【米記者が解説するセイバーメトリクス】①:なぜ打率に頼るのをやめるべきなのか

John Edwards

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野球の新たな世界へようこそ!私はここで野球界の伝統というものに対して、友好的かつ建設的な意見をしたいと思います。その伝統は何十年にも渡り、選手たちを適正に評価することを妨げ、正確な統計手法の進化を遅らせ、そして数多くのツイッターでの議論を生み出してきました。私が今日ここで棄て去ることを提言するのは「打率」と呼ばれる指標です。

少し大げさだったかもしれません。打率はけっして歴史から消し去られる必要はありませんし、タブー視されるべき指標でもありません。ただ、この古き指標はもはや重視されるべきではなく、現在では選手たちの能力をもっと適切に測定する方法があると言いたいのです。

 

打率とは何を測定するものなのか?

打率は野球のなかでもとりわけ単純な式で計算されます。選手が打った安打の数を打数で割った確率、それが打率です。こうして計算された確率はある選手がどれだけの頻度で安打を打つかを示し、理想を言えば、その選手が安打を生み出す能力を測定するものでなければいけません。

ところが、残念なことに事実はそうではありません。選手は打率に対して部分的には影響を与えることはできますが、その大部分の要素は選手ができる範囲の外にあります。

打率を構成する最大の要素はフィールドに放たれた打球が安打になる確率、BABIP – Batting Average on Balls In Play です。計算の仕方は打率と似ています。ある選手の安打数をバットにボールを当ててフェアプレイゾーンに飛んだときの数で割ります。例えば、ある選手が10回ボールをフェアプレイゾーンに飛ばして、そのうちの3本が安打になったとしたら、その選手のBABIPは3割ちょうどになります。

しかしながら、BABIPは当てにはなりません。選手たちはボールを強く叩き、あるいは打球の方向を広範囲に打ち分けることで、ある程度は BABIPの数値を上げることはできます。同時にBABIPは相手チームの守備力に大きな影響を受けますし、そこには運も少なからず関係してきます。もし強烈なライナーを放っても、それが野手の正面に飛んでしまえばアウトになります。つまり、打率をもって選手を評価するということは、相手チームの守備能力と自らの運も含めて評価するということなのです。言うまでもありませんが、そのどちらも選手がコントロールできるものではありません。

 

打率を気にかけなくてもよい理由

打率に関して最大の問題はその使われ方です。アナウンサー、レポーター、監督、あるいは選手たちさえもが、まるで打率というものを打者が生み出すパフォーマンスを示す万能の数字であるかのように語ります。打率とはけっしてそのような便利なものではありません。むしろ野球の統計数字の中でももっとも恒常的に間違って使用されているものの1つであると言ってよいでしょう。

打率に関して対照的な数字を挙げた2人の選手を比較してみましょう。2017年シーズンにおいて、ディー・ゴードンの打率は.294でした。3割に近い打率を挙げたのですから、ゴードンは良い打者だと普通は考えられるでしょう。一方で、ジョーイ・ギャロの打率はひどく、わずかに.211でした。

しかしながら、このように打率に大きな差があるにもかかわらず、このシーズンのギャロは実質的にはゴードンより生産性の高い選手でした。ギャロのOPSはゴードンのそれよりも200ポイント以上も高く、それ以外のほとんどの指標でもギャロの方が上回っていたのです。この違いはゴードンが「意味のない打率」を稼いでいたことにあります。ゴードンは単打を多く放ち、四球を選ぶことが少ない打者です。つまり出塁する確率が低いことに加えて、ゴードンには長打を放つパワーが欠けています。

対するギャロのパワーは並外れています。ギャロの長打率は.577で、この数字はアンドリュー・マカッチェンやジェイ・ブルースのような強打者たちをも上回っています。さらにギャロはゴードンの3倍もの四球を選びました。単打の数はゴードンに及ばなくても、ギャロはより多くの長打を放ち、より多くの四球を選ぶことで、その欠点を十分以上に補ったのです。つまり、ギャロの方がより価値が高い選手であると言えます。ゴードンは打率が高くても平凡な選手になれることの証拠であり、ギャロは打率が低くても良い打者になれることの証拠です。

 

代わりに何を使うべきなのか

それでは、打率ばかりを重視する慣習を改めたいとします。代わりに何を使うべきなのでしょうか?それには多くの選択肢があり、それぞれが異なる長所を持っています。

OPS (出塁率 + 長打率) はもはや伝統的とも呼んでいい指標で、また使い方もとても簡単です。OPSが優れている理由は、打者のもっとも重要な技術とは塁に出ること(四球か安打かに関わりなく)と長打を放つことだからです。しかしながら、OPSも完璧ではありません。そこにはリーグの状況が含まれないからです。

例を挙げますと、デビッド・オルティーズは2016年シーズンに最高OPSとなる1.021を挙げましたが、その数字は2001年シーズンでは10位に過ぎません。さらに言えば、OPSは球場の違いを反映しません。ある選手が打者有利のクアーズ・フィールドを本拠地とした場合は、同じ選手が投手有利のAT&Tパークを本拠地にしたときより、はるかに良い数字を残せるでしょう。

有名な野球統計サイトである『Baseball Reference』では、通常のOPSにリーグと球場の要素を加味したOPS+という独自の指標を用いて、選手の生産性を評価しています。別の言葉に言い換えるならば、OPS+はある選手のパフォーマンスを同じリーグの他のすべての選手と比べ、また同じ球場で打席に立つ他のすべての選手と比べるものです。

OPS+ はOPSとは微妙に異なり、リーグ平均を100として換算します。例えば、オルティーズの2016年シーズンにおけるOPS+は164で、これはオルティーズがリーグ平均より64%高いパフォーマンスを発揮したということを意味します。そこにはリーグと球場も計算要素に含まれています。

OPSとOPS+は便利な指標ですが、さらに一歩踏み込んで、出塁率と長打率を同列に扱わない統計方法もあります。なぜなら、すべての安打と四球は同じ意味を持つわけではないからです。

出塁率とはある打者が出塁した数を打席に立った数で割ったものです。仮にある打者が10回打席に立ち、四球を2回選び、本塁打と二塁打を1本ずつ放ったとします。その場合の出塁率は1 + 1 + 1 + 1 / 10 = .400になります。この数字からは出塁したそれぞれのケースが持つ意味はわかりません。もし10回の打席で4本の本塁打を放つ打者がいれば、その打者は同じ10打席で4個の四球を選ぶ打者よりもはるかに高い価値がありますが、両者の出塁率だけを見ると同じになってしまいます。

すべての出塁を同じように扱うやり方を変えることによって、上の問題を解決できます。四球の定量的な価値を二塁打や本塁打、あるいは単打と「イニング内で得点に結びつく平均的な確率」という観点で比較するのです。そうして加重された数値によって、選手の生産性がより明瞭に浮かび上がってきます。1 (四球) + 1 (四球) + 1 (二塁打) + 1 (本塁打) / 10 = .400という計算式ではなく, .693 (四球) + .693 (四球) + 1.232 (二塁打) + 1.980 (本塁打) / 10 = .459となるのです。

注:この加重数値は得点に結びつく確率に基づくもので、本シリーズの次回以降に詳しく説明します。

この指標をwOBA (Weighted On-Base Average)と呼びます。出塁率ではありますが、個々の出塁した状況ごとに加重数値を用いて計算することによって、ある選手が生み出す価値をより正確に評価します。OPSと同じように、wOBAにもリーグと球場の要素を加味したバージョンがあります。それはwRC+(Weighted Runs Created+)と呼ばれ、OPS+と同じように表されます。

OPS, OPS+, wOBA, そして wRC+はそれぞれに独自の長所があり、どれを用いるかは個人の好みでしょう。重要なことは、これらのどれをとっても、選手が打席に立った時の生産性を打率よりはるかに正確に測定するということです。

だからこそ、今こそ伝統から解き放たれようではありませんか。打率を万能な指標のように扱うことは終わりにしましょう。


(翻訳:角谷剛)

John Edwards