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ジャンカルロ・スタントンは今や逃げも隠れもできない。
弱小球団に所属していた時も、この強打の外野手がホームランをかっ飛ばせば全米で大々的に報道されたものだ。一方、ひどいスランプに陥った場合は、マーリンズという凡庸の泥沼に紛れて目立たずに済んでいた。しかし今やスタントンは、ニューヨークで常にスポットライトを浴びる存在だ。ヤンキースというとてつもなく高い期待を背負うチームに所属する限り、低迷すれば必ずメディアの厳しい批判にさらされざるを得ない。
今季、ヤンキースはスタントンともども出遅れており、主砲に疑念の目が向けられるのも仕方がない。しかし、スランプは何も今に始まったことではないことにヤンキース・ファンは留意すべきだろう。
野球選手はたびたびスランプに陥るし、スタントンとて例外ではない。そして若手ならば(28歳のスタントンもそうだ)、何とかして抜け出せるものだ。スタントン級の一流選手が低迷する姿は確かに見るに忍びないが、実際には今よりひどい状況に陥ったことだってある。
FanGraphsが提供する、スタントンの15試合ごとのwOBA(得点への貢献度)を2015年までさかのぼって検証してみよう(以下のグラフは、短期的に見た彼の生産性を示していると考えてもらっていい)。
右端の下降線は2018年のスランプを示していて、回復の見込みもないように思える。しかし、これはスタントンにとってキャリア最悪のスランプではない。59本塁打を放ち、ナ・リーグMVPに輝いた2017年でさえ3度、今と同じレベルまでwOBAが下がっている。そして2016年には、今よりひどいレベルの長期スランプに陥っているのが分かる。
彼のような最高峰のバッターにとっても、こうしたスランプは異例ではなく、むしろ起こる可能性は十分にあるのだ。
そうは言っても、すべてのスランプが同様なわけではない。スタントンの主要なスランプに関するStatcastとFanGraphsの統計を集め、2015〜2018年のさまざまな数値と照らし合わせてみた。その結果、スタントンを低迷させる最大の要因は、発射角の異常ということが分かったのだ。
期間 | 打球の角度 | インプレー打率 | wOBA |
3-29-2018 to 4-19-18 | 10.8 | 0.297 | 0.308 |
8-27-2017 to 9-15-2017 | 8.9 | 0.167 | 0.302 |
6-13-2017 to 7-3-2017 | 9.1 | 0.191 | 0.286 |
5-10-2016 to 6-9-2016 | 15.6 | 0.205 | 0.205 |
4-05-2016 to 4-22-2016 | 9.5 | 0.276 | 0.306 |
4-29-2015 to 6-01-2015 | 18.6 | 0.206 | 0.314 |
2015-2018 | 12.8 | 0.293 | 0.382 |
スタントンの平均発射角は12.8度で、出口速度の面で最適な7度とホームランに最適な27度の間にうまく収まっている。だからこそ、レーザービームのようなライナー性のホームランが放てるのだ。しかしスランプ時のスタントンは違う。球の上っ面を叩きつけたり、下側をかすって打ち上げたりしてしまうために、BABIPが低下し、生産性が著しく落ちている。しかしながら2018年のスランプの原因は発射角の問題ではなさそうだ。BABIPは2015〜2018年を通算した数値とほとんど変わっていない。それならば今年のスランプは先例がないほどひどく、ヤンキース・ファンは大いに心配すべしということなのだろうか?
結論を急ぐのはやめよう。同僚のアーロン・ジャッジと同様、スタントンは四球と三振も多い。2018年は三振率が異常に高く、この点は他の低迷期と共通している。
スランプに陥った時期 | 四球率 | 三振率 | wOBA |
3-29-2018to4-19-18 | 10.10% | 36.70% | 0.308 |
8-27-2017to9-15-2017 | 15.20% | 24.10% | 0.302 |
6-13-2017to7-3-2017 | 10.60% | 27.10% | 0.286 |
5-10-2016to6-9-2016 | 11.10% | 42.20% | 0.205 |
4-05-2016to4-22-2016 | 11.30% | 33.90% | 0.306 |
4-29-2015to6-01-2015 | 11.20% | 32.10% | 0.314 |
2015-2018 | 11.40% | 27.40% | 0.382 |
2018年の三振率は2015〜2018年の平均値を9.3%も上回っていて、2016年5〜6月のスランプに次いで二番目に悪い数値となっている。
スランプ時の「プレート・ディシプリン」に関する数値を検証すると、スタントンが今よりさらに悪い状況を過去に経験していることが分かる(FanGraphsの統計より)。
スランプに陥った時期 | ボールゾーンスイング率 | ストライクゾーンコンタクト率 | コンタクト率 | 空振り率 | 三振率 |
3-29-2018 to 4-19-18 | 31.30% | 70.30% | 62.40% | 17.10% | 36.70% |
5-10-2016 to 6-9-2016 | 34.30% | 71.70% | 55.20% | 20.40% | 42.20% |
2015-2018 | 29.80% | 80.30% | 67.90% | 14.20% | 27.40% |
現在のスタントンは、ストライクゾーン外のボールに頻繁に手を出しがちで、ゾーン内の球を打てず、空振りも多くなっている。これらすべての結果として、三振率が上昇しているのだ。
2016年5〜6月のスランプでは、まったく同じミスをさらに大々的に犯している。つまり2016年と比較すれば、ミスの頻度が低く、現在のスランプの方が軽度ではあるが、それでもスタントン本人の痛手は大きい。
それなら低迷の直接原因は何か? FanGraphsのクレイグ・エドワーズ(そしてヤンキースのアーロン・ブーン監督)は、スタントンがどういうわけか速球に対応できていない点を挙げている。その結果としてストライクゾーン内の球に空振りしてしまうのだ。興味深いことに、スタントンは2016年にも同じ問題に直面しており、フォーシームの18.1%に空振りしている。2018年は21.4%となっており、2015〜2018年の平均値である12.2%を大きく上回っている。つまり、これが彼にとって最大の問題点のようだ。
速球についていけないために、空振り三振を喫するのはタイミングの問題であり、スタントンはこれを過去に克服している。
そして1カ月かけて取り組んだ結果、2016年も十分な成績を残したのだ。しかも今回のタイミング問題は2016年ほど悪くはないため、より容易に復調できる可能性が高い。
低迷しているとはいえ、スタントンが猛打者であることに変わりはない。解決の糸口をつかんだ彼とヤンキースを止められる者はいないかもしれない。
原文:Fear not, Yankee fans: Giancarlo Stanton has been through this before
翻訳:Chikako Sakamoto