【第5話】MLBドキュメンタリー番組『10月までの長い道のり』制作秘話

Jason Foster

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「引き受けた」

このドキュメンタリー番組のコンセプトは、ファンに通常は見られないものを見せ、通常は聞こえないものを聞かせる、というものだった。

一番ファンが興味を持っているのは、監督と選手たちが試合中に話す内容だ。

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監督はマウンド上で選手と何を話しているのか?投手コーチと何を相談しているのか?イニング間に何を話すのか?

簡単に言えば、「監督は一体何をしているのか?」ということだ。

1982年シーズン中50試合で、トーリの声をマイクが拾っていた。そこには、普段は耳にできない貴重な会話が数多くあった。

メディアに囲まれたニューヨークで選手と監督経験のあるトーリは、カメラやマイクに怖気づくことはなかった。しかし、この時は違っていた。監督と選手とで交わされる極めてプライベートな会話まで、カメラやマイクに拾われたからだ。

「慣れるまでに少し時間がかかったけど、一緒に働いてる仲間を信用していたから、引き受けたんだ。それだけのことさ。誰にも共有したくない野球の内幕だから、今までだったら受け入れてなかっただろう。でも、同じ組織の仲間だし、ボタンを押すのは彼らだから、信頼してた」トーリは語った。

撮影中、トーリはいつも快く接していたにも関わらず、クルーは自分たちをまるでストーカーのように感じていたようだ。

「基本的に我々は人のプライバシーを侵害してる。その人の考えが自分の考えだと思う瞬間もあったよ」シーズンを通し、ダッグアウトでトーリの映像を何時間も撮影した映像監督、ラファエル・オルティス・グズマンは語った。

時には、セントルイスの美容院の質や、『グッドモーニングアメリカ』に出演することなど、軽い内容の会話もあったが、マイクが捕えていたのは、常に監督としての言葉だった。稚拙なプレーに怒りを爆発させたり、戦術について話したり、選手を厳しくも父親のように指導するトーリの声だ。

監督からの叱咤激励を最も受けたのは、マーフィーである。彼は、1982年のMVPを獲得することになるのだが、まだまだ発展途上の選手だった。

「監督は時々、僕をからかってきた。『そこで何を考えてるんだ?』ってね。僕は神経質な選手には思われなかったけど、人が思ってる以上に繊細な人間だったんだ。そこに、監督は気付いてくれたんだよ」マーフィーは語った。

番組に出演することを少しためらうマーフィーであったが、トーリの気遣いと指導は確実に役立った。

「テレビに出ることが恥ずかしかったんだ。テレビはクールだけど、同時に大変だ」マーフィーは笑いながら語った。

時には、偶然捉えられた映像も、テレビ向きのエンターテイメントとなった。

ドジャースとの大切な試合で、トーリは審判の判定に激怒した。ファールエリアの壁の一部が倒れて、ファンがフィールドになだれ込んだことで、ブレーブスの得点が認められず3塁にランナーが戻されたからだ。

トーリは一歩も引かず、汚い言葉で長々と抗議を続けた。現在では、退場させられてしまうであろう行為も、1982年には何の波紋も広がらなかった。

ダイヤモンドは、リアルタイムでヘッドホン越しにそれを聞いていた。音響エンジニアのケン・ノーランドと目を合わせ、2人でこう言い合った。「ひどい音を拾っちまったな。」「編集を頑張ってくれよ。」

「ピー音を入れる必要があった」ダイヤモンドは笑いながら語った。「編集室に何日間もこもって、放送禁止用語を全部消したことを覚えてるよ。」

 

 

マイクが捉えた全ての他愛のない会話は、まさに野球の人間的な要素の一例だった。時には粗野であるが、常に本物だった。

「編集後の映像にピー音が入ってるのを見たよ。汚い言葉を使ってたわけではなく、本当にピーと言ってたんだと、みんなに言いたかった。この映像は売れないね。」トーリは語った。

しかし最終的には、マイクを装着することが、トーリのもう1つの日課となった。

「考えもしなかったよ。毎日、装着したんだぞ」トーリは語った。

第6話へつづく)

Jason Foster

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Jason Foster joined The Sporting News in 2015 after stops at various news outlets where he held a variety of reporting and editing roles and covered just about every topic imaginable. He is a member of the Baseball Writers’ Association of America and a 1998 graduate of Appalachian State University.