イチローは「ミスター・リードオフマン」

Hitoshi Sugaya

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「Batting-first Fiftyone Ichiro-Suzuki Rightfielder」。大リーグの球場でこのアナウンスがとうとう聞かれなくなった。イチローの現役引退が現実に起きた。長嶋茂雄や王貞治のように永遠にプレーし続ける選手の一人、と思っていたファンが圧倒的だった。

大リーグで3089本、日本での1278本を合わせると、実に4367安打。まさに、打ちも打ったり。大リーグ記録4256安打を持つピート・ローズが追い越されたとき不快感を示したが、米球界はこぞって祝福している。オフィシャルレコードに載らない世界記録とはいえ、ニッポン男児の誇りである。

イチローは、実は主軸の強打者ではない。それは本人がもっとも理解していたと思う。オールスター戦でのランニングホームランによるMVPは有名だが、公式戦ではさほど記憶に残る一打はない。むしろ守備での見せ場が多かった。いわゆるお膳立ての役目を忠実に果たしたといっていい。

このようなタイプは長距離打者比べると、トレード要因になる可能性が高い。そういう危機感があるから、イチローは練習に練習を重ね、体調維持に神経を傾け、常時出場を心掛け、それを実行した。故障者リストに入ることはほとんどなかったのはその証である。

ベンチへ下がるイチロー

「自分が外国人であることを痛感した。孤独感もあった。安打を(日米で)4000本打ったけれど8000回苦しんだ」と引退の席で吐露した言葉に生きざまが言い表されていた。大リーグは今、12、3か国の選手がひしめいている。多国籍の争いは人種の生存競争でもあり、外国人は使い捨てとも思う扱いをされることもある。

2012年のシーズン中にマリナーズからヤンキースにトレードされたとき、おそらく“選手後半期”と自覚したことだろう。先に大リーグ入りした野茂英雄も晩年は渡り歩いたし、松井秀喜はワールドシリーズのMVPになりながら出された。米国のファンからすれば「ベーブ・ルースだってほっぽり出されたんだぜ」と感傷はまずない。

メディアとの闘いもある。米国は「昨日より今日」を指摘する。前日にサヨナラ安打を打っても今日のチャンスに三振したらたたかれる。「昨日のはまぐれだったのか」と。イチローが最後の日本遠征のため契約したとき、「なんで(老いぼれを)使うんだ」と批判した。日本は「過去から現在をみる」から実績のある選手に対してはやさしい。

大リーグにおけるイチローの最大の貢献は、野球の面白さを思い出させたことだと思う。攻守走プラス頭脳。大きな図体でホームランを打ち合う単調な試合にうんざりしていたときにスピードエンジンを搭載したイチローが現れ、「タイ・カッブの再来」といわれた。

タイ・カッブは1900年代初めに活躍した三拍子そろった選手として知られる。そのころに登場したのが本塁打のベーブ・ルース。「野球は攻守走で戦う競技」とカッブがいえば、ルースは「ホームランは一発で相手をつぶせるぜ」と応酬。以後、ホームラン打者に重きを置いた歴史が続く。イチローは伝統的野球ファンが待ち望んでいた選手だった。

打席へ向かうイチロー

これまでのイチローの野球人生を振り返ると、人に恵まれたといえる。無名のか細い高校生の素質を見抜いたオリックスの三輪田勝利スカウト。入団後、二軍から引き揚げた登録名をイチローとした仰木彬監督。一軍起用を進言したのは300勝投手の米田哲也だった。そしてマリナーズのスカウトは「俊足と強肩。陸上選手のようだ」と。その都度、チャンスをものにしたところにイチローの非凡さがあった。

イチローが大リーグで打席に立ったのは1万700回ほど。四球647を安打と合わせると、出塁率は3割5分を超える。得点1420だからホームイン確率38%にもなる。彼ほどの1番打者はもう出てこないだろう。“ミスター・リードオフマン”という代名詞を送りたい。

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※記事はIOC公式サイト『 Olympic Channel 』提供

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