【前編】新世代の野球データ「BABIP」の良い点と悪い点

【前編】新世代の野球データ「BABIP」の良い点と悪い点 image

元記事:Stat to the Future: The benefits and pitfalls of using BABIP

(公開日:2017年9月28日)

筆者:ジョン・エドワーズ

 

本稿は、野球における伝統的な指標と新しい時代のデータ分析を比較する、スポーティングニュース連載シリーズの第5弾である。「BABIP」は打撃力を測る重要な指標の1つだが、幸運に左右される側面もある。打撃力を知る上で、BABIPをどのように使えばよいのか、考察してみよう。

これまでの連載では、選手のパフォーマンスに関する様々な数値データについて考えてきた。例えば、守備の影響を除外した投手成績の指標である「FIP」(Field Independent Pitchng)と防御率(ERA)の違いや、長いスパンで見た時のERAとFIPの相関性(ほとんどの場合、相関性が見られるが、必ずしも当てはまるわけではない)などである。

今回は、打撃成績に関する記事の中で以前に紹介した非常に有効な指標「BABIP」(バビップまたはビーエービーアイピー)について取り上げる。

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BABIPの語感は、1960年代の人気コミック、バットマンの擬音語のようだ。バットマンに変身した主人公のロビンが、悪役のリドラーをパンチする時、「BABIP!」という擬音語が出てくる。だが、現代野球では、漫画の擬音語よりもはるかに重要な意味を持っている。

BABIPは「Batting Average on Balls on Play」の頭文字。「本塁打以外の塁打数」を、「本塁打、三振、四球以外の打数」で割った数値である。

例えば、ある打者の10打席の結果が、単打、二塁打、ライナーによるアウト、飛球によるアウト、四球、三振、単打、本塁打、内野ゴロ、飛球によるアウトだっとしよう。この10打席のBABIPは次のように計算される。

BABIP=3÷7=0.429

本塁打を除く塁打数を分子に、本塁打、三振、四球を除く打数を分母に置くことによって求められる。

 

なぜBABIPが重要なのか?

以前、打撃成績に関する記事でBABIPのことを簡単に取り上げたが、今回はもう少し突っ込んで詳しく説明したい。

BABIPは、打率と打撃成績全体を見る上で重要な指標となってきている。本塁打を除けば、すべての安打はフィールドの中で生まれる。より多くの打球が安打になれば、成績は向上する。逆に多くの打球が野手のグローブに入ってアウトになれば、成績は低下する。

では、BABIPに影響を与える要因とは何か?

BABIPは、運に大きく左右される指標である。だが、それは神話の魔法の類ではない。単純にコインの裏表をめぐる数学的な確率論である。

投げたコインの裏表を予測するのは難しい。ある打席でヒットが出るか、アウトになるかの結果も、コインの裏表のようなものだが、野球においては、影響を与える要因ははるかに多い。

ある打者はボールを引っ張る傾向が強く、また別の打者は打ち上げることが多い。だが、ボールが飛んでいく正確な方向を、野手が予測したり、打者がコントロールしたりするのは不可能だ。その意味では、打球がヒットになるかどうかは、運に依存していると言える。

また、そうした観点から考えると、打球というものは、不規則な連続性に左右される。10回コインを投げた時に表が6回出たからと言って、次に10回投げた時も表が6回出るとは限らない。コインを100回投げた時に表が56回出たからと言って、表が出る確率は56%である訳ではないのだ。

コインの表が出る正確な確率が50%であっても、10回のうち6回表が出たり、100回のうち56回表が出るのは、統計の誤差の範囲内である。だが、間違ってはいけない。コインを投げたサンプル回数の中で、表が裏よりも多く出たとしても、表が出る確率は常に50%である。

打球はそうした不規則な連続性の影響を受ける。ある打者の長期的なBABIPが0.300だった場合、一定期間に0.350を記録すれば、その打者は「幸運だった」、「幸運のお陰でいい成績を残せた」と言える。

逆に、その打者の一定期間のBABIPが0.250であれば、不幸にも成績が悪かったということになる。

だが、その両方の場合においても、打球が安打になるかアウトになるかの確率は変わらない。統計の誤差の範囲内なのだ。長いスパンで見れば、BABIPは一定の値に収束していく。10万回コインを投げれば表が出る回数が5万回に近づいていくのと同じ原理である。サンプル数が少なければ少ないほど、誤差の範囲は大きい。