野球に全く興味がない人がメジャーリーグ観戦を楽しむコツ、その2。
球場の音を楽しむこと。
メジャーリーグの球場では、日本のプロ野球のように鳴り物の応援がない。
トランペットの演奏のなければ、選手の応援歌もない。
ファンひとりひとりが勝手に声を出したり、ブーイングをしたりしている。
自由で、個人主義で、まとまりがない。
しかし、そんな彼らの声援が一瞬、静まり返る瞬間がある。
ピッチャーがボールを投げ、キャッチャーミットに収まるかバッターが打ち返すまでの時間だ。
160キロの剛速球がキャッチャーミットに「パーン!」と収まる音、あるいはその剛速球をスタンドまで弾き返す打球音は、メジャーリーグ最大の醍醐味ともいえよう。
アメリカには「野球の音を楽しむ」という文化がある。
プレーを目で見るだけではなく、耳でも楽しむ。
そのため、日本の応援団のような鳴り物応援はないのだ。
もちろん、日本の応援には独自の文化があり、日本へやってきた外国人選手が興奮することも少なくない。
プエルトリコやキューバなどの中南米、台湾などでも楽器を使った華やかな応援がある。
純粋に人間の声だけが飛び交う野球場というのは、アメリカだけかもしれない。
とはいえアメリカでも、音を使ってスタンドを盛り上げるプロフェッショナルが存在する。
場内のPAシステムを使って観客を煽るスタジアムDJや、オルガン奏者だ。
メジャーリーグ中継を見ていると、イニングの合間や投球の合間に、よくオルガンの音色が聴こえてくる。
それは全て、スタジアム専属のオルガニストがその場で演奏しているのだ。
メジャーリーグにはいくつかの球団に、何十年も演奏を続けている名オルガニストがいる。
たとえばロサンゼルス・ドジャースで1988年から2015年まで28年間、ドジャースタジアムでオルガンを引き続けたナンシー・ビー・へフリーさん。
彼女は1995年に野茂秀雄がデビューしたとき、「上を向いて歩こう」を弾いたことでも知られている。
常にザワザワしたファンの声と、ピッチャーが投げるときに訪れる一瞬の静寂、そして試合の時々で流れるオルガンの音色。
これらの音が自然と混じり合って、スタジアム内に独特のグルーブ感が生み出されるのだ。
昼からビールを飲みながら、音を楽しむ。
こう書くと、メジャーリーグの球場はまるで、音楽フェスのようである。
メジャーリーグの球場は、野球が好きな人だけの場所ではない。
仲間と盛り上がりたい若者、何か非日常的な刺激が欲しい人たちがやってくる。
彼ら彼女らは必ずしも、野球に詳しいわけではない。
もちろん中には、立見席でひとり熱心にスコアをつけているようなファンもいる。
色んな人たちが混じり合って、メジャーリーグの球場に漂う独特の空気感を作り出しているのだ。
アメリカの"National Pastime"(国民的娯楽)とも言われるメジャーリーグ。
もしアメリカに行く機会があったらぜひ、球場に足を運んでみて欲しい。
(完)