ベンチコーチの役割は過去30年間、メジャーリーグにおいて日に日に重要性を増してきたが、ベンチコーチが実際のところ何をしているのか、あまり公には知られていない。実際のところベンチコーチは、ベンチで選手たちをコーチするよりも遥かに多くのことをしている。
クリーブランド・インディアンスのベンチコーチであるブラッド・ミルズは、かつてモントリオール・エクスポズとボストン・レッドソックスでもベンチコーチを務めていた。アリゾナ大学時代のチームメイトであるテリー・フランコーナともう40年以上に渡り付き合いのあるミルズは、インディアンスのベンチコーチとして適任者であった。
スポーティングニュースはこの度、ミルズにインタビューを敢行。表には見えにくいベンチコーチの仕事について、話を聞いた。
スポーティングニュース(SN):ベンチコーチとして、監督をサポートすること、そして何か特定の采配を提案することのバランスをどのように取っていますか?
ブラッド・ミルズ(BM):ひとつ重要なことは、監督を何かについて不安にさせたくはない、ということです。私はテリーを、テリーのやることを全面的に信頼しています。そして彼は、私が彼のことを全面的に信頼していることを理解しています。
監督を不安にさせたり、ベンチコーチにサポートしてもらえないと感じさせたいわけがありません。もしテリーが私の提案に同意しなければ、それは全く構いません。彼が決定を下した瞬間、私の頭は彼がしたいこと、彼が取りたい方法へと切り替わります。その姿を選手たちや他のコーチにも見せる、それが私のマインドセットです。同意できない場合は、上司である彼の意見を尊重します。そして私は、全員が100%理解することに努めます。80%ではありません。75%でもダメです。ハーフ&ハーフ(50%)でも。彼が望むのは、100%です。そういうものなのです。
SN:あなたは2010年から2012年にかけて、ヒューストン・アストロズの監督を務めました。監督を経験したことは、あなたのベンチコーチとしての考え方にどのような影響を与えましたか?
BM:監督経験が私の助けになっていることは間違いありません。その経験が最も活かされる場面は、監督が間違っているかもしれないけれども、しかし正しい、という場面です。私が言っていることがわかるでしょうか。監督が一度決めたらすぐにマインドセットを100%変えて、その判断を支持するのです。
今も昔も、私はテリーに「あの場面は驚いたよ」と言います。すると彼は「どういう意味だい?」と言うのです。そして私は「あの場面はあの選手を使うと思っていたよ」とか「あの場面ではバットを振らせると思っていたよ」とか、まあその手のことを言います。すると彼は「なぜそう思った?」と私に尋ね、そこから議論が始まります。
正直に言うと、私たちは随分と長い間一緒にいるので、昔ほどは頻繁に議論はしません。とはいえ私は会話の最後には、あるいは1日の最後には、テリーが下した決断を100%支持するのです。
SN:フランコーナと密に仕事をしていて、彼が監督として成功している理由は何だと思いますか?
BM:私がベンチコーチとして仕えた監督は、他に一人しかいません。フランク・ロビンソンです。彼が素晴らしい監督だったことは間違いありません。しかし、私たちの友情、私たちの関係を脇に置いても、テリーは私が見てきた限り最高の監督の一人です。ダグアウトにいると、あらゆる決定の裏で何が行われているかが正確にわかります。私は他のダグアウトに入ったことがないので、相手チームの監督が行う思考や決断についてはわかりません。しかし、私がひとつ言えるのは、テリーは2~3イニング先を見据えて試合を進めることにとても優れているということです。彼はディック・ウィリアムズから、多くのことを学びました。私たちはエクスポズで、ディックのためにプレーしていたのです。ディックは常に先を読んで采配を振るうことに長けていました。
SN:フランコーナとウィリアムズは、監督としてどのような違いがありますか?
BM:テリーとディック・ウィリアムズはもちろん違いましたが、優れた野球脳を持っている彼らは、おそらく近しい考えを持っていました。テリーが野球を学び始めたのは、彼が6歳のときに遡ります。彼はメジャーリーグのクラブハウスに出入りし、スプリングトレーニングのフィールドで育ったのです。テリーが一生を通じて培ってきた経験は、ほとんどの状況を上手く対処する彼の手腕を形成していると思います。
SN:ベンチコーチとして、選手とのコミュニケーションはどれくらい重要ですか?
BM:試合は選手たちが行うものです。サラッと言いましたが、心の底からそう思っています。選手との関係を築き、共に前進することで最高の結果を得ることができる、と認識することはとても重要です。選手たちひとりひとりに役割を全うしてもらい、誇りを持ってもらうことが大事です。選手たちは一度それに気付けば、私たちがどれだけ彼らを気にかけているかを理解します。選手たちにはベストを尽くして欲しいのです。
SN:野球が複雑に発展した今日、チームはベンチコーチなしでやっていけるのでしょうか? 言い換えると、今日の野球で発生する多くの責任を監督が管理する、その手助けをするためにベンチコーチは不可欠な存在なのでしょうか?
BM:かつてはベンチコーチなしで野球が成り立っていましたし、今も成り立つでしょう。監督やベンチコーチなしでチームが戦う場面を目にすることはあります。たとえば親族の不幸があったり、子供の卒業式に出席するため、監督やベンチコーチがチームを離れることはあります。その場合、チームは監督とベンチコーチの連携なしで3~4試合を戦います。しかし、ダグアウトの中で話ができる誰かを持っているというのは、監督にとって間違いなく良いことです。私が担う最も重要な仕事の一つは、ただその場にいてテリーと話すことです。今日の野球はベンチコーチなしでも成り立つのか? 答えはイエスでしょう。しかし、ベンチコーチがいた方が良いのか? それも間違いなく、イエスでしょう。
(完)
原文:What does an MLB bench coach do? Indians' Brad Mills explains his role
翻訳:Muneharu Uchino