アメリカン・リーグMVP最有力候補の大谷翔平。サイヤング賞も獲得する可能性は?

Ryan Fagan

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ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平は、既に現時点でアメリカン・リーグ最優秀選手賞(MVP)をほぼ確実にしている。今シーズンの打撃成績ではブラディミール・ゲレーロ・ジュニア(トロント・ブルージェイズ)とハイレベルな戦いをしながらも、大谷が僅かに後塵を拝している。しかし、大谷の投手成績も加えると、MVP争いはすでに公平な競争ですらなくなっているからだ。

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大谷の投手成績も「悪くない」レベルではなく、「かなりすごい」ところまで来ている。そうなると、1つの疑問が浮かんでくるだろう。大谷はサイヤング賞も獲得できるか? である。

それはあり得ないことではない。現時点では確かに大谷はサイヤング賞の最有力候補ではない。しかし、あと1か月余りとなった今シーズン残りの成績によっては、同賞は十分な射程圏内にはある。大谷はオールスター戦でアメリカン・リーグの先発投手を務めた。そのこと自体は同リーグの監督を務めたケビン・キャッシュ(タンパベイ・レイズ)が「ファンが見たい選手を見せる」ためのサービス精神を発揮したことに依るところが大きく、サイヤング賞の可能性を探る議論の上では単に小さなボーナスポイントに過ぎない。

大谷について実際の数字を見ていこう。まずはbWARの数値は3.8で、これはアメリカン・リーグ全投手の中で5位である。大谷の上位にいるのは、カルロス・ロドン(3.9)、ロビー・レイ(5.2)、ランス・リン(4.5)、ゲリット・コール(4.9)の4人だ。まずは悪くないスタートだ。誤解のないように明記しておこう。我々はもしシーズンが今日終了した場合に大谷がサイヤング賞に相応しいと主張しているわけではない。大谷が残りシーズンを良い成績で締めくくるとしたら、あるいは同賞候補リストのトップに躍り出る可能性があるという話をしているのだ。それにはまず、大谷が現在の調子を維持することが前提となる。

大谷は直近に先発登板したクリーブランド・インディアンス戦で、8イニングを投げ、失点1、被安打6,四死球0、奪三振8、という素晴らしいパフォーマンスを見せた。オールスター後に限ると、5試合に先発登板し、防御率は1.36、33イニングを投げて、被安打21、四死球4、と申し分ない成績だ。あと1つ付け加えるポイントがある。キャッシュ監督が大谷をオールスターで先発させた理由についてだ。ファンへのサービスということ以前に、今年のアメリカン・リーグには圧倒的な成績を挙げている先発投手が不足しているのだ。

大谷が競っている相手は、全盛時のクレイトン・カーショウでも全盛期のマックス・シャーザーでも全盛期のジャスティン・バーランダーではない。大谷は「ただ」、とても良いシーズンを送っている、とても良いピッチャーたちと競っているだけなのだ。

下の表を見てほしい。Baseball-Reference式のWAR数値で5位に入るピッチャーたちと、FanGraph式のWAR数値で2位のネイサン・イオバルディを加えて、比較してみたものだ。

  防御率 FIP bWAR fWAR 平均被安打数 平均奪三振数
大谷翔平 2.79 3.19 3.8 2.6 6.0 10.8
ゲリット・コール 2.92 2.79 4.9 4.3 6.8 12.1
ランス・リン  2.26 3.28 4.5 3.2 6.7 10.3
ロビー・レイ  2.79 3.65 5.2 2.8 7.1 11.0
カルロス・ロドン 2.38 2.57 3.9 4.1 6.2 13.1
ネイサン・イオバルディ 3.91 2.90 3.2 4.1 9.1 9.1

今シーズンここまでに100イニング以上を投げたアメリカン・リーグのピッチャーのうち、大谷は防御率、平均奪三振数、FIP、 bWAR、奪三振率(29.6%)、対打者打率(.187)、WHIP (1.06)、 ERA+ (168)、そして 平均被本塁打数 (0.72)、これらすべての指標でトップ6位以内に入っている。そして大谷の凄みはこれだけでは測れない。大谷はトップに立っているわけではないが、総合的に優れているのだ。

しかし、上に挙げた6人のピッチャーのうち、大谷のWARの数値(どちらの計算式でも)はもっとも低い。その理由は明らかだ。投球イニング数が少ないからである。そして、この数字は大谷が挽回するのはもっとも難しいものになるだろう。チーム最強の打者としての役割を担うため、大谷は他の多くの先発投手のように中4日のペースでは先発登板しない。大谷はここまで19試合に先発登板したが、リスト上の他のピッチャーたちは22~24試合である。

大谷:100イニング

コール:142イニング

リン:123 イニング2/3

レイ:145 イニング1/3

ロドン:109 イニング2/3

イオバルディ:138イニング

投球イニング数はどのポストシーズン個人賞において重要である。それでも、もっとも多くのイニングを投げたピッチャーが賞に選ばれるというわけではない。しかし、例えば、レイと大谷を比較してみよう。2人とも防御率は2.79 だ。しかし、レイは大谷より45イニング 1/3多く投げている。統計的な観点からは、レイの方が大谷よりチームへの貢献度が高いのは明らかだと言えるだろう。1試合に平均して7イニング投げると仮定するなら、レイは今シーズンここまでに大谷よりほぼ6試合分も多くチームの先発マウンドを担っているのだ。その意味は大きい。

無論、サイヤング賞の投票は1つの指標だけでは決められるわけではない。3~5だけの指標ですらない。私はかつてその投票権を持っていたし、今シーズンもナショナル・リーグのサイヤング賞には投票権がある。その経験から述べるなら、投票者はすべてを考慮する。私が上に挙げた6つの指標でも足りない。もっと数多くの指標を用いて、候補者を絞っていくのだ。

しかし、繰り返しになるが、大谷は全盛期のカーショウと競っているわけではないことは覚えていてほしい。

大谷とロドンの差は10イニング未満だから、これは問題にはならない。リンとの23イニング2/3差は大きいが、逆転の可能性がないわけではない。イオバルディには38イニング引き離されているが、防御率、被安打数、奪三振数で大谷は大きくリードしている。そうなると強敵はレイとコールになるだろう。2人とも大谷より40イニング以上多く投げ、しかも他の指標でも大きく劣ってはいないからだ。

間違いなく、ハードルはある。しかし、何度も全盛期のカーショウを持ち出すには理由がある。2014年、カーショウはナショナル・リーグのサイヤング賞に選ばれた。その年のカーショウは198イニング1/3を投げた。2位のジョニー・クエト(243イニング2/3)と3位のアダム・ウェインライト(227イニング)より高い評価を得たのだ。カーショウの総合的な成績は投球イニング数の不利も吞み込んでしまうほど素晴らしかったからだ。8月末からシーズン終了までのカーショウの防御率は1.60だった。

大谷がサイヤング賞に選ばれる可能性は、トロント・ブルージェイズがワイルドカード枠でプレーオフに進出する可能性と同じ程度に考えてよいだろう。ブルージェイズは8月23日の段階で4.5ゲーム差を追っているが、逆転が不可能な差とは言えない。だが、現在上位にいるニューヨーク・ヤンキース、ボストン・レッドソックス、オークランド・アスレチックス、そしてシアトル・マリナーズのうち、少なくとも2チームが調子を落としてくれないと、ブルージェイズには厳しいだろう。自力でのプレーオフ進出は困難である。

そこで、元々の疑問に立ち返ろう。大谷はアメリカン・リーグのサイヤング賞も獲得できるか? 最良の答えは「可能ではある」が「多分そうはならない」に落ち着くだろう。大谷がシーズンの残りを防御率1.00未満で乗り切るとか、ノーヒットノーランや1試合14奪三振以上などを記録するようなことがない限り。無論、忘れてはならないことがある。2021年シーズンで大谷は信じられないことを何度もやってきた。もはや我々はそれを見慣れているのだ。

(翻訳:角谷剛)

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Ryan Fagan

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Ryan Fagan, the national MLB writer for The Sporting News, has been a Baseball Hall of Fame voter since 2016. He also dabbles in college hoops and other sports. And, yeah, he has way too many junk wax baseball cards.