米記者が語る大谷翔平【前編】メジャーでさらに注目されるために必要なものは?

Bill Bender

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10人ではきかない人数の日本人記者とカメラマンが三塁側のダッグアウトの前に並んで、はるか遠くにいる大谷翔平を見つめていた。投打二刀流の驚異の新人は20日、エンゼルスタジアムのブルペンでチャールズ・ナギー投手コーチと話をしていた。すぐにお馴染みの音が静けさを破った。

記者はメモをとる。三脚やビデオカメラを手にしたカメラマンが、大谷の投球練習を待つ。するとシャッターの音が響き渡り、左翼フェンス奥にあるブルペンから捕手のミットの音が聞こえてくる。ブルペンを見渡せる場所に陣取った30人ほどの日本人報道陣は、スプリングトレーニング以来、休みなく大谷の一挙手一投足を追ってきた。米国から遠く離れた日本でも多くのファンが活躍を楽しみに待っているのだ。

大谷は24日のアストロズ戦を迎えるまで投手として2勝1敗、防御率3.60、15回投げて19三振。打者としては打率.333、3本塁打、11打点の成績を残していた。メジャーで本格的な投打二刀流として力をつけ、短期的な活躍だけでなく長期にわたる成功を感じさせている。

「こちらは個人としてもチームとしても競争が激しい。毎日が勉強です」と、大谷は水原通訳を通じて話した。

エンゼルスの新人として大谷がここまで成し遂げてきたことで、過去のスター選手の名を思い浮かべることができる。ベーブ・ルース、フェルナンド・バレンズエラ、ボー・ジャクソン、野茂英雄、イチローといったところだ。大谷は日本でルースのような数字を残してきた。だが、このすさまじい熱気はアナハイムの外まではまだ広まっていない。そうした状況で、誰が比較の対象になるだろうか?

エンゼルスのマイク・ソーシア監督は現役時代捕手で、1981年にドジャースでバレンズエラの球を受けていた。それはあの時のあの場所だったから起きたことで、いまの大谷のものと同じものとは感じられないという。

「あの時と社会的な原動力が違うと思う。フェルナンド(バレンズエラ)は知らない世界から突如現れた。彼は若くして突然出て来て、目を見張るような存在になった。ロサンゼルスにはメキシコ系のファンが多く、彼らが熱烈に応援したのだ」とソーシア監督は語った。

バレンズエラとメキシコのファンとの関係は、大谷と日本のファンとの関係と同様だろう。しかし大谷は人々の関心が移ろいやすい時代に存在している。23歳の二刀流の若者は、その動きのひとつひとつをつぶさに観察されているが、米国の景色の中に溶け込んでしまうかもしれない。

誰にでも届くように最適化するのはどうしたものか? それにはもっとこのスーパースターを知る必要がある。「ショー(翔)タイム」のためには、1980年代の「フェルナンド・マニア」と同じくらい、このスーパースターを愛す必要がある。大谷は偉大にならなければならない。そしてエンゼルスはリーグ争いを繰り広げなければならない。そうなれば、三塁のダッグアウト前に並ぶ記者やカメラマンの数はいまの3倍、いや4倍くらいまで膨れあがることだろう。FOXスポーツでエンゼルスの解説を務めるマーク・グビザは、次に起こることを以下のように予想した。

「もし大谷がこの調子で活躍してオールスターに選出されたら、彼と彼の偉業に対する熱意と興奮は計り知れないレベルに到達するだろう」。

そうなることはあるだろうか?

◇  ◇ ◇

20日のジャイアンツ戦、球場内に「スピリット・イン・ザ・スカイ」が流れるなか、エンゼルスの先発メンバーが紹介された。大谷の名がアナウンスされると、合わせてMVP5度というマイク・トラウトとアルバート・プホルスのふたりと同じくらいの歓声が上がった。大谷という名前は興味の的になっていて、モルガン・スタンレーのストラテジストが投資戦略の喩えに使ったくらいだが、まだ十分浸透したとは言えまい。

大谷との接点は短時間の会見くらいなので、彼はまだミステリアスなムードに包まれている。日本人報道陣は試合後、会見室に集合する。そこでは英語で4問、日本語で4問の質問がされる。英語は水原通訳を介して行われ、大谷が通訳を見てうなずく。言い過ぎることのないような受け答えである。

大谷は周囲に気を配っているように見える。17日のレッドソックス戦では、右手中指のまめが悪化して不本意なピッチングに終わった。2日後には指名打者で3三振を喫した。翌20日のジャイアンツ戦では2安打を放って雪辱した。

「オープン戦では何度も凡退した。そのたびに何がいけなかったのか反省した。今日は外野フライが2度あった。なぜそうなったのかを考えたい」と、大谷は20日の試合後に話した。

彼の打席を振り返ってみると、きちんとしたプロセスを経て結果を出している。タイガー・ウッズがその日のラウンドの1打、1打を振り返っていると考えてみるといいだろうか。20日にジャイアンツのジェフ・サマージャと対戦したときを例にとってみよう。この日、大谷は胸元のボールにのけぞることがあった。

「胸元に来た直後、内角の球を一塁線に引っ張ってファウルになった。その後にカーブが来た。しっかり打つことができた」。

この打席は安打だった。同じようなことが22日の試合でもあった。ジャイアンツのエース、ジョニー・クエトの前に大谷は第1打席、第2打席と空振り三振に倒れた。第3打席。カウント2—2からのチェンジアップを右前に運んだ。この打席はソーシャル・メディアであまり広まらないだろうけれど、これこそ大谷が話していた通りのバッティングだった。

彼は米国で勉強しているのであり、毎打席考えているのである。

日本ハム時代でも同じくらいの期待を背にしていたが、いまはより厳しい舞台で戦っている。

◇  ◇  ◇

東京スポーツの岩田カメラマンは大勢いる日本人報道陣のひとりで、今月末には帰国する予定だ。日本プロ野球のレジェンドたちの中で大谷がどれくらいの位置にいるのかと尋ねたら、岩田カメラマンは「イチローがこのへん」と、頭の上まで右手を精一杯伸ばして言った。大谷とダルビッシュは同じくらいで胸の位置だとし、大谷はもっと上がるのは間違いないと話した。グーグルで「JAPANESE BASEBALL STAR」と検索してみると、この3人と野茂の名前が出てくる。

これはすこし奇妙なことかもしれない。イチローは日米合わせて17度オールスターに選ばれている。野茂は1995年に彗星のごとく登場した。ソーシアは彼らと比べてみせる。

「われわれは才能を尊敬する。才能ある選手というと野茂や翔平、フェルナンドといった名が出てくる。彼らの才能は本物だ。彼らを知ることができて、本当に幸せだと思っている。翔平には長い間すばらしい現役生活を送ってもらいたいと誰もが思っている」(ソーシア監督)。

ソーシア監督は大谷の歩んできた道がバレンズエラのようなものだとは思っていない。バレンズエラは1981年の4月に5勝無敗、45回投げて自責点1、43三振という大活躍でスターダムに駆け上がった。ロサンゼルスに「フェルマンド・マニア」が大量発生した。比類のない大騒ぎであった。

「翔平はすでに日本のレベルの高い球界で投げてきた。フェルナンドは冬の間メキシカン・リーグで少し投げ、2Aからメジャーに昇格した。メジャーで活躍するまでの道程はちょっと違う」とソーシア監督は口にした。

大谷の道のりは確かに違う。比較対象がルースなのだ。ヤンキースに移籍するまで、レッドソックスで二刀流のスターだったルースだ。

対象としてグビザが大いに関心を持った選手が1980年代後半にいた。「これほどの人気、これほどのメディアの扱いというと、カンザスシティーのボー・ジャクソンだろう」。

このまま行けば、大谷は1989年のジャクソンと同じレベルの強烈な輝きを放つとグビザは思っている。

原文:The Shohei Ohtani experience will get bigger, better as spotlight grows
翻訳:Hirokazu Higuchi

Bill Bender

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Bill Bender graduated from Ohio University in 2002 and started at The Sporting News as a fantasy football writer in 2007. He has covered the College Football Playoff, NBA Finals and World Series for SN. Bender enjoys story-telling, awesomely-bad 80s movies and coaching youth sports.