80年代、球界で最も成功した男:マイク・シュミット【前編】

Christian Shimabuku

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編集メモ:スポーティングニュースほど、アメリカで豊富な歴史を誇るスポーツ誌はない。スポーティングニュースは1886年にセントルイスに設立されるとすぐさま、野球について網羅した「ザ・バイブル・オブ・ベースボール(野球の聖典)」として知られるようになった。毎週、私たちはその膨大なアーカイブを探り、かつてプレーした象徴的なスター選手について紹介する。そして、このスポーツを国中に広めた偉大なジャーナリストたちについても紹介していく。

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マイク・シュミット以上に1980年代の野球界を支配していた選手は存在しない。後に野球殿堂入りを果たした彼は3度のMVP受賞と7度のオールスター出場を果たしている。彼はリーグ本塁打王に8度輝き、6度のリーグ最優秀OPS+を記録した。そして傑出した守備も忘れてはいけない。これらすべてを考慮すると、当時の「ザ・スポーティングニュース」誌(以下TSN)が1990年1月29日号で「プレイヤー・オブ・ザ・ディケイド(10年間で最も活躍した選手)」にシュミットの名前を挙げたことにも容易に納得がいく。記者のビル・ブラウンは、シュミットの数多くの偉業を際立たせる伝説的な特集記事を書き上げ、また、球界の将来についても思いを巡らせていた。

プレイヤー・オブ・ザ・ディケイド

これ以上ない活躍:TSNはシュミットを選出

ビル・ブラウン/著

ペンシルベニア州フィラデルフィア――シュミットは1980年までにすでに球界への挨拶を済ませており、名の知れた存在になっていた。この年、このフィラデルフィア・フィリーズの三塁手は、同世代で最も成功した(そして最も完全な)選手となるべく、偉大さの境界線を越えた。

4度のローリングス・ゴールドグラブ賞受賞者であり、3度のナ・リーグ本塁打王でもある彼は、フロリダ州クリアウォーターで開かれた1980年の春季キャンプで45本の本塁打を放ち、シーズンを開始した。

複数年に渡ってのオールスター出場選手であり、球界一高給なパフォーマーでもあるシュミットは、秀でた力と共に新たなシーズン、そして新たな10年間を迎えた。この力は1990年代のスターたちが新時代のスタートラインに立つ直前まで衰えることがなかった。

昨年5月28日に引退を表明した時、シュミットはユニフォームではなくジャケットを羽織り、柄にもなくむせび泣いていた。数々の賞を受賞し、多くの業績を残した彼に匹敵できる同世代の選手は、いたとしてもごくわずかだ。

そして、決して人々の心に取り入ることのなかったシュミットだったが、国民たちの精神の中に叩き込まれたのは明らかだ。

昨春、引退した後にナ・リーグオールスターのスタメン三塁手に選出されたことは、そうとしか説明がつかない。

よって、この10年間の結論として、TSNは編集者たちの投票によりすべてを有していた選手マイケル・ジャック・シュミット氏を「プレイヤー・オブ・ザ・ディケイド」と名付け、表彰した。

なぜか?シュミットはこの10年間で誰よりも多く本塁打を放ち(313本)、3度のMVPを受賞し、ワールドシリーズで2度もプレーしたのだ。

また、彼はゴールドグラブ賞とシルバースラッガー賞を6度ずつ受賞した。この10年間で8度のオールスター出場、8年連続30本塁打、合計929打点を記録し、球界史上最も多くの金額を稼いだ。

1980年代最高の選手として称賛されることに「お世辞が過ぎる」と話したシュミットは、引退後にも関わらずファン投票でナ・リーグオールスターの三塁手に選ばれたことに対しても謙遜していた。

彼の17年のキャリアのうち最後の10年間という広範囲を探るインタビューの途中、彼は率直そのものだった。彼は球界での自身の地位について語るのをためらわず、新たなスター選手たちへの評価も曖昧なものにしなかった。

これまでの監督たちについても歯に衣着せず、彼が見たままの通りに評価した。また、MVP受賞の政治面にも触れ、今後10年間の未来像についても語った。

「数ある栄誉の中で最も並外れたものだ」。引退後に投票でオールスターに選ばれたことについてシュミットはそう話した。「私の引退が全米で報道されたことと関係していたと思う。ファンたちが『彼の引退をテレビで見たのを覚えてる?彼に投票しよう』と言っていたんだろう」

「私の周りで広がっていったものは、言ってしまえばカルト的なものだ。つまり、組織的な運動は行われていなかった。ドナ(シュミット夫人)と私が自宅で子供たち(ジェシカとジョナサン)と不正票を投じていたわけではないんだ。きっと、起きていることに人々が興味を持ち出して、口々に『実現させてみよう』と言い出したんだろう」

「だが、これを当然のこととは思っていない。(メッツの)ハワード・ジョンソンがいつでも私を追い抜くことができると考えていたからね」

しかし、80年代の彼の功績を超える選手がいないのと同様、ファン投票においてもシュミットを追い抜く者はいなかった。

多くの人が「マネージャー・オブ・ザ・ディケイド」として考えるであろうカージナルスのホワイティ・ハーゾグ監督は、誰かを犠牲にして特定の選手を褒めたたえることを良しとしなかったが、誰が10年間で最高の選手と呼ばれるに相応しいのかを理解していた。

「もしも、この10年間で最高の選手は誰だと思うかと述べてしまうと、その選手は私を好きになるが他の多くの選手が私を嫌いになってしまう」。彼はそう話した。「だが、それはマイク・シュミットだ。そうだろ?ゴールドグラブ賞に関しても、彼が放ったホームランに関しても誰もがすべてを知っている。それに、彼はこの10年間で最も稼いだ選手だろう。だいたい1600万ドルか。ああ、これだけの条件が揃えば彼がプレイヤー・オブ・ザ・ディケイドだ」。

実際、シュミットはフィリーズでのみプレーし、およそ2000万ドルを稼いだ。この金額はフィリーズのビル・ジャイルズ会長の羽振りが良かった結果だ。

「彼は我々に毎晩毎打席で110パーセントのものを与えてくれた」。ジャイルズ会長はそう話した。「彼はここで、プロ意識のスタンダードとなるものをつくった。大きな数字を残す選手に大きな契約を与えて後悔したことはない。そして、マイク・シュミットは年を追うごとに大きな数字を我々に与えてくれた。皆、彼が去ってからようやく本当の有難さに気付けるんだ。たいていの人はそうした選手をラインナップの中で交換しようとしてしまう。ああ、彼はここで大金を稼いだ。そして、1ペニー分も違わず彼にはその価値があった」。

シュミットのトウガラシのような赤髪はここ数年で塩のような白髪へと色を変えだした。次なる10年間の終わりに球界トップの稼ぎ頭たちがどのような給料を受け取るのかについて意見を求められても、彼は青い目を回し、ただ口笛を吹いていた。

しかし、シュミットは1990年代の一流選手となるであろうスターたちに対する評価ではかなり自由に発言をしていた。彼らはスタン・ミュージアル(1946-55)、テッド・ウィリアムズ(50年代)、ウィリー・メイズ(60年代)、ピート・ローズ(70年代)、そしてシュミットに続いてTSNのプレイヤー・オブ・ザ・ディケイドの名誉を授かる筆頭候補たちだ。

「支配力だ」。彼は彼なりの基準を話した。「出来る限りコンプリートプレイヤーに近い選手がいい。打てるだけではなく、守備のポジションでも最高級の選手でなくてはいけない。そして、チームを勝利に導くために必要な他のことをどのようにすればいいのかを知っている必要がある」

「ここで(ジャイアンツの)ウィル・クラークの名前を挙げなかったら、そいつは頭がおかしい。私が見た彼の姿からすると、彼は1990シーズンに向けて相当な勢いを持っていた。才能があり、偉大な選手になる雰囲気をまとっている。調子の浮き沈みをうまく処理することができる男のように見える。少し生意気そうな見た目を理由に彼を好まない人もいるがね。だが、私には彼の気持ちが分かる。私もそうだったからね」

「もう一人の真剣に考慮すべき選手は(ヤンキースの)ドン・マッティングリーだ。彼はまだ十分に若い。そして、私がそうだったように、彼はすでに球界での立場を確立してから次の10年間へと臨んでいる」

ワールドチャンピオンのオークランド・アスレチックスの中から、次のプレイヤー・オブ・ザ・ディケイドになる可能性の最も高いイースト・ベイの選手として、シュミットはホセ・カンセコではなくマーク・マグワイアを選んだ。

「長期的に見るとマグワイアの方が良い気質を持っている」。彼はそう話した。「私が思うに、カンセコはもう少し落ち着きを持たないと精神的に参ってしまうだろう。彼は人生を理解する必要がある。だが、彼もいずれ大人になると思う。2000年まで生き残るためにも彼は成長しなくてはいけなくなるだろう」

シュミットは、最も批判的な解説をメッツのスター選手ダリル・ストロベリーのために取っていた。彼はナ・リーグ東地区の競争相手として近くで見てきた存在だ。

「この『次のプレイヤー・オブ・ザ・ディケイドになる可能性のある選手リスト』にストロベリーの名前も加えたい」。彼はそう話した。「彼にそれだけの勇気があるのかは分からないけどね。つまり、彼の意志のことだ。彼に欠けているものは目に見えない部分だ。私の心の中の炎は燃え尽きた。ダリルは火をつけられるのかも分からない。たとえ火曜夜のアトランタでの試合であっても、彼は週末のドジャース・スタジアムでの試合と同様に自分自身を鼓舞しなくてはいけない。彼は週7日、身体的にも精神的にも努力しなくてはいけない」。

中編へ続く)


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Christian Shimabuku