年俸総額でMLB第2位のロサンゼルス・ドジャースと第28位のタンパベイ・レイズが対戦する2020年ワールドシリーズは「持つもの」と「持たざるもの」の戦いだと言われる。クレイトン・カーショウとムーキー・ベッツの2人だけの年俸を合わせた金額がレイズ全選手の年俸総額とほぼ同じなのだ。低予算の好選手たちを集めたレイズのなかでもひと際目立つ特別な存在が新人のランディ・アロサレーナだ。5年前に20歳でキューバからメキシコへ亡命した外野手が2020年プレーオフのヒーローになるまでの軌跡とは――。
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ランディ・アロサレーナは間違いなくロサンゼルス・ドジャースの投手スカウティング・レポートでワールドシリーズにおいてもっとも警戒すべき打者のトップに挙げられているはずだ。それにしても、このことを3か月前に予想できた者がいるだろうか?
アロサレーナは既に全米から注目を集める存在になっているし、レイズがワールドシリーズの舞台でドジャースと世界チャンピオンの座を争うことで、その知名度はますます高まるだろう。このキューバ出身の外野手は家族を支えることを望んで、5年前に母国から亡命した。そしてこのプレーオフを巡って大きな話題を提供する1人となった。アロサレーナはここまでに7本の本塁打を放ち、アメリカン・リーグ・チャンピオン・シリーズの最優秀選手賞(MVP)に輝いた。あとに残されているがあるとしたら、前例のないシーズンに、誰もがチャンピオンになると予想しなかったチームが、無名選手の活躍によってもたらせる4つの勝利だけだ。
1. ランディ・アロサレーナはキューバからメキシコに亡命した
アロサレーナはキューバの北西地方、ハバナから自動車で4時間半ほど離れた場所に生まれた。そして人生の最初の20年間をキューバで過ごした。だが、多くのキューバのアスリートたちと同じように、アロサレーナも亡命することを選んだ。20歳のときに、アロサレーナは小さなボートでキューバからメキシコへ渡った。ニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、それは8時間も大きな波にもてあそばれる過酷な旅であった。アロサレーナがメキシコに到着した時には現地に1人の知り合いもいなかった。
やがてアロサレーナはあるエージェントを介してティファナ近くにある野球チーム「トロス」へ入団した。このチームはメキシカン・マイナーリーグに所属するチームである。アロサレーナはそこで首位打者と盗塁王になった。その活躍が、MLBのセントルイス・カージナルスと契約金125万ドル(約1億3千万円)でマイナー契約を結ぶことに繋がった。
2. カージナルズはランディ・アロサレーナをレイズにトレードした
アロサレーナは2019年にカージナルズからメジャーリーグでのデビューを果たした。その年の成績は20打数で打率3割ちょうどだった。プレーオフでも5試合に出場した。レイズは2020年シーズンを前にアロサレーナを獲得することを狙ったが、それはこの小さなサイズのサンプルだけが理由ではなかった。アロサレーナはフィールドのどこにも広く打ち分けることができるし、3Aに所属した2019年は打率.358と12本の本塁打を打っている。さらにその前年は2Aでの91打数で打率.396を挙げているのだ。
レイズはアロサレーナとホセ・マルチネスを獲得するために、大胆なトレード戦略を敢行した。トップ有望株投手のマシュー・リベラトーレとマイナーリーグのエドガルド・ロドリゲス捕手を放出し、ドラフト指名権も譲渡したのだ。そのトレードが行われた当時はマルチネスの方が注目される存在だった。マルチネスは守備に難があると思われたが、アメリカン・リーグでは指名打者(DH)として使えるからである。むしろアロサレーナはおまけのように思われていた。
3. ランディ・アロサレーナは新型コロナウイルス検査で陽性となった
7月23日、アロサレーナはマイナーリーグの新型コロナウイルス感染者リストに入った。アロサレーナがレイズのシーズン前キャンプを中止に追いやるかもしれなかったかどうかは明らかではないが、感染者リスト入りによってその危機は回避された。
その代わりに、アロサレーナは8月30日になるまで今シーズンの試合に出場することができなかった。それまではレイズの代替トレーニング施設で回復と復調に専念していた。地元紙『タンパベイ・タイムズ』によると、隔離期間中のアロサレーナは料理を覚え、1日に300回の腕立て伏せを自らに課していた。
4. ランディ・アロサレーナはパワーヒッターに変貌した
アロサレーナはパワーヒッターには見えない。身長5フィート11インチ(約180.3センチ)、体重185パウンド(約83.9キロ)の体格だ。だが、2018年のメキシカン・ウィンターリーグにおいて260打数で14本の本塁打を放ち、そのパワーの片鱗を見せ始めた。その後の2019年にはマイナーリーグでの343打数で15本の本塁打を放った。
だが、それらの事実はMLBにアロサレーナのこのポストシーズンでの活躍を予期させるものではなかった。ワールドシリーズに入る前に、アロサレーナは47打数で7本の本塁打を記録している。バリー・ボンズ、カルロス・ベルトラン、ネルソン・クルーズが記録したポストシーズン全体の最多本塁打数である8本にわずか1本に迫っているのだ。アロサレーナの本塁打の何本かは逆方向の右中間スタンドに飛んでおり、この体格の選手としては破格のパワーだと言える。
RANDY. AROZARENA.
— SportsCenter (@SportsCenter) October 18, 2020
Rays go up 2-0 as he sets a MLB record for most HRs in a postseason by a rookie 💥 (via @MLB) pic.twitter.com/nzJtEhPOQh
5. ランディ・アロサレーナはレイズの最新の掘り出し物である
ワールドシリーズに入る前、レイズが2020年シーズンでアロサレーナに支払った報酬は$90,335(約948万円)に過ぎない。今シーズンが短縮されたことと、アロサレーナ自身がメジャーに戻ってくるのが遅れたこともその理由に挙げることができる。それでも、例えばドジャースがこの短縮シーズンでムーキー・ベッツに支払った1千万ドル(約10億5千万円)とは比べようもないほどに小さな数字だ。なにしろ、アロサレーナとベッツに支払われた金額には100倍以上の違いがあるのだから。このプレーオフでアロサレーナが放った本塁打1本につき$12,905(約135万円)ということになり、これもまたチームにとって優しい価格のように思われる。
6. ランディ・アロサレーナはポストシーズン記録を塗り替えようとしている
ワールドシリーズ前にアロサレーナが記録した7本の本塁打は既に新人記録である。それ以前の記録は2008年にエバン・ロンゴリアが打った6本で、この年もレイズがワールドシリーズに進出する原動力になった。そして前述の通り、アロサレーナはボンズ、ベルトラン、クルーズがもつポストシーズン最多本塁打記録の8本にあと1本まで迫っている(2020年のポストシーズンが今までより長いことには注釈が必要ではある)。
このワールドシリーズ中にアロサレーナが破る可能性があるポストシーズン記録は以下の通り:
- 新人最多安打数: 22本(デレック・ジーター、1996年);アロサレーナはここまで21本(訳者注:アロサレーナは第2戦で1安打を放ち、タイ記録となった)
- 最多安打数: 26本(パブロ・サンドバル、2014年)
- 最多塁数: 50(デビッド・フリース、2011年); アロサレーナはここまで47
(翻訳:角谷剛)
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