【後編】新世代の野球データ「BABIP」の良い点と悪い点

【後編】新世代の野球データ「BABIP」の良い点と悪い点 image

元記事:Stat to the Future: The benefits and pitfalls of using BABIP

(公開日:2017年9月28日)

筆者:ジョン・エドワーズ

 

BABIPに影響を与える他の要素は?

BABIPは運だけに左右される訳ではない。前述の通り、それぞれの打者には打撃のスタイルというものがある。ジョーイ・ギャロ(テキサス・レンジャース)はフライを打ち上げる傾向があるし、ディー・ゴードン(マイアミ・マーリンズ)はゴロを打つことが多い。ある打者が特定の種類の打球を多く打つ傾向があれば、そのBIBAPも他の打者と比較して変わってくる。

また、打球のスピードもBABIPに影響を与える。安打というものが投球を打ち返した結果である以上、打球が速い打者は遅い打者よりもBABIPが高くなることがある。

球場による差もある。一般論として、球場が大きければ野手の守備範囲はより広くなる。その結果、BABIPは上昇することになる。

議論はあるかもしれないが、BABIPに影響を与える最大の要因は、打球の「当たり」だろう。バットの芯でボールを強く捉えれば、守備はより難しくなる。一方、詰まった打球はスピードが出ず、野手は捉えやすい。打球の初速とBABIPにはおおむね相関性がある。俊足とは言えないにもかかわらず、アーロン・ジャッジ(ヤンキース)やミゲル・サノ(ツインズ)といった打者のBABIPが高いのは、ボールを芯で捉えているからである。

さらに、別の球場の要因もある。高地の球場では、気圧が低いことから打球の威力が増すため、BABIPも向上する。

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BABIPをどう評価すべきか?

BABIPは、選手によって見方が異なる指標である。一般的に、評価すべき数値の目安は0.300前後だが、選手によって幅がある。

ジョーイ・ギャロのBABIPは1シーズンを通して0.280を上回ることはない。一方、マイク・トラウト(ロサンゼルス・エンゼルス)はめったに0.320を下回ることがない。0.300を目安に選手の優劣を論じるのは正しくない。打席での攻め方の違いによっても変わってくるためだ。

同じく、生涯BABIPの数値も、選手の実力を完全に示したものとは言えない。今シーズンもヨンダー・アロンソ(シアトル・マリナーズ)やマイク・ムスターカス(カンザスシティ・ロイヤルズ)といった選手がそうしたように、バッティングのフォームを変更したり、打球の傾向が変われば、BABIPの数値も大幅に変化する場合がある。打者の実力を評価する上では、そうした打撃スタイルの変更も考慮しなければならない。

その上で、平均BABIPに対して極端に高い数値を記録している選手がいる一方で、逆に極端に低い選手もいる。そうしたケースはよくある。生涯平均のBABIPの数値と比較して、50ポイント以上高かったり、低かったりする選手は、極端な好調あるいは不振の状態にあり、今後調整に向かうと見ることができる。

例えば、マニー・マチャド(ボルティモア・オリオールズ)の生涯BABIPは0.301だが、今シーズン前半は0.239に落ち込んだ。このため、マチャドはシーズン後半に復調するという予想を立てることができた。実際、マチャドの後半戦のBABIPは0.300前後まで回復した。

打撃の調子が悪いにもかかわらず、非常に高いBABIPを記録している選手、あるいあその逆の選手も、注視する必要がある。ホセ・レイエス(ニューヨーク・メッツ)は今シーズン後半、0.326のBABIPを記録した。しかし、その打撃成績は、ボールを芯で捉えることができず、メジャー球界で最も不振な選手の1人だった今シーズン前半と比較しても、ほとんど上向くことがなかった。このデータから、レイエスの来シーズンの活躍は期待薄だと予想できる。

BABIPは投手成績の目安にもなる。打者がヒットを打つのが幸運によるものなら、逆に投手は不運ということになる。投手は様々なタイプの打者と対戦することから、投手にとってのBABIPの数値は0.300に近い水準に収束していく。しかし、内野ゴロや飛球で打ち取るタイプの投手は、ボールを芯で捉えられていないため、BABIPは低い傾向がある。

投手にとってのBABIPは、運や投球内容に加えて、野手の守備にも大きく左右される。FIPと防御率が大きく乖離すれば、BABIPへの影響も大きい。投手成績を測る場合、BABIPを参考にするなら、こうした要因を加味する必要がある。

BABIPは現代のデータ野球における奇妙な指標である。だが、近年、BABIPが身近になるにつれて、その有効な利用法も分かってきた。BABIPを知れば知るほど、選手の実力を測る上で強力な武器となり得るだろう。バットマンが悪役のペンギンに「BABIP!」と言わせて、退治するのと同じように。