1920年に公式な統計指標となって以来、打点は野球界において選手を評価するもっともポピュラーな数字の1つであり続けています。MLBの三冠王と言えば、この打点に加えて、打率と本塁打のことを指すわけですから。
そのような長い歴史があるにもかかわらず、近年の統計学者たちはこの打点という数字をあまり重視しないようになりました。野球データ解析サイトの『Fangraphs』は打点のことを「避けるべき指標」と呼び、マイケル・ルイス著の『マネー・ボール』では打点にこだわる伝統を「大いなる狂気の見本」とまで呼んでいます。
別の言い方をすると、統計学者たちは打点が選手の打撃能力を測定するには適しておらず、それはむしろ選手が置かれた環境によって大きく左右されるものだと理解しているのです。つまり、打点という統計数字は得点を生み出す可能性が低い環境に置かれた選手たちにとって不公平であるということです。
2人のエンゼルス選手の例
そのことはあるケースを例に説明できます。マイク・トラウトと言えばMLB史上最高の呼び名も高い選手ですが、2016年シーズンにトラウトが挙げた100打点はメジャーリーグ全体で20位でした。トラウトの打撃成績は打率.315/出塁率.441/長打率.550でした。トラウトと同じぐらいの数だけ打席に立ち、同じ打点数を挙げたカルロス・ゴンザレスとホセ・アブレイユはそれぞれ打率.298/出塁率.350/長打率.503と打率.293/出塁率.252/長打率.468を記録しました。ゴンザレスもアブレイユも素晴らしい選手ではあるのですが、トラウトが彼らより(そしてMLBの他の誰よりも)はるかに優れた才能の持ち主であることには疑いの余地はありません。それなのに、トラウトは打点ではランキングの下位になってしまいます。
同じ理由で、トラウトのチームメイトであるアルバート・プホルスは119打点を挙げて、MLBで4位に入りました。プホルスは既に最盛期を過ぎて、トラウトがそれにとって代わろうとしています。トラウトは2016年シーズンのほとんどの打撃成績においてプホルスを上回っていますが(本塁打は例外です。プホルス31本、トラウト29本でした)、打点数ははるかに少なくなりました。ですが、どの評論家もトラウトの方がはるかに優秀な選手であることを知っています。つまり、打点はまったく当てにはならないのです。
なぜ打点が当てにならないのか
力の衰えたプホルスがトラウトより多くの打点を稼げたことには3つの理由があります。1つ目は全盛期を過ぎたとは言え、依然としてプホルスが優秀な打者であることです。まだ本塁打や二塁打を放つ筋力は健在です。この点はプホルスが打点について影響を与えることができる部分です。後述しますが、打者の打撃能力が打点に関与する割合は39パーセントだと言えます。
2番目の理由はプホルスのチーム内における打順にあります。2016年シーズンのうち、プホルスは117試合でエンゼルスの4番を打ち、34試合で3番を打ちました。4番は塁上に走者がいる場面で打席に入る確率がもっとも頻繁に起こる打順です。なぜなら4番打者の前にはチーム内の最高の打者が3人前に並んでいるからです。当然、4番打者は打点を挙げるチャンスに多く恵まれることになります。もし塁上に走者がいなければ、本塁打を打たない限り打点は発生しないのですから。3番打者にも同様の理由で4番打者に比べるとやや少ない数のチャンスが回ってきます。
2016年に100打点以上を挙げた22人の打者のうち、17人が3番か4番を定打順にしていました。彼らの打撃が優れているからその打順なのか、あるいはその打順だから成績が良くなるのか、その辺りの見極めは難しくなりますが、3番目か4番目に打席に入ることで、下位打順にいるより多くの打点を挙げるチャンスに恵まれることは間違いありません。多くの場合、1番打者と2番打者には出塁率が高い選手が入るからです。
プホルスが多くの打点を挙げた3番目の理由は、彼の前に打席に入る選手が誰であったかにあります。プホルスが3番か4番に座り、トラウトは2番か3番で、常にプホルスの前にいました。
トラウトの出塁率は.441で、MLBで最高でした。そしてトラウトの前を打つことが多かったコール・カルホーンも高い出塁率を挙げていました。プホルスが打席に入るとき、この2人のうちのどちらか、あるいは両方が塁にいることが多く、打点を稼ぐチャンスが極めて多く回ってきました。仮にプホルスが他のチームで4番を打ったとしたら、これほどの打点を積み重ねることはできなかったでしょう。
選手自身が打点数に影響を与える余地は大いにありますが、一般的には打点とは得点圏に走者がいる場面にどれだけ遭遇するかにかかってきます。
能力が劣った選手がより多くのチャンスに恵まれることで優秀な選手より打点を挙げることがあります。それが打点という指標が不完全である証です。打点は部分的にしか表現できない絵であり、また打点に影響を与える要素の多くは選手のコントロール範囲外にあります。だからこそ、打点とはもっと慎重に用いられるべき指標なのです。
代わりに何を用いるべきなのか
打点とwRAA (Weighted Runs Above Average)を比べてみましょう。wRAAは打点と同じく、選手の生産性を測定するために累算される数値です。打点と異なる点は、wRAAはある選手の打撃成績のみを対象としていることです。それはどれだけ出塁し、また長打を放ったかということです。OPSと似ていますが、wRAAは積み重なった数字であり、確率ではありません(wRAAはOPSに似たwOBAという指標を用います。参照:なぜ打率に頼るのをやめるべきなのか)。
wRAAは選手が得点に直接関与することができる数字のみを測定します。その意味において、打点とwRAAには大きな違いがあります。ある打者が挙げた打点のうち、その打者の打撃能力が関与する割合は39パーセントに過ぎません。選手たちは実際にコントロールできる以上に高い打点を挙げることができるのです。
(翻訳:角谷剛)