【中編】ハリケーンを乗り越えた、アストロズの強さの真髄

Ryan Fagan

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2014年の夏の話に戻ろう。米『スポーツ・イラストレイテッド』誌は突如として、それまで頻繁に批判の対象になってきたアストロズの再建計画について、公然の目標日程を掲げた。それが、2017年10月だ。

3年半の期待によって、「いくばくかの」プレッシャーが蓄積されていった、というわけだ。

MLBの公式スケジュールによると、アストロズは8月29日にヒューストンに戻ってくる予定になっていた。

そして、それは、実現しなかった。

29日、ハリケーン・ハービーの猛攻撃は、わずかに止む兆しを見せ始めた、という状況だった。そのためアストロズはメキシコ湾の反対側で、対レンジャーズ戦3試合を闘った。そしてメジャーリーグは、この悪状況を、最大限に利用した。すべてのチケットは10ドルで売られた。ファンは好きなだけ近くまでグラウンドに近寄ることができ、売上金はすべてハリケーン救済のために寄付された。だが、そこには不安が満ちていた。

アストロズは、ヒューストンに帰りたいと願っていた。無力であることを悔やんでいた。ヒューストンで、自分の町で、愛する人々がハリケーンに立ち向かわなければいけないという状況の中、自分がその人々ともに、その場にいないことを嫌がった。野球選手としては、なぜ自分たちが同じくテキサスを本拠地とするレンジャーズとヒューストンで戦うことができないのか、ということは、理解していた。だが、人間として、何よりも、ヒューストンにいたいと願っていた。

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8月31日、東部標準時13時10分に開始するシリーズ最終試合の後、ヒューストンに戻るよう、MLBからの通達があった時、クラブハウスの雰囲気は、直ちに変化した。

「どんなところに足を踏み入れることになるのか、よく分かっていなかった」と、スプリンガーは「スポーツ・ニュース(SN)」に対して、こう話した。

「でも、家に帰れる。それがただ、うれしかった」

そう言い終えるにつれて顔に浮かんだ笑みが、その気持ちを物語っていた。

選手、また監督らがヒューストン行き飛行機の機内にいる間、アストロズGMのルノーはバーランダーのトレードにケリをつけるべく、デトロイトGMのアル・アビラと交渉の交渉を続けていた。決定打を繰り出すべく、プレッシャーは高まっていった。「権利放棄」の条件を盛り込んだトレードが締め切られた7月31日の時点で、アストロズがスター選手数人を検討しているという噂はあったものの、特に大きな動きは見せていなかった。

何の動きもなかったことは、アストロズの選手たちには不満だった。ダラス・カイケルは失望を隠さなかったし、そしてその2日後、ジョシュ・レディックはカイケルに同調した。チームにとって、8月は不満の月だった。シーズンの序盤でメジャーリーグにおけるベスト記録を出しながら、続けていた快進撃は止まってしまった。オール・スター前後の小休止の後、アストロズは2試合以上の連勝はしておらず、8月の戦績は11-17だった。ごく厳しいメジャーリーグ通の目で見れば、チームは明らかに「カンフル剤」が必要だったし、新しい選手たちがプレーオフで戦う権利を得るためには、それは8月31日までに、「それ」が必要だった。

バーランダーとの交渉は、最後の瞬間まで、もつれこんだ。

「締め切り、というものほど、取引を推し進める力になるものはないものだ」

ルノーGMは、翌日の会見で、笑いながらこう話した。

契約成立の噂は瞬く間に広まった。選手たちはヒンチにショートメールを送ったり、電話をしたりして、それが事実かどうかを確認したがり、「いいニュース」が出ていないかどうか、ツイッターを何度も読み込んだした。リハビリ中のカルロス・コレアは、契約についてのニュースを聞いた時、喜びのあまりPS4のコントローラーを宙に投げ上げて、壊してしまったほどだった。

バーランダーは、単なる「追加」というだけにとどまらなかった。キャメロン・メイビンはアメリカン・リーグ西地区におけるヒューストンのライバル、アナハイム・エンジェルスの外野手としてプレーし始めていた。その時点で、エンジェルスが第2ワイルド・カードに出場するにはほんの1試合分足りなかったことを考えれば、ルノーがメイビンをトレードしたことは、多くの人に油断を与えることとなった。

それはまた、メイビンも、同様だった。

「実際のところ、かなり驚いたよ」
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メイビンはスポーツ・ニュースに対し、こう話した。

9月2日、新しいクラブハウスに足を踏み入れたほんの30分後のことだ。
「ボクは自分が(アナハイム・)エンジェルスをその時いた場所に押しやるために、大きく貢献した、と感じていたんだよ。だから、驚きだったね。でもいい意味で、楽しみな驚きだったよ。今年のメジャーリーグではベストのチームの1つに、行くわけだから」

だが、「締め切り」の日の翌日に目を覚ました時、アストロズの選手たちは直ちにヒューストンで起きている現実の真っただ中に、運ばれていった。9月1日にメッツ戦を戦う代わりに、MLBはアストロズがその翌日、ダブルヘッダーで1日に1試合を行うようスケジュールを調整した。これにより、アストロズの選手たちは野球とは関係のない現実に向き合う日を得た、というわけだ。

「家族や友人、ファンたちと話をすることができて、そして再建を始められたのは、良かった」とヒンチは語る。

「私たちにとって先週はまさに、カオスだった。でもヒューストンの町と、その周囲の地域が経験していることに比べたら、まったく、何でもないことだ。だから、昨日、我々が自分の町に戻ってくることができて、腰を落ち着けて、少しだけそこにつながることができたは、本当に必要なことだった」

選手、コーチの一団は、ミニッツ・メイド・パークからほど近い、ジョージ・R・ブラウン(GRB)コンベンション・センターに設置されたハリケーンの避難所を訪れた。そこで目にしたものは、全員にとって決して忘れることのできないものだった。

「ボクらはその被害がいかに壊滅的なものだったかを、目の当たりにした。そして本当に多くの人々が、すべてを失ってしまったのだと、実感したんだ」とラディックは語る。

「避難所にいた人々が持っていたのは、ほんの2、3の袋だけだった。避難所の小さなスペースにおいておけるだけのものだ。本当に、心を揺さぶられるような辛い光景だった」

後編に続く。。。

Ryan Fagan

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Ryan Fagan, the national MLB writer for The Sporting News, has been a Baseball Hall of Fame voter since 2016. He also dabbles in college hoops and other sports. And, yeah, he has way too many junk wax baseball cards.