【最終話】ダルビッシュの47球

Muneharu Uchino

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(第5話はコチラ

 

超一流同士の勝負は、常に紙一重だ。

もし、ベリンジャーの送球がダルビッシュのグラブに収まっていたら。
もし、マッカラーズが2アウト満塁でピーダーソンに投げた初球がボールとコールされていたら。
もし、ダルビッシュがマキャンに投じた4球目がストライクとコールされていたら。

野球に「たられば」は禁物だが、考えずにはいられない。
1球、ワンプレーで試合の行方が大きく変わる、それが野球というスポーツだ。

 

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結果的にダルビッシュは、先発投手としての役目を果たせなかった。
ドジャースは敗れ、29年ぶりのワールドシリーズ制覇の夢は潰えた。

試合後の記者会見で、「明らかに本調子ではなかった」という記者の指摘に対し、ダルビッシュはこう答えた。

「調子は正直、あの、良かったんですけど、あのー…… なんていうんだろう…… うまいこといかなかったっていう」

調子は良かったが、うまくいかなかった。
見ている側からはわかりにくいが、そういうこともあるのだろう。
調子が悪くても、何とかなる日もある。
この日はその逆で、調子は良くてもどうにもならなかったのだろう。

ワールドシリーズ2試合に投げて0勝2敗、防御率21.60、奪三振ゼロ。

試合後、「この2試合は最大の屈辱か?」との質問に対し、ダルビッシュはこう答えた。

「まあ何個か、もうすごい悔しかったのは今までもありますけど、なんかこう、なんて言うのかな、メジャーに来てからこう、なんていうの、こう、すごい…… まあ正直な話ですけど、あの、野球への情熱っていうのがだんだんこう、落ちてきてしまっている部分があって、それにすごい悩んでて、特にこの3年くらい。で、ここで、やっぱりその、目標を持たせてもらったというか、まあ、なんていうの、最後まで、えー、負けたくないっていう風なことを、会見で言ってたと思うんですけど、ワールドシリーズの前に。で、今はワールドシリーズに出て、活躍したいっていうのが目標になりましたし…… はい」

野球への情熱が、落ちてきてしまっている部分があった。
ダルビッシュは、そう語った。

メジャー3年目まで3年連続でオールスター選出、2013年にはサイヤング賞2位に入るなど、個人としては十分な実績を残してしまったからだろうか?
あるいは、トミー・ジョン手術で野球からしばらく離れたことで、情熱が薄れてしまったのだろうか?
もしくは、結婚というプライベートでの転機を迎えた影響もあったのだろうか?

何がダルビッシュを悩ませていたのか、わからない。
それはきっと、ダルビッシュ本人にしかわからない悩みなのだろう。

ダルビッシュは今オフ、FAになる。

来年どこでプレーしているか、わからない。
ドジャースかもしれないし、レンジャーズかもしれないし、他の球団かもしれない。
あるいは、日本に帰ってくる可能性だってゼロではない。

しかしダルビッシュは、ワールドシリーズ終了後の記者会見という公の場で、自身の意思を堂々と表明した。

「自分はドジャースでやり返したいです」

また、記者会見の最後、現地の女性記者から「この痛みをどう乗り越える?」と聞かれたダルビッシュは、こう答えた。

「今までもそうなんですけど、みんなめちゃくちゃ悪い日ってあると思うんですよ。そういうときにいつも自分が考えるのは、まあ自分がすごく悪い日があったぶん、その逆で、素晴らしい日があった人が、ひとり増えたっていう風に思えば、意外とキツくないんですけど、今日はあのー、ドジャースみんなにやっぱり迷惑かけてるので、それが通用するかどうかもわからない」

ダルビッシュらしい、ウィットに富んだ言い回しだ。

いつの日かきっと、巡り巡ってダルビッシュにも「素晴らしい日」がやってくるだろう。
ときに悩みながらも、野球への情熱が失われない限り。

(完)

Muneharu Uchino