「彼らの仕事に感謝している」
『10月までの長い道のり』が記録した映像の意義は今でも色あせていない。
2012年9月、1982年シーズンの30周年を記念して、アトランタのCNNセンターにあるオムニホテルにて、マーフィーは元選手とファンのプライベートなパーティーを開いた。
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パーティーの数週間前に、マーフィーは『10月までの長い道のり』のDVDを出席予定者全員に送った。それは、オムニホテルのスクリーンで流され、マーフィー、ニークロ、ガーバー、3塁手のボブ・ホーナー、捕手のブルース・ベネディクト、そしてアナウンサーのバン・ウィエールンによる、生のコメンタリーがつけられた。
「見ていて面白いよ。内容だけじゃなく、80年代の服装や髪形も見られるからね」ダイヤモンドは語った。「この番組は、ブレーブスとアトランタ、テッド・ターナーとTBSの文化的な歴史の一部を独自の方法で見せていると思う。」
ファンはこの番組を見て、結果よりも過程が素晴らしかった82年シーズンを思い出せる。
「結果はひどかった。でも、波乱万丈のシーズン中盤が印象的だったから、プレーオフで完敗した事実は皆忘れていたよ。『ものすごくエキサイティングなシーズンだった』ってね」マーフィーは語った。
選手はこの番組によって、過去に置き去りにされそうな細部にわたる記憶を失わないことができる。
「年を取ると、忘れ去られてしまう。改めて感謝するよ」マーフィーは1982年シーズンについて語った。「彼らの仕事に感謝している。」
選手は皆、あのシーズンのドラマがさらに際立ったのは、このドキュメンタリー番組のおかげだと思っている。ファンに、普通では見られない野球の側面を見せたのだ。
「彼らは、素晴らしいプロジェクトを成功させた。結局、あの年ほどドキュメンタリー番組にふさわしい年はなかった。やりたかったことができた完璧な年だった」ガーバーは語った。
ダイヤモンドは、その賞賛は選手が受け取るべきだと考えている。
「これは選手たちの物語だ。我々は、ただそれをカメラに収めただけだよ。彼らの物語を成功に導いたのは、他でもない選手たちだ」ダイヤモンドは語った。
しかし、全ての賞賛とは裏腹に、『10月までの長い道のり』は野球の歴史の中で忘れ去られていっている。これは主に、ブレーブスの1982年シーズンばかりが注目され、この番組が野球ファンの間で広くアピールされないためだ。
「1つのシーズンだけを取り上げた番組なので、何度も再放送されることはなかった」ハンソンは述べた。
確かに、この番組を見つけることは難しい。YouTubeには何本かクリップが投稿されているし、海賊版のコピーなら入手できる。しかし、何十年もの間、全国的に放送されることはなかった。
つまり、あらゆる世代の野球ファンは、ブレーブスファンでさえ、この番組の存在を知らないのだ。正当な方法で、それを見つける可能性は低い。
DVD化や再放送が困難な理由の1つは、音楽の再ライセンス化に法外な費用がかかるからだろう。
「今、同じような内容の番組を作ったら、DVD化されるだろう。でも昔だったから、保存期間が短かったんだ」ダイヤモンドは語った。
しかし、正当に評価されてないわけではない。
この番組は年を重ねるごとに、カルト的人気を誇るようになる。1983年に番組を見た、年老いた筋金入りのブレーブスファンが一役買っている。磨り減ったVHSテープを喜んでコピーし、この独特な80年代アメリカの雰囲気を若いファンに紹介しているのだ。
ダイヤモンドやハンソンに、番組のコピーを入手したい、という手紙を送ってくるファンもいる。中には、ただ感謝の気持ちを伝えるだけの手紙もある。
フィードバックは常に感謝にあふれている。
感謝のEメールや動画の再生回数は、このユニークで革新的な野球のストーリーが未だにどこかで生きているということを証明している。
「『10月までの長い道のり』を覚えている人は、ほんのわずかかもしれない」ダイヤモンドは語った。「でも、覚えている人の心の中には深く刻まれているんだ。」
(完)
原文:The untold story of 'It's a Long Way to October,' a groundbreaking, forgotten baseball documentary
翻訳者:Atsuko Sawada