打率3割以上を維持している。下はそのリストである。太字で記されているのは打率3割5分以上の打者だ(※5月31日時点)。

打者名 打率 出塁率 長打率
J.D.マルティネス(レッドソックス) .376 .435 .591 .376 .435 .591
ルイス・アラエス(ツインズ) .359 .455 .420 .359 .455 .420
マニー・マチャド(パドレス) .357 .438 .583
ポール・ゴールドシュミット(カージナルス) .355 .420 .622
ティム・アンダーソン(ホワイトソックス) .354 .392 .503
ラファエル・デバース(レッドソックス) .347 .375 .603
タイ・フランス(マリナーズ) .342 .412 .508
エリック・ホズマー(パドレス) .327 .391 .457
アンドリュー・ベニンテンディ(ロイヤルズ) .323 .396 .421
マイク・トラウト(エンゼルス) .320 .422 .673
ザンダー・ボガーツ(レッドソックス) .320 .390 .465
ジェフ・マクニール(メッツ) .319 .374 .466
ホセ・イグレシアス(ロッキーズ) .319 .370 .393
ブライス・ハーパー(フィリーズ) .317 .361 .611
C.J.クロン(ロッキーズ) .317 .367 .600
フレディ・フリーマン(ドジャース) .307 .398 .489
J.P.クロフォード(ホワイトソックス) .306 .397 .452
アーロン・ジャッジ(ヤンキース) .304 .373 .655
マイク・ヤストレムスキー(ジャイアンツ) .303 .406 .487
ムーキー・ベッツ(ドジャース) .301 .389 .602

5月31日時点の数字になるが、このリストには予想通りの打者が並んでいる。マチャド、ハーパー、ジャッジ、ベッツ、そしてトラウトは6月5日現在スランプにあるものの、野球界でも最高峰の名前である。ロサンゼルス・エンゼルスのテイラー・ワードはこのリストに含まれないが、それは故障と開幕当初の起用法により、規定打席数の条件(試合数x3.1打席)を満たさないためである。

現在のMLBで警戒すべき打者とは

最近よく用いられるようになった指標に「xwOBA(expected weight on-base percentage)」というものがある。ある打席の実際の結果に関係なく、打球の速度や角度、それに打者の足の速さなどを加味して、出塁期待率を算出したものである。

但し、xwOBAでは守備の要因が除外される。

5月終了時点でのxwOBAトップ10は以下の通りである。太字で記されているのは打率3割以上も兼ねている選手だ。なお「 * 」マークがついている選手は左打者である。

ワードのxwOBA は .444であるが、上記と同じ理由でこのリストには含まれていない。

選手名 xwOBA
ジョク・ピーダーソン*(ジャイアンツ) .468
マイク・トラウト(エンゼルス) .463
アーロン・ジャッジ(ヤンキース) .461
ヨルダン・アルバレス*(アストロズ) .453
J.D.マルティネス(レッドソックス) .444
フレディ・フリーマン*(ドジャース) .434
ウィルソン・コントレラス(カブス) .433
ブライス・ハーパー*(フィリーズ) .429
フアン・ソト*(ナショナルズ) .418
ジャンカルロ・スタントン(ヤンキース) .416

ピーダーソン、アルバレス、そしてソトのxwOBAと実際の結果との間に差があるのは偶然ではない。彼らは左打者である。左打者に対しては60%近くの確率で守備シフトが用いられる。その一方で、右打者に対して守備シフトが用いられる確率はおよそ22%である。つまり、左打者はスカウティング・レポートとも戦っているのだ。自分の打撃傾向を分析されるうえ、投手たちもそれに応じた攻め方を考えてくる。

フリーマンとハーパーは守備シフトに対抗する方法を編み出した。ハーパーはライン際で長打を狙い、フリーマンは全方向に打ち分けている。そうしたことが彼らの打率を押し上げている。

Bryce Harper, via Baseball Savant
Freddie Freeman, per Baseball Savant

xwOBAの数値は低いが、打率は高い選手たちも全方向に打球を飛ばすことに長けている。ポール・ゴールドシュミットは25.9%の確率で逆方向に打球を飛ばしている。ティム・アンダーソン(30.5%)、アラエス(27.1%)、マチャド(26.8%)の逆方向比率はそれより高い。アラエスはこのなかでは唯一の左打者だが、守備シフトをかけられる確率は3.9%しかない。つまり、引っ張り一辺倒でない左打者は好成績を残し、逆方向に打つ比率は25%くらいが最良のようである。もちろん、絶対のルールというわけではなく、例外もある。

なぜ左打者に守備シフトがより多く用いられるのか

ヒント:左打者が引っ張るだけが理由ではない

ほぼ常識に属することだが、左打者がテッド・ウィリアムズと同じ扱いを受けることが多い理由は物理的な限界にある。レフトの浅い位置で守るショートストップは打者走者を1塁でアウトにすることはできないが、ライトの浅い位置で守る2塁手にはそれができる。

さらに言えば、右打者が打つゴロに対しては守備シフトを諦めざるを得ない理由がある。1塁手は内野の右側全体をカバーしなくてはいけないうえに、左側にゴロが飛んだ時には1塁ベースをカバーしなくてはならないのだ。要するに、右打者には守備シフトは向かないのである。

スーパースターの要素

打撃には不確定要素が多い。マチャド、ジャッジ、マルティネス、そしてハーパーといった選手たちはなぜ安定してトップの位置にいられるのだろうか。

簡単に言えば、こうした選手たちは打席ですべてのことを上手くできるのだ。明白なアプローチを持ち、好球を見逃さず、強い打球を打つ。芯で捉えた打球が多く、球種を予測することにも長けている。超一流とただの好打者との差は広がるばかりだ。

MLBでは全体の投手力も守備作戦能力も上がっている。守備選手たちは打者のくせによってインチ単位で守備位置を変える。

現代野球は打球の角度や速度などの解析が盛んに用いられる時代であるが、それでも試合の成り立ちそのものは変わらない。選手たちの統計だけでは野球というゲームの全体図を俯瞰することはできない。超一流であれ、ただの好打者であれ、ある打者の真価を測るには、打席でのアプローチ、作戦、そして試合の状況を含めて考えなくてはいけない。

6月初週の突然の不調に陥る前というエクスキューズがつくが、トラウトがその完璧な例と言えた。

5月末時点で、1試合内で同じ投手に対して3回目の打席における打率のMLB平均は.267 である。ところが、トラウトが同じ投手に対して3回目の打席に立ったときの打率はなんと.435 なのである。同じく、ブライス・ハーパーのそれは.429 である。ジャッジは.321 、マチャドは.483 である。対戦チームは同じ投手に2回より多く超一流打者と相対させると、痛い目にあうのだ。

別の言い方をすれば、解析データは打者のアウトラインを説明するが、野球というゲームではまだ人間の目が重要な要素なのである。

好打者と超一流を隔てるものとは

好打者と超一流の差は広がっている。なぜなら、超一流の選手とは自分のくせや傾向さえも克服する方法を知っているからである。それを行うことは困難である。もしある投手がある打者の攻略法を知っているとすれば、打者はそれに対抗しなくてはならない。現代野球ではそれはさらに難しくなっている。投手はチームから対戦打者に関する情報を存分に与えられているからだ。

そこに違いが出てくる。超一流の打者はどんな投球に対しても適応できるのだ。それはただ「逆方向に打つ」というだけではない。それを対戦する投手に応じて行う方法を知ることである。アンダーソンはその良き例だ。トラウトとハーパーもそれができるからこそ、安定した打撃成績を残すことができているのである。

マチャド、トラウト、ハーパー、そしてジャッジは打席での適応力ゆえに、長年に渡ってトップグループを形成している。現在のMLBではただの好打者は守備戦術に攻略されてしまう。超一流打者は守備戦術を攻略する。そこが大きなカギとなる。野球と言うゲームはこれからもチェスのような頭脳戦になっていく。「誰もいないところに打て」のような古い格言はもはや通用しないのだ。

超一流打者はどのように考えているのか

トラウトは解析することが難しい選手である。米誌『スポーツ・イラストレイテッド』のエマ・バチェリエリ記者が書いたように、トラウトは毎年のように自分のスタイルを変えているからだ。しかし、ひとつだけ変わらない部分がある。それは必ず速球を待ち、変化球にはそこから対応する、という一点である。

2018年にトラウトは、元サンフランシスコ・パドレスの2塁手であり、現在はトレーナーのマット・アントネッリ氏に「僕はいつも速球にタイミングを合わせている」と言ったことがある。「それも真ん中あたりの速球をね。もし僕が遅いボールを待っているところに速いボールを投げられたら、それで終わりだ。だから僕は速球を待って、遅いボールには反応したいと思っている。速球に間に合うなら、遅いボールにも間に合うはずだからね」

トラウトは5月上旬にも同じことを言った。所属するエンゼルスがワシントン・ナショナルズに勝利し、トラウト自身も本塁打を打った試合後のことである。

「僕はいつも速球を待っている。2球目へのスイングは少し振り回し過ぎた。だからスイングをコンパクトにして、ボールを呼び込もうとした。すると芯で打つことができた」とトラウトはMLB公式サイトに語っている。

同じようなスタンスで打席に臨む打者はMLBに多い。しかし、遅いボールに対応するということは口で言うほど簡単ではない。それはやはり、トラウトだからできることだろう。

一方でハーパーはそれとは少し異なったアプローチを取っている。

今シーズン開幕前、MLB公式サイトのデビッド・アドラー記者が、ハーパーがMVPを受賞した2021年シーズンの打撃を詳細に分析した。それによると、ハーパーは状況に応じて、2つの異なるスタイルのスイングを行っていた。ひとつは前足を高く上げるやり方、もうひとつは前足のかかとだけを上げるやり方である。

アドラー記者の分析によると、ハーパーはまるでランナーを背負った投手がクイックで投げるように、前足の動きを変えている。打席中のカウントによって調整するのだ。打者有利のカウントでは前足を高く上げ、追い込まれるとかかとだけを上げるやり方にスイッチする。打席中にスタイルを変えることは、精神的に多くの困難に直面することになる。誰にでもできることではないし、それができるからこそハーパーは超一流なのである。

超一流の域に近づきつつある選手のひとりがゴールドシュミットだ。昨シーズンのゴールドシュミットはスライダーを大の苦手としていて、そのボールに対する打率は.218と全球種中最低だった。2022年は当然のように相手投手からスライダーを速球より多用されているが、今シーズンのゴールドシュミットはその球種に対して.431と驚異的な成績を挙げている。

「言うまでもないことだけど、我々は適応しなくてはいけないよね。僕は今年で12年目だ。野球はその間に大きく変わったと思うよ。だけど、それは徐々に変わっていったのさ。10年プレイして、少し休んで、そして復帰したとしたら、多分すごく驚いただろうけど、実際はそうではない。毎年のように適応し続けていくのさ。適応して、学んで、経験を積むべきことは限りなくある。野球はこれからも変わっていくよ。僕はそれに対して毎日、毎年、適応しようとしている」とゴールドシュミットはMLB公式サイトで語った。

これこそが超一流打者のメンタリティーである。

好打者はどのように攻略されているのか

前述のリストには多くの好打者がひしめいている。例えば、ジョク・ピーダーソンは今シーズン目覚ましい打撃を見せている。それなのに結果が伴わないのはなぜだろうか。

ピーダーソンに対して、対戦投手たちは速球を全投球の4分の1程度しか使わない。内野の右側に野手を3人置く守備シフトをしかれ、逆方向に打とうとしても、遅い変化球にタイミングを合わせないといけないのだ。ピーダーソンは適応力に優れた選手だが、対戦チームの戦略がそれを阻んでいる。今のところ、ピーダーソンは全力でスイングするしかないのだ。

右の好打者たちはどうだろうか。

右打者には守備シフトを使えない以上、投手たちは異なる攻略法を採る必要がある。例えば、シカゴ・カブスの捕手であるウィルソン・コントレラスは強打の持ち主だ。速球にめっぽう強く、今年は速球に対しては.374 の打率を残している。しかし、チェンジアップに対する打率は、62球で.000なのだ。特に分析チームの助けを借りなくても、コントレラスの攻略法は決まってくるだろう。コントレラスにとっては不幸なことだが、さらに手強い分析チームが手ぐすね引いて待っているはずだ。

超一流の打者はそうして攻められる弱点を持たない。そのことが彼らを違う次元に押し上げている。

3割以上の打率を残すことは最高の栄誉というわけではない。セントルイス・カージナルス専門メディア『Cards Conclave』のラスティー・グロッペル記者が2019年に書いた記事によると、ステロイド全盛時代にはシーズン平均で47.2人の3割打者がいた。2019年にはその平均数字は26.3人にまで落ちた。2020年の3割打者は23人、2021年は僅か14人だった。2022年になると、今のところ20人である。

「打率3割」とはむしろ試金石と呼ぶべきものである。超一流打者と好打者の違いとは、重要な局面でどれだけ対戦チームから恐れられるかによって決まる。Leverage Index(訳者注:試合の勝敗を決める重要さを数値化した指標)が高い場面でのトラウトの打率は.290 である。ハーパーは.355 である。MLB平均は.245 でしかない。

今後、何が変わっていくか

2023年には状況は異なってくる。MLB機構と選手会が守備シフトを禁じることに合意したからだ。内野の片側に2人より多くの選手を置くことが許されなくなる。守備シフトの効果は大きく、左打者のBABIP(訳者注:ホームランを除く打球がフィールドに飛んだ際に安打になる確率)は.280 であり、右打者のBABIPは.292 である。

MLBが守備シフトを禁止すれば、この数値の違いは小さくなるだろう。打者にとっては有利に働き、打撃成績が再び上昇することが予想される。

それによって、ハーパーやトラウトを打線に持つことの重要性が軽減されるわけではない。しかし、投手と守備陣にとっては別のアプローチが必要になる。数字は最終的に投手と打者との間で決まっていくことになるだろう。もっとも、2022年シーズンはまだまだこれからではあるのだが。

(翻訳:角谷剛)

※本記事は6月1日に英語記事として公開されたものを翻訳、編集したものです。各選手の打率成績など日本語版公開の6月6日時点のデータと相違があることをご了承ください。

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Kevin Skiver

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Kevin Skiver has been a content producer at Sporting News since 2021. He previously worked at CBS Sports as a trending topics writer, and now writes various pieces on MLB, the NFL, the NBA, and college sports. He enjoys hiking and eating, not necessarily in that order.