【第1話】ダルビッシュ有、ワールドシリーズへの軌跡

Muneharu Uchino

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2013年4月2日、テキサス州ヒューストン。

テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有は初回の先頭打者から26人連続でアウトに取り、試合は9回裏2アウトを迎えていた。
敵地のファンからスタンディングオーベーションを受けながら、ダルビッシュはセットポジションに入る。
打席には、ヒューストン・アストロズの9番打者、マーウィン・ゴンザレス。

この日、ダルビッシュが投じた111球をゴンザレスが打ち返すと、打球はダルビッシュの足元を抜け、センター前へと転がった。

ダルビッシュが思わず苦笑いを浮かべたのも束の間、マウンドにチームメイトたちが集まり右腕の肩を叩き、ロン・ワシントン監督がダルビッシュからボールを受け取る。
あと一人で完全試合を逃した男は笑顔から一転、悔しそうにダグアウトへと戻った。

 

 

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この日はダルビッシュにとって、メジャー2年目のシーズン初登板だった。

鳴り物入りでレンジャーズに入団した1年目、ダルビッシュはメジャーリーグへの適応に苦しんだ。
中4日の先発ローテーション、滑るボール、乾燥した空気、打者のパワー……

日本で圧倒的な成績を残したダルビッシュも、他の多くの日本人投手同様、アメリカで苦しんだ。
夏場には極度のスランプに陥り、シーズン防御力は一時4.57という、日本では考えられなかった数字にまで落ち込んだ。

それでもシーズン終盤に好投を続けたダルビッシュは、最終的にはシーズン16勝を挙げ、ボルティモア・オリオールズとのワイルドカードゲームでも好投した。
そして迎えたメジャー2年目のシーズン初戦で、キャリアベストゲームとも言えるピッチングを披露した。

2013年、ダルビッシュはシーズン序盤からメジャー屈指の投手として君臨した。

90マイル後半の速球と切れ味抜群のスライダーで驚異的なペースで三振を奪い、この年メジャートップの277奪三振を記録。
防御率もリーグ4位の2.83という素晴らしい成績を残し、サイヤング賞投票ではマックス・シャーザーに次ぐ2位につけた。

いよいよ日本人初のサイヤング賞投手誕生かと期待された2014年も、序盤から好投を続けた。
5月のボストン・レッドソックス戦では前年に続き「あと一人でノーヒッター」の快投。
ルーキーイヤーから3年連続でオールスターに選出され、3年連続10勝も達成した。

 

 

メジャーリーグでもスターダムを駆け上がったダルビッシュはしかし、その年の8月半ばにヒジを故障し、故障者リスト入り。
そのまま登板することなく、メジャー3年目のシーズンを終えた。

そして翌年3月、ダルビッシュはトミー・ジョン手術を受けた――。

第2話につづく)

Muneharu Uchino