今年も超停滞となったMLBのFA市場。開幕から2か月以上たって契約にこぎつけたダラス・カイケル(アトランタ・ブレーブス)やクレイグ・キンブレル(シカゴ・カブス)はまだ良い方で、実績を持ちながらマイナー契約を余儀なくされたベテラン選手も数多い。メジャーとは格段に落ちる契約内容に加えて、食事や移動など生活面での大きな変化は、選手本人だけではなく家族への影響も避けられない。
年々冷え込むFA市場…球宴出場、ゴールドグラブ賞の10年選手がマイナー落ち
MLBのFA市場の変化が及ぼす影響の1つに、ベテラン選手、特に30歳を越え、ピークを過ぎたと思われる選手たちがより苦しい立場に置かれるようになったことだろう。ある者は押し出されるように引退を選ぶ。だが、野球を続けたいと望むが故に、マイナー契約を結ぶベテラン選手も増えている。
メジャーで長い経験と輝かしい実績をもつ選手ほど、長年離れていたマイナーの環境にもう一度適応することが難しくなる現実があるとしても。
カルロス・ゴンザレス(33)は、2009年から昨シーズンまでをコロラド・ロッキーズ(背番号5)でプレイした後、昨年10月にFAとなることを選択した。そして、すぐに現在のFA市場が彼のような選手にとって大変厳しい状況であることを思い知ることになった。オールスターに3回選出され、ゴールドグラブ賞を3回受賞。2010年には首位打者のタイトルを獲得し、ロッキーズがポストシーズンに進出した3シーズンで大きな役割を果たしてきたゴンザレスでさえ、移籍先を見つけることが出来なかったのだ。
春季キャンプが終了する直前の3月19日になって、ようやくゴンザレスはクリーブランド・インディアンスとマイナー契約を結ぶことにこぎつけた。マイナーの春季キャンプでわずか数日の調整を行ったのち、ゴンザレスはインディアンス傘下の3Aコロンバス・クリッパーズでシーズン開幕を迎えた。この10年の間、わずかに故障後のリハビリ出場を除けば、ゴンザレスはマイナーの試合に出場したことはなかった。
「またマイナーリーグでプレイするとは思ってもいなかった。何しろ最後にマイナーにいたのは2009年だからね。忘れてしまうには充分な時間だ」と、ゴンザレスは米スポーティング・ニュースに語っている。
どれだけ過去に素晴らしい実績を挙げていても、ゴンザレスのような選手たちは、まだその準備が出来ていないうちに野球から引退するか、あるいはマイナーリーグに戻るかを選ばざるを得ない。
現在はワシントン・ナショナルズに所属するジェラルド・パーラ外野手もそんな経験をした1人だ。
「簡単なことではないよ。野球選手にとっては避けられないプロセスだけど、僕にとっては今回が初めてのことだったからね」と話す。
32歳のパーラは、キャリアのほとんどの期間をアリゾナ・ダイヤモンドバックスとロッキーズ(背番号8)で過ごした後、ゴンザレスと同様、昨年10月にFAとなることを選択した。元チームメイトのゴンザレスよりはだいぶ早かったが、パーラもまたマイナー契約を春季キャンプが開始されたばかりの2月にサンフランシスコ・ジャイアンツと結ぶことになった。パーラはジャイアンツの開幕40人枠に入り、1か月ほどをメジャーで過ごしたものの、5月初めには再度マイナーへ降格されることになった。パーラはマイナー行きではなく再度FAになることを選び、5月9日にはナショナルズとメジャー契約を結ぶことができた。
移動・食事などの生活レベルが激変…メジャーとマイナーの差
ゴンザレスやパーラのような選手にとって、たとえ短期間であっても、マイナーへ戻るということは、カルチャーショックに等しい。3Aであっても、メジャーとの生活レベルの格差はそれほどまでに大きいのだ。
遠征する際には、メジャーリーグのようにプライベート・ジェットのチーム専用機ではなく、マイナーリーグの選手たちは国内線の早朝便で他の乗客に挟まれたり、あるいは深夜の長距離バスで移動することになる。5つ星ホテルではなく、中級レベルのホテル、しかも他のチームメイトと相部屋で泊まるか、あるいは自費で自分だけの部屋を確保しなくてはいけない。
クラブハウスには栄養バランスを考慮した試合前後の食事が用意されることはない。代わりに置いてあるのは、試合前のサンドイッチ、試合の後には安く油っぽい中華料理、またはパスタが待っている。空港に戻れば、一般乗客にまじってセキュリティ・チェックの長い列に並ぶ。メジャーリーグではバスが専用機に横付けになるというのに。早朝にホテルに到着すると、チェックインまでの数時間をロビーで待つこともある。ようやく部屋に入ることが出来ても、荷物を置いたとたん、すぐに球場に向かわなくてはいけない。
カブス傘下3Aアイオワ・カブスでアナウンサーとして勤務するアレックス・コーエン氏は、「メジャーと3Aの間には本当に大きくて厳しい違いがあるのです。だからメジャーから3Aに行かざるを得ない選手たちがどれほど苦しんで、悔しい思いをしているかはよくわかります」
コーエン氏によれば、殆どの選手たちはフラストレーションを隠し、表面上は何でもないように振る舞うようだ。そして野球に専念し、メジャーに戻ることに集中する。だが、彼らが今いる場所とかつていた場所との違いがそれほどひどくはないなどと誤魔化すことはできない。
コーエン氏が見るところ、選手たちは似たような精神状態の変化を辿るようだ。「悲しみを乗り越える12のステージがあると思ってください。最初は拒絶されたと感じ、それについて怒り、悔しく思い、それが過ぎた後で、するべきことに集中できるようになるのです」
メジャーに戻れたパーラは、若手時代のように居場所を得るために戦う気持ちを取り戻すことが難しかったと言う。だが、パーラはポジティブに気持ちを切り替えることで自らを助けた。
「ネガティブな気持ちは何にもならない。僕らが変えることではないし、できることは何もない。毎日ハードにプレイをして、ベストを尽くすしかない」
家族を巻き込むマイナー落ちの慌ただしい移籍事情
一方のゴンザレスは、新しい組織になじむことに苦労した。まるで転職したり、転校したりするようだったと語っている。そして、ゴンザレスはそれを繰り返さなくてはいけなかった。5月26日にはインディアンスから解雇され、6月1日には新たなマイナー契約をカブスと結んだのだ。ロッキーズで10年過ごした後のわずか数か月で2つの組織を渡り歩くことになった。
「新しい場所に行くのは大変なことだよ」
10年間ロッキーズに在籍した後でチームを変わるうえで、ゴンザレスにとって最も大変だったことの1つに、そのことをどうやって子供達に説明するかだった。ゴンザレスには息子のサンティアゴと双子の娘カーロタとジェノバがいる。2人の娘はデンバーで生まれ、父親が紫色のピンストライプ(ロッキーズのユニフォーム)を着たところしか見たことがない。この春からクリーブランドに行くのだと彼女たちに説明するのは、ゴンザレスにとって簡単なことではなかった。
「子供達が理解するのは大変だったと思うよ。彼らは生まれた時からロッキーズしか知らなかったわけだからね。それなのに、家族でクリーブランドに行くのだと言った1か月後には、やっぱりインディアンスではなく、カブスを応援するんだよ、ってなったのだからね」
ゴンザレスにとっては、マイナー契約の時期が遅れて、春季キャンプに参加できなかったことも大きなストレスだった。いつもと同じように次のシーズンへの準備が出来ず、他の選手に遅れを取ったように感じたからだ。ゴンザレスが長年に渡ってメジャーリーガーであったことが、かえって状況を複雑にした。契約上、単にマイナーへ降格されるというわけにはいかず、野球選手であり続けるためには、新たなマイナー契約を結び直すことが必要だったのだ。
「FA市場があの様子だったから仕方ないことなのだけどね。どんな選手だって、春季キャンプに参加できなくなるのは嫌なものだよ。皆が毎年同じようにシーズンに向けて準備できるべきだよ」
ゴンザレスがインディアンスから解雇されるまでの打率は.210、OPSは.558だった。カブスに移ってからはやや成績は上向いたものの、それでも打率は.200、OPSは.668に留まっている。ロッキーズ時代は、ピークを過ぎたと思われる最後の2年間でさえ、これよりははるかに良い成績を残していた。
「やっぱりメジャーでプレイするには準備する時間が足らなかったと思うよ。これから追いついていけるように頑張らないといけないし、そうするつもりだよ」と、ゴンザレスはインディアンス傘下3Aで過ごしたシーズン当初を振り返る。
カブス入りしたゴンザレスは、6月3日にはメジャー契約に切り替わり、あやしくも同4日の古巣ロッキーズ戦でメジャー復帰を果たした。今もスタメンでカブスの主軸として踏ん張っている。ロッキーズの本拠地クアーズ・フィールドで打席に立った際には、かるてのファンからスタンディングオベーションを受けた。
メジャーに戻ることができたゴンザレスやパーラなどは、今のFA市場から考えれば、成功した例だと言えるだろう。野球をとりまく状況が大きく変化するなか、マイナー契約と言う予期せぬ事態にもうまく適応し、切り抜けたのだから。
ゴンザレスはこうも語っている。
「プロの選手である以上、適応していかなくてはいけない。困難な状況に慣れるしかないよ。もちろん選手として簡単なことではないけど、そうやって食べているわけだからね」
原文:MLB veterans who sign minor league deals face challenges on and off the field
翻訳:角谷剛
編集・校正:SNJ編集部
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