【第3話】ダルビッシュの47球

Muneharu Uchino

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(第2話はコチラ

 

1回表、2アウトランナーなし。
打席にアストロズの5番、ユリエスキ・グリエルが入ると、場内から大ブーイングが沸き起こった。

 

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グリエルは第3戦で、ダルビッシュからホームランを放った。
その後、ダグアウトでアジア人への人種差別的行為を取る姿がテレビカメラに捉えられた。
試合後に謝罪のコメントを出したグリエルは、来季開幕から5試合の出場停止処分になった。

グリエルへの処分が来季へ持ち越しになったのは、皮肉にもダルビッシュのおかげだった。

第3戦の試合後、ダルビッシュはグリエルの行為を受けて、記者会見とツイッターで声明を発表した。

「誰も完璧な人間ではない。あたなもそうだし、私もそうだ。今日彼が行ったことは正しくないことだが、私たちは彼を断罪するよりも、学ぶ努力をしなければならない。もしここから何かを得ることができれば、それは人類にとって大きな一歩だ。この素晴らしき世界に住んでいるのだから、怒るのではなく、前向きに進もう。私は皆の大きな愛に期待している」

ダルビッシュ、人種差別的行為への対応で示した"超一流"の品格

 

ダルビッシュは、自身を侮辱した相手に罰を求めるのではなく、球界が、さらには社会がより良い方向へ向かっていくための行動を選択した。

この声明を受けて、MLBはグリエルをワールドシリーズには出場させ続けるという判断を下した。
ダルビッシュの対応は、現地メディアやファンに"Class Act(品格ある行動)"と称賛された。
マウンド上では不甲斐なかったダルビッシュが、ワールドシリーズで成し遂げた大きなファインプレーといえよう。

もっとも、ドジャースファンはグリエルを簡単には許さなかった。
舞台をロサンゼルスに移した第6戦と第7戦、グリエルが打席に入るたびに大ブーイングを浴びせ続けた。

かつて日本でもプレーしたグリエルはこの日、打席に入るとヘルメットを取り、ダルビッシュに敬意を表した。
ダルビッシュはこのとき、何を考えていたのか?

試合後、グリエルとの一件が投球に影響したかという現地記者の質問に、ダルビッシュはこう答えている。

「グリエルの話? 全くそれは関係なかったですし、あのー、むしろグリエルの最初の打席には、当てたらダメだなーと思ってたんで、当てないように、というくらいに考えていたくらいなので、それ以外は集中はできていました」

「当てないように」と意識するあまり攻撃的なピッチングができなかった、というわけではないだろうが、ダルビッシュはグリエルを打ち取るのに苦労した。

外角低めに96マイルの速球を2球続け、簡単に2ストライクを取った。
ここから、かつて「キューバの至宝」と言われたグリエルが粘りを見せた。
ダルビッシュは得意のスライダーを続けるも、空振りが取れない。
グリエルはひたすらファールを打ち続ける。

グリエルに10球目を投げたところで、ドジャースのブルペンでエース、クレイトン・カーショウが体を動かす姿をテレビカメラが映した。

カウント3-2から粘りに粘って13球目、グリエルは平凡なライトフライを打ち上げた。
ライトのヤシエル・プイグが掴んで3アウト。
1回表、アストロズの攻撃が終わった。

第4話につづく)

Muneharu Uchino