【第5話】ダルビッシュの47球

Muneharu Uchino

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第4話はコチラ)

 

2回表、ダルビッシュがマウンドに上がった。

この回先頭の6番ブライアン・マキャンから、2球で2ストライクを取る。
しかしグリエルの打席同様、ここから苦しんだ。

 

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2-1からのカーブは内角一杯に決まったかに見えたが、判定はボール。
2球ファウルの後の速球も外れて、カウント3-2。
その次のスライダーをマキャンは見逃し、判定はボール。

ドジャースのダグアウトではロバーツ監督が不服そうな表情で、声を荒げた。

ノーアウトランナー1塁で、打席には7番マーウィン・ゴンザレス。
かつてダルビッシュの完全試合を阻止した男だ。

2013年4月2日、テキサス・レンジャーズでメジャー2年目を迎えたダルビッシュは、アストロズ戦に登板した。
この日がダルビッシュにとって、シーズン初登板だった。

ダルビッシュは8回までひとりのランナーも出さず、14奪三振の快投。
9回も2アウトを取り、9番のゴンザレスを迎えた。
ここでゴンザレスは、ダルビッシュの速球を打ち返しセンター前ヒットを放った。

もっとも当時のゴンザレスは、今の彼と同じ選手ではない。
内外野を守れるユーティリティプレイヤーに過ぎなかったゴンザレスは今季、レギュラーに定着して23本塁打を放った。

ワールドシリーズ第7戦という大舞台でも、ゴンザレスはそのパワーを見せつけた。
ダルビッシュが投じた4球目、真ん中付近のカッターを叩くと、打球は右中間を抜けてライトフェンスに到達。
ダルビッシュはマウンド上でうなだれ、二塁に到達したゴンザレスは両手を激しく叩いた。

ノーアウトランナー2、3塁。

ダルビッシュがキャッチャーのバーンズを呼び、ショートのコリー・シーガーも交えて3人で話をする。
次打者への配球か、もしくは内野守備体系の確認だろうか。
打席には8番、ジョシュ・レディック。

ドジャースのブルペンでは、ブランドン・モローが急ピッチでウォーミングアップをはじめた。

レディックは2球目を打ってセカンドゴロに倒れ、ランナーは動けず。
1アウト2、3塁で、打席にはピッチャーのマッカラーズ。

是が非でも三振が欲しい場面だったが、マッカラーズは3球目をバットに当て、打球はセカンドへの緩いゴロに。
3塁ランナーが生還し、アストロズに貴重な3点目が入った。

Astros 3-0 Dodgers

マッカラーズは大仕事を成し遂げたと言わんばかりに、興奮気味にチームメイトとハイタッチを交わす。
2アウトランナー3塁で、打席には1番のスプリンガー。

ダルビッシュのここまでの投球数、41球。
ドジャースのベンチはまだ動かない。

スプリンガーへの初球はワンバウンドのスライダー、ボール。
2球目は真ん中低めの速球、ボール。
3球目は外角低め一杯の速球、ストライク。
4球目は外角への緩いカーブ、ボール。

5球目、真ん中高めのスライダーをスプリンガーがフルスウィング。
当たれば特大ホームランかという豪快な空振りで、カウントは3-2。

ここでキャッチャーのバーンズは再びスライダーを要求したが、ダルビッシュは速球を選んだ。
ダルビッシュは試合後、この場面をこう振り返っている。

「うーん…… まあ初回のやつもスライダーがこう、なんていうのかな、カドが出てくれないというか、カドっていうかなんていうのかな、だからやっぱりスプリンガーみたいなバッターだと、もう、なかなか難しいなって。最後も結局、(カウント)3-2からスライダーをバーンズがコールしたんですけど、今日のスライダーのクオリティだと、やっぱり同じことになると思って、真っ直ぐを選んだので、だからやっぱり、今の自分の状態にスプリンガーは難しかったんじゃないかなと」

6球目、ダルビッシュが投じたのは真ん中低め、96マイルの速球だった。
スプリンガーが弾き返した打球は、ロサンゼルスの夜空へと消えた。

最終話につづく)

Muneharu Uchino