今日のMLBでは、投手の分業化と専門家が進み、先発完投型が死語となりつつあるなか、2019年のワールドシリーズで対戦するワシントン・ナショナルズとヒューストン・アストロズは、ともにリーグ屈指の先発投手陣を誇る。近年のリリーフ投手偏重のトレンドを止めて、先発投手の復権に繋がることになるだろうか。
"死語"になった先発完投型投手
ジャスティン・バーランダーがMLBデビューを果たした2015年には年間投球回数が200回を越えた投手が50人いた。10年後にはその人数はほぼ半分に減った。過去3シーズンにおいては、わずかに15人の先発投手が200回の壁を越えたに過ぎない。その現役生活の期間において、バーランダーやその同種とみられる先発投手たちは球界のトレンドからは急激に遠ざかった存在となった。
このような変化の背景には様々な原因を挙げることができる。MLBのブルペンには以前より多くのスペシャリストで溢れ、とくにスピードガンの数字でスタンドを沸かせる投手が増えている。2018年シーズンにおいて、先発投手が投じたファストボールの平均球速は92.3マイル(約148.5キロ)だったが、リリーフ投手のそれは優に1マイル(約1.6キロ)以上は上回る。
2008年シーズンでは100マイル(約160キロ)以上の球を投げた投手は20人以下だったが、2015年シーズンには47人に増えている。今年のポストシーズンではここまで47球が100マイル以上と『Statcast』(MLB公式データ解析ツール)で計測されたが、そのうちの35球がリリーフ投手によるものだ。
バーランダーは2011年にMLB最多の251回を投げている。今シーズンもまた最多投球回数のタイトルを手にしたものの、その数字は223回に落ちている。その2011年と2019年の両シーズンにおいて、バーランダーが先発した試合数は34で変わりはない。野球界全体のトレンドがどちらを向いているかは明らかだ。
2019年のワールドシリーズはヒューストン・アストロズとワシントン・ナショナルズの対戦で10月22日(日本時間23日)に始まる。色々な面で興味深い対戦だが、その中でも特に注目に値するのは、投手陣の起用法について大きな影響があるかもしれないことだ。
ナショナルズがワールドシリーズ進出を決めたのはマックス・シャーザー、ステフェン・ストラスバーグ、アニバル・サンチェスらの先発投手陣の働きが大きい。その2日後、大手全国紙『USA Today』のボブ・ナイテンゲール記者は自身のツイッターにおいて、バーランダーの「ナショナルズとアストロズの成功は長い回数を投げる先発投手の価値を他のチームにも思い出させるだろう」というコメントを明かした。
バーランダーの言葉通りとすれば、ブルペンをフル活用することがここ数年のトレンドであったが、今年のワールドシリーズはこの戦略の転換を促すことになるかもしれない。
アストロズのワールドシリーズ進出においても、バーランダー自身に加えて、ザック・グリンキー、ゲリット・コールで形成する先発投手トリオの力によるところが大きい。敗れたニューヨーク・ヤンキースにはこのトリオに匹敵するほどの力量を持った先発投手が不足していた。アメリカン・リーグ・チャンピオンシップ・シリーズにおいて、アストロズはバーランダー、グリンキー、コールの3人合計で31回を投げたのに対し、ヤンキースはジェームズ・パクストン、田中将大、ルイス・セレビーノの3人で23回2/3に留まった。それはつまりヤンキースのブルペンにより多くの負担がかかったことを意味する。
一方のナショナルズはセントルイス・カージナルズを4連勝で下してワールドシリーズ進出を決めている。最初の2試合はサンチェスとシャーザーがあわやノーヒットノーランかと思わせる快投を見せ、第3戦ではストラスバーグが7回1失点と好投した。この3人はロサンゼルス・ドジャーズを相手にしたディビジョン・シリーズでは全45回のうち25回を投げているし、ワイルドカード決定戦ではミルウォーキー・ブリュワーズを相手にシャーザーとストラスバーグの2人でわずかに1回を除いて試合すべてを投げ切っている。
バーランダーらの活躍が継投型の投球戦略に一石を投じるのか
リリーフ投手に過度の役割を求める野球界のトレンドは今まさにピークを迎えているようだ。2018年にタンパベイ・レイズの「オープナー」作戦が同チームのウィキペディアに書かれるほどの注目を集めると、同年のワイルドカード決定戦においてオークランド・アスレチックスがその作戦を採用した。今年のアメリカン・リーグ・チャンピオン・シリーズ第6戦においても、アストロズはブラッド・ピーコック、ヤンキースはチャド・グリーンを先発させ、この2人は合計で2回2/3しか投げなかった。両チームがともにブルペンをフル活用したこの試合だけでも合計で14人の投手がマウンドに上がった。
1916年のワールドシリーズ第2戦と比較してみよう。ボストン・レッドソックスのベーブ・ルース、ブルックリン・ロビンズのシェリー・スミスの2人だけが投げたこの試合は延長14回に及んでいる。
バーランダーがデビューした2005年のワールドシリーズではシカゴ・ホワイトソックスがアストロズを4連勝で下している。ホワイトソックスの先発投手陣、マーク・バーリー、ホセ・コントレラス、フレディ・ガルシア、ジョン・ガーランドの4人はシリーズ全41回のうち28回1/3を投げている。
そのわずか11年後、クリーブランド・インディアンズのテリー・フランコナ監督は先発投手陣の半分を失った状態でワールドシリーズ第7戦を迎えた。インディアンズをそこまで引っ張ってきたのはアンドリュー・ミラーだった。ミラーはディビジョン・シリーズとアメリカン・リーグ・チャンピオン・シリーズを合わせて無失点、ワールドシリーズでも合わせて8回を投げて3失点の大活躍で、インディアインズを世界一の座にあと少しのところまで導く原動力となった。この2016年のワールドシリーズでは、当時シカゴ・カブスのクローザーだったアロルディス・チャップマンは絶対に落とせない第5戦で最後の8アウトを奪う力投でカブスをシリーズ敗退の窮地から救った。
ミラーとチャップマンの2人は同年のワールドシリーズで2人合わせて15回を投げているが、カブスの先発投手だったジョン・レスター、カイル・ヘンドリックス、そしてジェイク・アリエッタの3人の投球回数はそれよりも少ない。
この3年前のポストシーズンにおいてフランコナ監督が採用したブルペン偏重の戦略を球界全体での先発投手陣の投球回数低下と単純に結びつけることはできない。だが少なくとも今年のポストシーズンにおいては、200回以上の投球回数を誇る投手らのおかげで様子が異なっているようだ。
今年のワールドシリーズほどに才能に満ちた先発投手たちが揃うことは稀であるし、野球界の投手起用法に一石を投じる結果になるかもしれない。3年前のポストシーズンがその後のリリーフ投手の役割を大きくしたように、バーランダーのような投手たちが今度は先発投手の復権を促す可能性がある。
(翻訳:角谷剛)
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