「60本超え」が射程内のアーロン・ジャッジ…現在も米球界でシーズン60本塁打が大記録である理由

Ryan Fagan

「60本超え」が射程内のアーロン・ジャッジ…現在も米球界でシーズン60本塁打が大記録である理由 image

ニューヨーク・ヤンキースの強打者アーロン・ジャッジは先週末にセントルイスで行われたカージナルズとの3連戦シリーズで本塁打を1本も打たなかった。

それだけでニュースになるのだ。カージナルズの投手陣はジャッジを封じ込めたわけではない。ジャッジは3試合で5本の安打を放ち、4打点を挙げた。その中には最終戦での2点タイムリー安打2本も含まれる。2得点を記録し、さらには盗塁も1個成功させた。本塁打がない試合でも、ジャッジのバットは破壊的なダメージを相手チームに与えている。

「ジャッジこそが、現在の地球上で最高の野球選手」

もっとも、ここ最近のジャッジの絶好調ぶりを考えると、本塁打を打たれなかったというだけで、対戦投手はチームに貢献していると言えるかもしれない。なにしろ、オールスター戦明けからの13試合で、ジャッジは10本の本塁打を打ったのだ。その間の61打席における出塁率は.525、長打率は1.083である。

「アーロン・ジャッジこそが、現在の地球上で最高の野球選手だと思うよ」とマット・カーペンター(ヤンキースの内野手)はスポーティングニュースに言った。

「僕は一番近い場所からからジャッジを見ているけどね。ジャッジはまるでリトルリーグ世界大会で年齢を誤魔化してプレイしている14歳みたいだって、冗談を言ったことがあるよ。彼はもはや異次元の選手だ。それくらいすごいよ」

何はともあれ、ジャッジは本塁打数を増やすことなくセントルイスを離れた。それでも109試合で43本の本塁打は、メジャーリーグ全体で2位以下を9本引き離す断然の1位だ。これは信じられないほどのペースである。シーズンが53試合を残している今、バリー・ボンズが持つ73本にジャッジが到達する可能性は低いだろう。今シーズンの驚異的なジャッジをもってしても、シーズン本塁打ペースは「たったの」64本である。

「まるでフリーバッティングのように打つから、皆は慣れっこになってしまっているけど、ジャッジは信じられないことをしている」とヤンキースのアーロン・ヒックスが8月5日に試合前のロッカールームで言った。

「ただもう笑うしかないのさ。またジャッジが打ったよ、ってね。試合がどのような状況になっていても、ジャッジの打席を見るのは楽しいよ。僕はジャッジのすぐ前にヤンキースに入ったから、彼が新人の頃から知っている。それからずっと成長し続けるところを見てきた。本当に楽しいよ」

109試合までに43本以上の本塁打を記録した選手と本塁打数
選手名 109試合目 シーズン最終 シーズン
バリー・ボンズ 46 73 2001
ベーブ・ルース 46 59 1921
マーク・マグワイア 45 70 1998
マーク・マグワイア 44 65 1999
アーロン・ジャッジ 43 2022
ルイス・ゴンザレス 43 57 2001
ベーブ・ルース 43 54 1928
ミッキー・マントル 43 54 1961

シーズン60本塁打という大いなる壁への挑戦

73本が無理だとすると、何が残っているのか。その答えはただひとつだけだ。ここ何十年もの間、疑惑にまみれた強打者たちが挑んできたシーズン本塁打数60本という大いなる壁への挑戦である。そして、これは野球界全体で注目されるべき出来事だ。

「それは今でも偉大な数字だと思うよ。最後にそれに近づいたのは”G”(ジャンカルロ・スタントン、2017年、マイアミ・マーリンズ在籍時)だからね。とてつもない数字だよ。これまでに達成した選手たちの歴史を見ればよく分かるはずだよ」とヒックスは言った。

ベーブ・ルースはヤンキースに在籍していた1927年に60本の本塁打を打った。それ以来、1961年にやはりヤンキースのロジャー・マリスが61本を記録するまで、数多くの選手がこの記録に挑み、失敗した。マリスの記録は1998年にマーク・マグワイアとサミー・ソーサに破られるまでの37年間、MLBシーズン最多本塁打記録であり続けた。当時、マグワイアとソーサが競い合った夏は、野球史に残る偉大なシーズンになると感じられたものだった。後にこの2人とも60本塁打以上を再び成し遂げた(ソーサは2回)。そしてバリー・ボンズはマグワイアの70本を越える73本塁打という現実離れした記録を2001年に達成した。

しかし、今では私たちは何が起きたかを知っている。

これらの数字は今でも公式記録として残ってはいるが、神聖視されているとはとても言えない。ステロイド疑惑がつきまとう数字は神聖視されないのだ。野球ではキリのよい数字とそれを破った瞬間が他のスポーツより大きく注目される。例えば、通算500本塁打、通算3000本安打、シーズン打率4割、防御率2.00以下、など。そのなかにおいても、シーズン本塁打60本は今でも群を抜いて偉大な到達点である。ここで強調したいのは、ボンズ、マグワイア、ソーサがしてしまったことを非難するわけではなく、彼らの記録がルースとマリスが成し遂げたシーズン本塁打60本という偉業の価値を消し去るわけではないということだ。

そして、ジャッジは60本塁打を成し遂げられる位置にいる。ルースとマリスに並ぶことができる。ボンズ、マグワイア、ソーサとは別の意味合いにおいてである。

ヤンキースはあと57試合を残している。ジャッジがあと17本の本塁打を打てばルースに並び、18本でマリスに並ぶ。それは十分に可能なのだ。楽観的過ぎるかもしれないが、60本超えも現実に狙えることは確かである。

野球データ解析ウェブサイト『Baseball-Reference』によると、ジャッジは2017年にも57試合で18本の本塁打を打った時期があり、その年は最終的に本塁打52本で終わり、アメリカン・リーグのMVP投票で2位に入り、そして新人王を受賞した。2018年には57試合で18本の本塁打を打っており、その年は112試合に出場して本塁打27本だった。2001年にも57試合で18本の本塁打を打ったことが複数ある。

そして2022年はどうなのかを見ていくと、さらに驚くべき数字が出てくる。最高では57試合で26本の本塁打を記録した時期があるのだ。そして、今シーズンのジャッジの凄みを語るのはそれだけではない。今シーズンここまで(ヤンキースが戦った109試合のうち、ジャッジは105試合に出場)、どの連続した57試合においても、ジャッジは最低でも18本以上の本塁打を打っているのだ。ジャッジが故障しない限り、シーズン本塁打60本に到達できそうだと言いたくなる気持ちが分かってもらえるだろうか。

「ヤンキースの選手が別のヤンキースの選手が持つ記録を破ることになると素晴らしいね。ぜひ見てみたいよ」とヒックスは言った。

そして、シーズンが佳境に入った今、読者には当然ある疑問が頭に浮かぶだろう。なぜ相手チームはジャッジにストライクを投げ続けるのだろうか、という疑問だ。例えば、7月28日のカンザスシティ・ロイヤルズ戦ではヤンキースは9回裏に飛び出したジャッジのソロホームランでサヨナラ勝ちした。ジャッジはそれ以前の6試合で5本も本塁打を打っていたのに、9回裏同点の場面でロイヤルズはジャッジと勝負し、そして試合に敗れた。しかも、ジャッジが打ったのは時速153kmほどの直球で、ストライクゾーンのほぼ真ん中低めあたりに入ってきたのだ。

もちろん、ジャッジはその球を見逃さず、壁越えに持っていった。ロイヤルズは何を考えていたのだろうか。さらに言えば、ジャッジは翌日のロイヤルズ戦でも2本の本塁打を打ち、そして7月30日にはシリーズ4本目となる本塁打を打った。

こうなると、よく分からなくなる。なぜ彼らはジャッジを歩かせないのだろうか。アーロン・ブーンからはこのような答えが返ってきた。

「ジャッジに対しては、どのチームもとても慎重になっているよ。それでも勝負しなくてはいけないときもあるのさ。なぜなら、我々の打線は強力だからだ。ジャッジの後ろにはアンソニー・リッゾがいるし、ジャッジの前にはDJ・ルメイユがいる。そう簡単にはジャッジをただ歩かせるってわけにはいかないよ。それでも最近は相手チームがあからさまにジャッジとの勝負を避ける場面が増えてきた。だけどジャッジは打席で良い結果を出すことに集中している。ただ本塁打を狙うのではなく、チームのためにプレイしているよ」

そして、それこそがジャッジがカージナルズとのシリーズでやったことだ。日曜日の最終戦、ランナー満塁の場面でジャッジはセンター後方に約123mの打球を飛ばした。惜しくもフェンス直撃で本塁打にはならなかったが、貴重な2点を挙げる適時2塁打となった。

もしジャッジがシーズン本塁打60本に到達し、ヤンキースの先輩であるルースとマリスに肩を並べるときが来れば、それはジャッジが偉大なる達成のために一切の妥協をしなかったからにほかならない。

原文:As Aaron Judge continues to mash home runs, a reminder that 60 is still the magical plateau
翻訳:角谷剛

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Ryan Fagan

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Ryan Fagan, the national MLB writer for The Sporting News, has been a Baseball Hall of Fame voter since 2016. He also dabbles in college hoops and other sports. And, yeah, he has way too many junk wax baseball cards.