もしファンタジー・ベースボール(訳者注:実在の選手を仮想チームに編成するシミュレーション・ゲーム)をやったことがある人なら、あるシーズンに大活躍した投手が翌年になると急に「周囲の状態に起因する不調」に陥っていると専門家が評しているのを見聞きしたことがあるでしょう。サイヤング賞を獲得したシーズンのあとで急に調子を落とす選手や、大投手と呼ばれる選手が平凡な成績に終わるシーズンを過ごすことはよくあります。そのような現象を説明するうえで、もっとも便利な指標の1つがFIP(Fielding Independent Pitching)です。
他のセイバーメトリクス用語と同じく、FIPとは奇妙な響きかもしれません。
FIPは投手を評価するために開発された中でもっとも価値がある指標です。従来の防御率と異なる点は、FIPは将来のパフォーマンスも予測することができることです。
FIPとは何か?
FIPは計算式から守備の影響力を除外し、試合の中で投手が責任をもつことができる部分のみを対象とします。
投手の能力のみを測定するためには、守備選手たちを計算から除外することは理にかなっています。もしある投手が外野に3本のフライボールを打たれたとしましょう。もしその投手の後ろを守る外野手の守備範囲が抜群に広ければ、3本のフライボールはすべて捕球され、投手はそのイニングを無失点でマウンドを下ります。
ですが、もし外野手の守備範囲が狭ければ、3本のフライボールはすべて安打となり、失点は投手の自責点として記録されます(エラーは野手がボールに触ったときにしか記録されませんので、このケースには該当しません)。同じ3本のフライボール、同じ投手、だけど違う守備選手、それだけで投手に自責点が2点つくか、あるいは0点になってしまうのです。
これは防御率がもつ問題点ですが、FIPにはそれがありません。FIPは打球の結果を計算に含みません。それは多くの場合、投手がコントロールできないものだからです(そうとは言い切れないケースもありますが、そのことについては後述します)。代わりに、FIPは投手が責任を持つことができるプレイのみを対象とします。それはつまり、本塁打、四死球、そして三振です。これらの結果のみを影響力によって加重計算し、投球イニング数で割ったものがFIPです。FIPはリーグ内すべての投手について同じ方法で評価します。
FIPの使い方
防御率について知識があれば、FIPの使い方も簡単に理解できます。FIPと防御率の数字は同じように評価することができます。簡単に言えば、5.00を越えたら悪く、4.00は平凡、3.00は優秀、そして3.00を下回る数値はサイヤング賞候補の域に入ります。
FIPと防御率を比較すると、多くの投手は似た数字を挙げていることに気がつくでしょう。ジョン・スモルツのキャリア通算防御率は3.33で、FIP は3.24です。 バートロ・コローンのキャリア通算防御率は4.02で、FIP は4.06です。ペドロ・マルチネスのキャリア通算防御率は2.93で、FIP は2.91です。ほとんどの投手は通算の防御率とFIPが非常に似た数字でキャリアを終えます。通算1000イニング以上を投げた投手の約75%が防御率とFIPの差は0.20以下に収まるのです。
長い目で見ればほぼ同じ数値に落ち着くのに、なぜ防御率ではなくFIPを使うべきなのでしょうか?
その答えはFIPが防御率よりはるかに未来を予測することに向いているからなのです。通常、防御率とFIPはどちらも1シーズン単位で見て、ある投手の成績が過大評価されているか、あるいは過小評価されているかを判断することに使われます。
例:2015年、ヘクター・サンティアゴはシーズン前半を防御率は2.33, FIPは3.96で終えました。FIPを見ると、サンティアゴは過大評価されていたことがわかります。投手が責任を負うべき部分で良い数字を残していなかったからです。FIP が3.96ということは、サンティアゴは三振の数が少なく、四死球と本塁打を多く与えていたことを意味します。他の要素、例えばボールが飛んだ方法や、エンゼルスの守備力、その他の多くが絡み合い、このシーズン前半のサンティアゴは見た目ほど良い投手ではなかったことがわかります。
長期間に渡って防御率とFIPの差が大きいままであり続けることは稀です。サンティアゴは2015年シーズン後半には防御率を大きく落としました(前半2.33 、後半5.47)。
逆のケースもあります。マイケル・ピネダは2016年シーズン前半を防御率は5.38で、FIPは3.77でした。つまりピネダは過小評価されており、シーズン後半には防御率も下がることは予想できました。実際にはピネダの防御率は5.38 から 4.15へ下がりました。
FIPを使用する際の注意点
防御率についての問題点は既に指摘しました。FIPにも多少の注意点はあります。
例えば、FIPは三振を狙うよりゴロやフライボールを打たせてアウトを取るタイプの投手を正しく評価できません。こうした投手は自分のチームの守備力に多くを委ねます。彼らの戦略はいかに打者に強打を許さず、守備をしやすい打球を打たせるかにあります。これは優れた戦略です。ですが、FIPはこのように守備力に頼る投手を評価できません。そのため、カイル・ヘンドリックスのような投手の防御率は良くても、FIPの数値は悪くなります。
またFIPは被本塁打を投手の責任として重要視しますが、ここにも運が大きく左右します。ある球場ではフェンス前で捕球される打球が、別の球場では本塁打になってしまうこともあるからです。別の指標でHR/FB%というものがあります。ある投手が打たれたフライボールが本塁打になる確率を示したものですが、これも多くの場合は投手がコントロールできない部分です。
多くの投手のHR/FB%の数値は10パーセント前後ですが、不運な投手の場合は16%になることがあります(2017年のクレイトン・カーショウのように)。これは必ずしもカーショウの責任で本塁打を量産されたわけではありません。フライボールの多くは運によって本塁打になるのです。FIPはカーショウの不運を反映しませんので、結果として不当な過小評価を受けることになります。FIPのバリエーションである“xFIP”はこうした運の要素を除外し、すべての投手のHR/FB%を10%以下と推測します。こちらの方がよい指標かもしれません。
FIPは正しく使われる限り、投手の能力を測定し、また将来の成績を占ううえで非常に効果的な指標です。上に挙げたいくつかの注意点を忘れなければ、防御率よりはるかに効果的であると言えるでしょう。
(翻訳:角谷剛)