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スポーツファンなら誰でも、応援するチームが不甲斐ない負け方をしたときに叫びたくなる瞬間があるだろう。ましてやチームのオーナーなら、そんな瞬間が数多く訪れることは想像に難くない。そしておそらくは、その叫びたくなる衝動を抑えることができずに、ロッカールームやオフィスで不満を爆発させることもあるだろう。
しばしばメディアの暴露報道にさらされ、それでなくても常にコメントを公表することを求められていても、ほとんどのオーナーはそうした不満を外部にもらすことはない。だが、1974年、当時サンディエゴ・パドレスのオーナーだったレイ・クロック氏は39,000人のファンを前にして、よりによって試合中に球場のマイクに乗せて怒りを表明してしまった。
1974年4月9日、ヒューストン・アストロズを迎えた本拠地開幕戦において、パドレスのオーナーになってからわずか4試合目であり、そしてマクドナルドの創業者としてもっと名高いクロック氏は、8回を迎えて9-5で負けている状況に我慢をすることができなかった。
「ご来場の皆さん、私も皆さんと同じように苦しんでいます」と72歳のクロック氏はマイクの前で大声をあげた。それは1人のファンがフィールドに乱入する直前だった。クロック氏は「そいつを球場からつまみ出せ。刑務所にぶち込め」とも言った。
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クロック氏の怒りは止むことがなく、引き続きマイクの前に立ち続けた。
当時のスポーティング・ニュースの報道によれば、クロック氏は観客に向けてこう言った。
「良いニュースと悪いニュースがあります。良いニュースとはドジャーズが開幕戦に31,000人しか集められなかったのに、ここには私たち39,000人のファンが集まったことです。悪いニュースとは今ここでは私がかつて見たなかではもっとも馬鹿げた野球が行われていることです」
観衆は大声でクロック氏を称えた。
手厳しい。
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クロック氏がチームを非難したように、パドレスは1974年シーズン開幕後4連敗を喫する直前だった。その日のアストロズ戦も開始直後からひどい試合だった。先発投手スティーブ・アーリンは初回だけで6本のヒットを打たれ、5点を失い、防御率45.00の散々なシーズンのスタートを切った。これはさほど驚くべき出来事ではなかったが、クロック氏だけはそう思ってはいなかった。
クロック氏がパドレスの経営権を手に入れたとき、サンディエゴの野球ファンからは救世主として迎えられた。それより以前の5年間において、パドレスは100敗以上のシーズンが3回あった。1973年には60勝102敗で終えている。クロック氏はおそらく楽天的に、状況がこれ以上悪くなることはあるまいと踏んでいたようだ。だが、1974年シーズンのパドレスは開幕後3試合に合計で25点の失点を喫したのに対して、挙げた得点はわずかに2点だった。クロック氏はそれでもまだ希望を持っていた。
「皆さんの助けと神の助けがありますから、今夜アストロズは地獄を見るでしょう」試合前のセレモニーでクロック氏はファンにそう言った。
だがアストロズが地獄を見ることはなかった。
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8回を迎えると、クロック氏は自分の間違いに気がついたらしい。だからマイクの前で自分を抑えることができなかった。もちろん、パドレスの選手たちはそれを喜ばなかった。
後に野球殿堂入りをはたすパドレスの強打者ウィリー・マッコビーは試合後報道陣にこう語っている。
「クロック氏はあんなことをするべきではなかったと思う。私の19年のキャリアであんなひどいことは聞いたことがない。馬鹿だなんて呼ばれるのはチームの誰だって歓迎しない。私たちはプロであり、ベストを尽くしている。クロック氏が言った言葉は選手たちの記憶に長く残るだろう」
アストロズの選手たちでさえ、同じように喜ばなかった。
アストロズのクロード・オスティーン投手は「信じられないよ。クロック氏は野球の成功は金では買えないってことを知るべきだ」と言った。
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当時のMLBコミッショナーだったボウイ・キューン氏とMLB選手会長だったマービン・ミラー氏もクロック氏に謝罪を要求した。クロック氏はそれに応じ、マクドナルドでやっているように顧客を第一に考えるがあまりの失言であったと述べ、また直前に乱入したファンに中断されたことが「怒りに火をつけてしまった」とも言った。
「私は間違った言葉を使いました。申し訳ありませんでした。およそ40,000人を前にして、私はとても失望し、また恥ずかしい思いをしていました。私はチームが良いプレイをしていないとだけ述べ、ファンに応援を頼むべきでした。実際のところ、私はマイクの前に立つべきではありませんでした。しかし、一度口にしてしまった言葉をなかったことにはできません」とクロック氏は言った。
さらにクロック氏はこう続けた。「(馬鹿な野球というコメント)は思わず出てしまった言葉です。誰かを非難するものではありません。ただ考えなしに喋ったことを後悔しています。私はサンディエゴに悪い足跡を残したくありません」
最初の失敗から立ち直ることは不可能に近いと思われたが、クロック氏はその後の印象をある程度は回復させた。パドレスはクロック氏のオーナー時代、あまり良い成績を挙げることはなかった。この1974年シーズンも60勝102敗で終わっている。だが、クロック氏は死亡する1984年までチームのオーナーであり続け、最後の年のパドレスはワールドシリーズにまで進出したのだ。その1984年シーズン、パドレスの選手たちはクロック氏(Ray Kroc)のイニシャルを表す”RAK”の文字をユニフォームの袖に縫いつけた。1999年にはクロック氏はパドレスの殿堂に名前を連ねた。
残念なことにクロック氏が1974年4月9日に行った問題のスピーチは映像では残っていない。したがって、この出来事は我々の記憶にしか残っていない。代わりに、1978年のMLBオールスター戦でクロック氏が始球式を務めたときの動画がある。
(翻訳:角谷剛)