マイナーリーグの低年俸問題を斬る【後編】MLBの「経済格差」

Ryan Fagan

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マイナーリーガーの苦しい生活に関しては、セントルイス・ディスパッチ紙とジ・アスレチックに優れた記事があった。

今度は卑劣な米国娯楽保護法について考えてみよう。2年前から、このふざけた名前の法令はMLBのオーナーたちが求めていた。マイナーリーガーの給料はあまりに低く、連邦の最低賃金法に抵触するものだった。

球界の実力者たちはその点に全力を注いだ。MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーはジ・アスレチックとの、マイナーリーグのパット・オコーナー会長はベースボール・アメリカとのインタビューで、何がチームに関する仕事で何が個人の仕事なのかの定義について語っていた。選手たちの実際の労働時間を計算したら軽く週40時間は超えるだろうが、事はもっと複雑だというのだ。

ただ、ここでひとつ言いたいことがある。球界がマイナーリーガーにAHLの選手の半額でもいいから支払えば、訴訟はなくなるであろう。マイナーリーガーたちは、他のプロスポーツの同様のレベルの選手たちに比べて恥ずかしくない程度の給料を望んでいるだけなのだ。それは法外な要求ではなかろう。「最低賃金」という言葉は会話の一部ではない。。「時間外」は問題ではない。

訴訟がなくならないのは、マイナーリーガーは労働基準を使ってMLBに法律で認められた最低限の給料を出してもらいたいと願っているからだ。まったくどん欲ではない。

MLBがいかにして米国娯楽保護法を、関係のない政府歳出法案に紛れ込ましたのか? 2年前、同様の法案が二人の上院議員によって提出された。世間の反応はきわめて迅速でかつ厳しいものだったので、一日たつと二人のうちのひとり、イリノイ州選出のチェリー・バストス議員が突然方針を転換した。この法案への支持を取り下げたのだ。「最後の24時間で、さまざまな問題点が浮上してきた。そのため、支持することをやめた」(バストス議員)。

そこで代わりに議会でロビー活動を繰り広げ、政府歳出法案に盛り込んだのだった。一般的に、正しいことに使われる金額は少ない。マイナーリーガーの最低年俸は3万ドルに上がった。コストは球団当たり年間わずか450万ドルである。2017年に粗利益100億ドル以上をあげたリーグにとって、ほんのわずかな額でしかなかろう。こうしたよからぬ評判を消そうとしないのはなぜなのか不思議に思わないだろうか?

オーナーたちや多くのファンが話題に上げる違う観点を紹介しよう。ドラフト上位で指名された選手たちが、高額の契約金を手にすることだ。2017年のドラフトでは、72人が100万ドル以上の契約金を手にした。疑いなく、生涯を変えるような大金である。2012年にスタートしたシステムによって状況は変わった。指名順位によって予め契約金の目安が設定される。その合計額を超えるとペナルティが科せられる。何巡目にいくら使うかは球団の自由になっていて、本当に欲しい選手に多額を回すことになる。一握りの高評価の選手以外には、ありがたくないシステムである。

こう考えてみよう。2017年ドラフトの10巡目指名の目安は13万7100万ドルから13万1300ドルだった。かなりの金額だ。入団時に13万ドルももらえれば、マイナーリーグで2年くらい過ごしてもOKであろう。ところが実際は、10巡目指名30人のうち23人は1万ドル未満だった。10万ドルではない。1万ドルである。目安額以上で契約できたのはアストロズのカイル・セラーノただひとりだった。他球団は9巡目までに許された金額を使ってしまったのだ。

昔は違っていた。現在のシステムになる2年前の2010年、10巡目指名28人のうち契約金が7万5000ドル未満だったのはたったひとりだけだった。17人は10万ドル以上だった。2017年は6人であった。

ここはいま一度強調しておきたいポイントだ。米国保護法が政府歳出法案に盛り込まれたのは、ドラフト上位指名者への契約金が理由ではない。システムはある程度機能している。ドラフト後にマイナー契約を交わすと、7年間は球団の支配下に置かれる。FAになるまでは年俸を抑えられる。昨年のドラフトで、1万ドル未満で入団した10巡目指名の23人はどうなるだろう? 税金を引かれたら手元に残るのは6000ドル程度だ。これをできるだけ長い間もたせるようにしなければならない。

MLBは2年間で合計260万ドルを使って議会でロビー活動を行い、法案を通した。その狙いはただひとつ。最低年俸を貧困ラインぎりぎりの線に置いておくことだ。

これは決して正しい行いではない。NBAやNHLのマイナーリーガーに対する処遇に比べると、ブローシャスの言葉を借りればMLBは「あきれるほど酷い」。

原文:NBA's new G-League salaries raise major issues with MLB's 'appalling' minor league minimums
翻訳:Hirokazu Higuchi

Ryan Fagan

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Ryan Fagan, the national MLB writer for The Sporting News, has been a Baseball Hall of Fame voter since 2016. He also dabbles in college hoops and other sports. And, yeah, he has way too many junk wax baseball cards.