ヤンキースのニール・ウォーカーが、今年のFA市場の経験を「憂慮すべき事態」

Nick Stellini

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ニューヨーク、ヤンキースタジアムのロッカールームは、IMGアカデミーとは全く違う。

ニール・ウォーカーは、今年、フロリダ州ブレイデントンのIMGアカデミーで行われたスプリングトレーニングに参加した。これは契約先未定のFA選手たちのためのトレーニングで、20年以上ぶりに開催された。ウォーカーは、そこでトレーニングを重ねている最中に、ヤンキースからのオファーを受けた。オファーを即座に受けたウォーカーは、キャンプを喜んで後にした。さらに重要なことは、彼が強豪ヤンキースと契約したことだ。 

かつては、30代で平均以上のスキルがあるFA選手たちは、比較的容易に新しい契約先を決めることができた。強豪チームは彼らを獲得し、チームの中核を補強する、もしくは、弱いチームなら、彼らと契約してロースターを拡充させ、彼らをプロスペクト獲得のためのトレード要員としていた。ベテラン選手は貴重な商品であり、その貢献度から、どの球団も欲しがったものだ。 

一流のFA選手を除いては、もはやその状況は以前とは異なるようだ。

ウォーカーは、2011年から2017年まで、fWAR2.0以上をマークしている。3月初めまで、具体的なオファーはなかったが、ヤンキースが興味を示した。それは、ウォーカーとExcel Sports Management社に所属する彼の代理人が考えていた青写真と根本的に異なっていたが、驚くべき進歩だった。 

「僕らは、自分に合うチームを考えた結果、少数のチームにターゲットを絞っていた。ヤンキースは、その他のチームと位置付けていたんだ」ウォーカーはSporting Newsに対し語った。「考えていたチームが、他のFA選手たちと契約を結んでいったので、最初の候補を諦め、次のグループにターゲットを移した。2月になって、スプリングトレーニング直前となり、ヤンキースは依然、候補に残っていた。ヤンキースだけが、確かなオファーをしてくれたんだ」。

ウォーカーはヤンキースと1年400万ドルで契約を結んだが、わずか1年前、彼はニューヨーク・メッツから1年1,720万ドルのクオリファイリング・オファーを受けている。昨年は、メッツとミルウォーキー・ブルワーズで活躍し、fWAR2.2をマークし、オフシーズン、再び自身の存在感を示した。 

今オフ、FA市場に出た多くの選手たちが、同じような経験をしたはずだ。多くのベテラン選手が、期待していたよりもかなり低い年俸での契約を強いられた。中には、マイナーリーグや独立リーグと契約をした選手もいるのだ。 

その理由は明らかだ。多くのチームが、ロースターの若返りと年俸の削減に重点を置いている。若い選手は、最低限の年俸で雇える。彼らの契約はリスクが低く、トリプルAとメジャーを簡単に行き来させることができるので、チームは柔軟性のあるロースターの実現が可能だ。ロースターに若い選手をそろえておけば、彼らが期待以上の利益を生み、ぜいたく税を支払う義務から逃れられる可能性がある。 

これは、ビジネスとして成功だ。しかし、中堅クラスのベテラン選手を締め出すことになる。いずれにせよ、ブライス・ハーパーやクレイトン・カーショウなどのスーパースターが、次のオフ、入札合戦ののちに大金を受け取ることは疑う余地がない。それ以外のベテラン選手たちは、息を止めて自分の順番を待たなければならないのだ。 

また、年俸を下げるために、チーム間で結託しているのではないか、といううわさもあった。この疑惑に対する具体的な証拠はまだ出ていないが、今年のFA市場が突然、様変わりしたことは実に奇妙だった。あたかも、全球団が中堅のベテランFA選手との契約に躍起にならないように、取り決めたように見えた。ウォーカーは、今オフの状況について聞かれた際、その主な原因は年齢にあると述べたが、彼はその他の要因が関係している可能性があると思っている。 

「他に多くの要因があったのかもしれない」彼は述べた。「でも、特に中堅クラスの野手について、球団が気にしていたのは年齢だったように思える。球団は、若い選手を低い年俸で雇う道を探っていた。確かなことは分からないけどね。同じような立場の選手がたくさんいる。長年プレーをしてきたけど、オールスターに選ばれるほどではない選手だ。球団は、若くて年俸の低い選手たちが、そのような立場のFA選手たちと同じような活躍ができると信じているに違いない」。 

年齢による圧力は、メジャーリーグに限ったことではないと、ウォーカーは語る。 

「(独立リーグと)契約した選手の何人かと話をしたんだ」彼は述べた。「ロングアイランド・ダックスに行った選手と、他の独立リーグと契約した選手たちだ。彼らも同じ境遇だよ。マイナーリーグとの契約やメジャーのキャンプに招待される道を模索してるんだ。彼らの多くは、僕らと同じように、たらい回しにされているんだよ」。 

若手にこだわることも理解できる。ベテラン選手を放出すれば、その分、より年俸の低いプロスペクトを獲得できる。マイナーリーグの年俸は、チームではなく、その親組織が支払うのだ。 

「球団は、この先1、2年を見据えたチーム作りに重点を置いているようだ」ウォーカーは述べた。「だからといって、この先も同じような状況が続くことは望まない」。 

選手たちの不満は募っている。シカゴ・カブスのクリス・ブライアントは、選手のために保障を求めて戦っている。ロサンゼルス・ドジャースのケンリー・ジャンセンは、新たな労働協約を交渉するために、ストライキも辞さない考えだ。ウォーカーはまだ具体的なアクションを起こしていないが、今後、交渉のために規定概念の枠を超えていく方法があると考えている。 

ウォーカーは、数多くいる中堅クラスの選手の1人に過ぎず、運が良かった選手の1人だ。彼は、スプリングトレーニングが終わる前に契約に合意した。しかも強豪チームだ。彼は今後、打席で苦戦するかもしれないが、マーク・レイノルズに比べたらだいぶましだ。レイノルズは昨シーズン、コロラド・ロッキーズで復調を見せたものの、開幕後にワシントン・ナショナルズとのマイナー契約を余儀なくされたのだ。昨年38本塁打を記録したローガン・モリソンは結局、ミネソタ・ツインズと1年契約に至った。メルキー・カブレラは、先日、マイナーリーグと契約をしたばかりだ。 

「球団や状況によって異なると思う」ウォーカーは述べた。「でも経済面から見ると、このオフシーズンに1ドルも費やさなかった球団がある。これは、選手にとってみれば、憂慮すべき事態だよ」。 

FAになる前の数年間も、ウォーカーは毎年、1年契約でプレーしていた。ピッツバーグ・パイレーツとメッツをいつでも戦力外になる可能性があった。現在の野球の契約システムにおける暗黙の合意では、選手は6年ほどの割安な契約を結び、その見返りに、FA後にたくさんの年俸が支払われる仕組みだ。 

選手がスーパースターでない限り、この契約は適用されない。ウォーカーは、今後の選手生活を、1年契約でプレーしていく覚悟があると述べている。おそらく数年前だったら、彼と同等の経歴を持つ選手は、もっと条件のいい契約を結び、安定した収入が見込めたはずだ。ウォーカーは、これまでの選手生活で何百万ドルも稼いでおり、不満があるわけではない。だからと言って、特にウォーカーのような選手の契約システムを支持することにはならない。 

ヤンキースは、22日の試合にグレイバー・トーレスを招集した。彼はチームのトッププロスペクトだ。ウォーカー同様、ポジションは二塁である。トーレスが即戦力となれば、ウォーカーは二塁を奪われる。グレッグ・バードがDLから復帰すれば、一塁手としても起用されない。若くてどこでも守れるブランドン・ドルーリーが戻ってくれば、ウォーカーの居場所はなくなる。年俸は保証されているので、いずれにしても、ウォーカーは契約通りの支払いを受ける。 

代わりにタイラー・オースティンが放出されるかもしれない。だが、もしもウォーカーが出されるとしたら、再び混沌としたFA市場に身を投じて、新たな居場所を見つけなければならない。 

2018年シーズン、ウォーカーは開幕からスランプに陥っている。その理由は、ア・リーグでプレーをするのが初めてで、二塁以外のポジションに適応するのに時間を要し、寒波が長く続いているからだ。しかし、彼はチームの中で存在感を示そうと必死でもがいている。FAのキャンプでも、メジャーでプレーをするために、自分の価値を証明しなければならなかった。彼の目の前には今、新たなハードルが立ちはだかっている。

原文:Yankees' Neil Walker calls recent free-agent experience 'alarming'
翻訳:Atsuko Sawada

Nick Stellini