コロナウイルスと診断されたメジャーリーガーはどうなる? 専門家にインタビュー

Joe Rivera

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MLBはその歴史において様々な困難に直面してきた。労働問題によるストライキや戦争などでシーズンが中止したこともあった。そして今は世界的な新型コロナウイルス危機に直面している。

新型コロナウイルスは春季トレーニングのさなかに今シーズンを中断に追いやった。開幕日は3月から7月23日に延期されたうえ、現在のこの国を取り巻く状況は数か月前から何も良くはなっていない。今までのところ、憂慮するに値する数の選手がコロナウイルス検査で陽性と診断されているし、しばらく球場で見られない選手も少なくない。

そのうちの何人かはすでにチームに戻ってはいるが、それはこの病気の後遺症が彼らの人生に影響しないという意味ではない。 同じように、この新型コロナウイルス危機がなんらかの形で今年のスポーツにダメージを負わせることは間違いない。

実際に選手たちはどのような影響を受けるのだろうか? MLBが今シーズンを終了させるチャンスはあるのだろうか?

スポーティング・ニュースはニューヨーク大学ランゴニー健康研究所で臨床医学准教授と旅行医学プログラムのディレクターを務めるスコット・ワイゼンバーグ博士にインタビューを行った。感染症の専門家であるワイゼンバーグ博士は、いくつかの副作用、可能性がある長期的な健康への影響、そして2020年シーズンに向けたMLBの計画概要について、詳細に語ってくれた。

(編集者注:博士の回答は長さと明確性のために編集されている)

 

スポーティング・ニュース(以下 SN): 新型コロナウイルスで陽性とされた選手たちは、どのような回復をしていくのか、説明してもらえますか?

スコット・ワイゼンバーグ博士(以下 博士): 新型コロナウイルスに感染した人の症状は様々です。全く無症状の人もいれば、軽い症状の人、重症に陥る人もいます。咳や発熱を伴う肺炎のような症状になることが多いですが、他の症状になる例も多くあります。症状が出た人の多くは、それが数週間続きますし、時には再発することもあります。もっとも重篤の患者は数か月も続くことがあります。

しかし、平均的な患者は病院に来るほどのことにはならず、数日から数週間で回復します。それは個人によって大きく異なります。まったく症状を感じない人もいます。新型コロナウイルスからの回復についても、同じように個人によって大きく異なります。まったく病気にならないか、数日で回復する人もいます。多くの人は1~3週間ほど病気になり、元の体力を取り戻すにはある程度の日数がかかります。ここでも個人差が大きくあります。入院が必要なほどの症状があった人は、正常時の健康を取り戻すまで、つまり彼らが以前の強度で運動ができるようになるまでには、1か月かそれ以上かかることもあります。

しかし、それよりもはるかに早く回復する人もいますので、個人に依存するところが大きいと言ってよいでしょう。入院がどれだけの長さになるかはケース・バイ・ケースです。これからも多くの人が新型コロナウイルスに感染するでしょうが、さほど病気にならずに、そしてずっと早く回復する人もたくさんいます。

 

SN: 死を除いて、選手たちの長期的な健康に関して、最悪のシナリオとは何でしょうか?

博士:私たちもそれを学んでいるところなのです。肺の問題が長期に渡るかもしれない懸念はあります。それは症状が軽い人も重い人も含めてです。しかし、今のところ、はっきりとしたことは言えません。

血栓症の危険もあります。選手たちは頻繁に移動を行いますが、そのことはコロナウイルス以前から血栓症の原因になるかもしれないと考えられていました。それがさらに悪しき相乗効果をもたらすものかどうかはまだわかりません。肺への長期的な影響と血栓症が、私がもっとも心配することになるでしょう。

他にも、コロナウイルスはある人にとっては全体的なエネルギーや運動の耐久力に影響を及ぼすことも考えられます。しかしながら、コロナウイルスが平均的な人にどれだけの影響を及ぼすかを知るためには、長期的にも短・中期的にも、データが決定的に不足しています。他の感染症の例から推測するしかないのが現状です。

感染症の終期で疲れ果てた人々、例えば伝染性単核球症にかかった人ですが、1週間で元気になる人もいれば、元の状態に戻るまでに3か月ぐらいかかる人もいます。コロナウイルスについても同じことが言えます。以前の運動ルーティンに戻れない人は必ず出てくるでしょうし、一方ですぐに回復できる人もいるでしょう。

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SN: 新型コロナウイルス検査で陽性になった選手は2回連続で陰性と診断されないとチームに戻れないことになっています。検査で陰性になった後でも、その選手からコロナウイルスが他の選手に伝染する危険はありますか?

博士: 患者の大多数を占める外来患者には確実にあります。人々が病気になる直前と病気になった後の最初の数日間がもっとも伝染する可能性が大きい期間です。

CDC(米国疾病予防管理センター)が症状をベースとしたスクリーニングをする際(MLBが採用している検査方法とは異なりますが)、監視期限を10日後に設定しています。それは今までの知見から、病気になってから数日間を過ぎた後にその病気を他に伝染させることは非常に稀であるという考えに基づき、10日間という日数に決めたのです。

MLBは検査の結果によって可否を判断するシステムを採用しています。そのために、2回連続で陰性になることが求められるのです。それは次のような考えに基づくものです。もし検査結果が2回連続で陰性になったとしたら、それはつまり病気になってから10日以上経過しているとみなすことができます。入院するほどの重症ではなく、そしてステロイドのような彼らの免疫システムを損なう薬物を受け取っていなければ、2回連続の検査で陰性になり、さらに発病後10日以上たった人が他の人に病気を伝染させることは考えにくい、ということです。

繰り返しになりますが、例外は重症者で免疫システムを抑制するために薬を投薬されていた場合です。その人数はこれから少し増えるでしょう。別の彼らが直面するであろう問題は、既に回復して、医学的には伝染性がないと考えられた人たちのなかに、PCR検査では陽性となった人が多くいることです。この問題が数週間、あるいは数か月間続くこともあるでしょう。

そうなると、こんなことがありえます。誰かが回復し、少なくとも症状がなくなり、他の人に伝染させる可能性が極めて低いと思われても、検査では陽性とされることもありえるということです。そのため、いったん検査で陽性になった選手たちの中には、その後の検査で陽性と診断され続け、チームに戻ることができない選手が出てくることになるでしょう。これと同じことは病院でも起きています。検査で陰性の結果を得る目的で、別の医療施設に移る人もいます。

 

SN: もう一度確認させてください。PCR検査で陽性となった人は他の人にウイルスを伝染させる危険が本当にないのですか?

博士: 医学関係者の中では合意が取れていることの1つだと思いますが、回復期に入った人は、たとえ検査結果が陽性であっても、それは他の人に伝染させる危険があることを意味しません。

CDCのガイドラインは検査の結果によって可否を判断するシステムを採用しており、それはとても慎重な評価基準です。もちろん、それでも100%であるとは言えないわけですが。韓国の事例研究では、最初に感染してから1か月以上に渡って陽性結果が出続けた人がいることが報告されていますし、さらには症状が再発した例もあります。それでも、そのような人たちが他の人にウイルスを伝染させたとする科学的根拠は何も見つかっていません。

つまり、PCR検査で陽性結果が出続けていて、そして回復している人がウイルスを他の人に伝染させる可能性は極めて低いと言えるのです。

 

SN: もしある選手がコロナウイルスに感染した当日に検査を受けなかったとします。その場合、どれだけ早くその選手はチームメイトに伝染させる可能性がありますか?

博士:これについても完全にわかっているわけではありませんが、どうやら感染したその当日に陽性とはならないようです。病気になるのは2日後から14日後までの間のようです。多くの人はおよそ5日間ぐらいです。

少なくとも1つの研究が示すところでは、陽性になった当初はウイルスの活動は低レベルの状態で始まり、翌日か2日後ぐらいにピークに達します。そのことから、検査を一日置きで行うことは積極的かつ理にかなった方針だと言えるでしょう。なぜなら、潜伏期にある個人が、チームメイトに伝染する前か、あるいは伝染する危険が高まる前に、検査で判明する可能性が非常に高いからです。

しかし、それでもいくらかの危険はあります。ある人が今日は陰性だと診断されたとしても、明日は陽性になる可能性はありますし、その場合でも次の日まで検査されないわけですから。だからこそ、ソーシャル・ディスタンスを守ること、室内ではマスクを着用すること、その他すべての社会が講じるべき予防策をMLBも実行するべきなのです。

危険は屋外でもゼロになるわけではありませんが、それでもかなり低いものになります。野球場で感染者と接したとしても、それが短時間ならば、感染の危険性はかなり低いでしょう。

 

SN: MLB選手たちが感染を防ぐのはどれだけ難しいことになるでしょうか?

博士: この病気が社会全体に広がっている以上、野球場以外の場所で感染し、ウイルスを内部に持ち込むことを完全に防ぐのは、大変難しいことになるでしょう。一日置きで行う検査がそのような個人を素早く判別し、野球関係者たちの間に感染が広がるのを防ぐことを期待するしかありません。仮にある選手が極めて慎重に外出を控えたとしても、その選手に14歳の息子がいて、彼が外からウイルスを家庭内に持ち込むかもしれません。コロナウイルスの感染は長時間の濃厚な接触によることがほとんどです。つまり家庭内の接触が大きな危険性をはらんでいるのです。

選手達とその家族全員が他人と会うことに極めて慎重にならなくてはいけません。彼らは室内で他人と長時間の濃厚な接触をさけるべきなのです。そこにはバーやレストラン、そして学校も含まれます。選手たちがずっと家庭内か外部から感染しないということは想像しづらいですし、検査で陽性になる選手は出てくるでしょう。その感染がチームメイトやMLB内の関係者たちに広がらないことを期待するしかありませんが、何らかのケースは必ず起こるはずです。

 

SN: NBAとMLSは全チームを1か所に集める「バブル」と呼ばれるやり方で対応しようとしています。移動はコロナウイルスに接触する危険性を高めます。この2020年において、「バブル」計画とチームが移動するやり方を比較して、どう思われますか?

博士: バブルの方がコントロールしやすい環境を作るでしょうね。先ほど言いましたように、米国内の多くの地域で感染が広がっている以上、選手たちやその家族たちが外部から野球のコミュニティ内に病気を持ち込む可能性があるわけですから。それはすべての地域がどのような状況にあるかによって異なりますが。

ニューヨーク州のように、積極的な社会衛生対策によって、これからの2週間で感染が縮小していくことになるといいのですが。社会全体における感染が下火になれば、選手たちがウイルスを内部に持ち込む危険も下がります。そうでなければ、大変な困難が待ち構えているでしょう。

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SN: ニューヨーク市の医師として、博士はマスクを着用することの重要性をどのように説明しますか?

博士: マスクを着用しない人たちを非難はしません。なぜなら、医療関係者の中でも2月や3月、それに4月に入ってからでも、マスクについては賛否両論があったからです。ですが、コロナウイルス感染の大部分が、激しい呼吸や会話、あるいは咳をしている人々と密閉された空間で長時間接触することによって起こるということは、疑いの余地がありません。

症状がない場合でも、この病気を伝染させる可能性があります。そしてマスクを着用することはウイルスが人から人へと感染する可能性を低めます。私たちが病院内で使っているものや一般的なものまで、マスクにも様々な種類があります。そのどれも完璧ではありませんが、効果は必ずあります。マスク着用が感染リスクを大幅に低めることには疑問の余地はありません。

(翻訳:角谷剛)

Joe Rivera