避難所の光景は翌日、ダブルヘッダーが始まるまで、チーム全員の心から消えることはなかった。そして試合中、選手たちはこの悲劇を心の中から消し去ることができると思うか、との質問へのヒンチの答えは、アストロズがその時の状況に対して、ごくまっとうな考え方を持っていることを、証明するものだった。
ヒンチはこう答えた。
「言わせてもらおう。私は、選手たちにそれを、そのことを、心の外に押しやって欲しいとは思っていないんだ。選手たちには今週、そのことについて考えて欲しいし、来週もまた、考えて欲しい。来月も、そして半年後も、いつでも被害を受けた人々が何かを必要としていて、私たちに時間と、力と、お金と、手助けになることならなんでも差し伸べることができる時はいつでも、選手たちにそのことを考えていてほしいと思っている」
選手たちも、マネージャーとまったく同じように考えていた。
スプリンガーはこう語る。
「これからの2、3週間、試合の日、そうでない日、なんにせよ、チームは常にいろんな気持ちを抱えて、プレーすることになる。いろんな想いを持って、プレーする。この街は、この数日間で、いろんなことを経験してきた。そして野球は、この街の一部なんだ」
「願わくは、チャンピオンシップをこの街に、持ち帰りたい。今、この状況の中で、それは何らかの力になるはずだ」
MORE: “今なら無料視聴可能”、MLBを見るなら、……LIVE ON DAZNアストロズの一員として座った最初の記者会見が始まってすぐ、ジャスティン・バーランダーは、自分にとって新しいこの町の社会に、しっかりと根差したいと切望していると明言した。
「願わくは、チャンピオンシップをこの町に、持ち帰りたい。今、この状況の中で、それは何らかの力になるはずだ」と、バーランダーは語った。
「そして願わくは、ボクもその一部として貢献したい。そして町中の全員の気持ちが、そこに集結するような、素晴らしい何かを、この町に捧げたい」
その数分後、ルノーはこう話した。
「私たちは、この町が回復する過程における、自分たちの役割を理解しているつもりだ。そして好調の中で9月を終えようとし、ポストシーズンを長く戦っていく期待をはらんだ我々のチームは、ヒューストンの街にとって、素晴らしい気晴らしになることだろう」
そしてバーランダーはトレード以来、破竹の勢いで活躍している。
ヒューストンのユニフォームをまとってレギュラー・シーズン5試合に出場。防御率1.06という記録は、眼を見張るものがある。投球回数34回中、打者43人から三振を奪い、許したヒット数は17本、四球はほんの5回のみ。ミニッツ・メイド・パークで木曜日に行われるアメリカン・リーグ地区シリーズ初戦のレッド・ソックス戦では、先発する予定だ。
バーランダーは水曜日、試合前の記者会見で、こう話した。
「これが、ボクらが試合でプレーする理由だ。ここ、このインタビュー・ルームにこうしているだけで、懐かしい思い出が蘇ってくるようだ。興奮で満ちている。ワクワクする。ロッカールームにいるだけで、それを感じることができる」
チームとしてのアストロズもまた、素晴らしい。そう簡単ではないことだ。特に、このチームは1962年に設立され、ポストシーズンには10回出場したものの、これまでチャンピオンシップを勝ち取ったことはない、というアストロズにとっては。痛々しい試合ぶりで打ちのめされた経験はあまりにも多くて、ファンにとっては思い出したくないほどだ。
1980年、2004年、2015年にはシリーズ優勝の可能性もあったものの、それを逃した。1986年のナショナル・リーグ・チャンピオンシップシリーズでは、6戦目に16回で敗れた。ワールド・シリーズに進出したたった1度の2005年には、ホワイトソックスに敗北を喫した。
そう、痛ましい。テキサスくらいの大きさの、「毒持ち殺人アリ」のアリの巣に顔から先に落っこちたのくらい、痛々しいのだ。
そして2017年、タイトル獲得への道のりは、特にシーズン中にチャンピオンシップ有力候補チームとみなされた多くのチームがひしめいていた。
クリーブランド・インディアンスは今年102勝を挙げ、ロサンゼルス・ドジャーズは104勝した。ニューヨーク・ヤンキーズは強力なラインアップと、ブルペンには層が厚く、傑出した選手たちが控えている。ボストン・レッドソックスは、エースのクリス・セールがチームを牽引している。昨年の覇者シカゴ・カブスもまた再び参戦し、97勝のワシントン・ナショナルズも素晴らしいピッチングを見せ始めた。スーパースターの外野手、ブルース・ハーパーがまた、活躍し始めた。
アストロズは、ワールドシリーズで優勝するだろうか? 答えを知ることは、不可能だ。
ただ、アストロズは分かっている。チームには才能ある選手たちがいて、そして、どのチームよりも強いモチベーションがある。
スプリンガーはこう語る。
「スタジアムに出て、もし必要なら、壁を突き破る。自分たちがすべきことをする。それが、ボクらの仕事だ」
「なぜなら、ボクらの町・ヒューストンは、それを受けるに値するからだ」