“2番最強打者”大谷翔平が変えた野球の定石…日本球界への影響は

菅谷齊

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大谷翔平はなぜ3、4番を打たないのか。これは強打コンビを象徴する「ワンツーパンチ」を一人でやってのけているからである。その影響は日本球界に及んでいる。

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ガツンと先制攻撃

日本のメディアは連日、大谷の打撃を報じている。その多くはスポーツニュースのトップで、だ。大谷の打順に注目すると、1番や2番が多い。3番に座ることもあるが、4番はまずない。

大谷は1、2番を打つから必ず1回の攻撃で打席に立つ。そこで安打どころか、ホームランを放つ。先発登板する試合でも2番を打つことが多い。「ガツン、と先制」。序盤から最高の場面を作り出し、主導権を握ったチームは有利に戦いをしていく。

相手投手はいきなりきついパンチを食らい、自分のペースをつぶされる。どんなエースでも大アーチを浴びてショックを受けるから、本来のピッチングを取り戻すのに時間がかかり、ときにはその間に集中打を浴びてマウンドを降りシャワー室へ向かう。

大谷はかつてのチームナンバー1とナンバー2の打者が務めていた3、4番打者の役割を試合開始直後からやってのけている。一人でワンツーパンチを演じている格好で、ベーブ・ルースやバリー・ボンズが2番を打っているようなものなのである。

6勝目を挙げた試合ではいつものように2番を打ち22号本塁打を放った(6月15日)。まさに“一人舞台”だ。

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大谷は“2番最強打者”の先駆者

メジャーリーグで最初に背番号を付けたのはヤンキースである。番号はそのときの打順で、ルースは3番を打っていたので背番号「3」となった。「4」はルースの後を打ったルー・ゲーリッグである。

ルースの3番打者は最強打者の象徴だった。チームの最強打者は何番か、という論争は昔かり、日本でも同様だった。論客としても知られた“魔術師”こと三原脩は、打順の3、4番がもっとも膨らみが厚いとする流線形オーダーの効果を論じた。下位打線になるほど細くなっていく。

三原が導いた結論は「最強打者は3番打者」。その理由の一つに「必ず初回に打席に立つ」ことを挙げている。ファンの楽しみを試合開始早々与えるというプロ野球の義務という理屈もつけた。

巨人V9時代の3番・王貞治、4番・長嶋茂雄が典型的な例である。なんといっても王はホームラン打者で、さすがの長嶋も長打力では及ばなかった。一時期だが阪神の3番ランディ・バース、4番・掛布雅之も本塁打という点で3番最強の形だった。

しかし、当時でも日本は4番最強打者のチームが多かった。阪急の3番・加藤秀司、4番・長池徳二、広島の3番・衣笠祥雄、4番・山本浩二。西武の3番・秋山幸二、4番・清原和博が印象深い。

大谷は3番最強、4番最強を“2番最強”に塗り替えてしまった。1、2番でチャンスを作り3、4番の長打で得点をあげる定石を完全に覆したといっていい。2番の打順は打席回数が3、4番より多いから終盤のヤマ場9回に5度目の打席に立つことも増える。

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日本球界への影響は

メジャーリーグでは2番に長距離バッターを置く戦法を10年ほど前から取っている。それを「最高の打順」としたのが大谷といっていい。

さて日本である。ペナントレースも交流戦を経て夏場を前にしたプロ野球。開幕から上位打線を見ると、ワンツーパンチの形は完全に崩れている。節目の開幕第1戦、5月第1戦、交流戦第1戦のセ・パ12球団の3、4番を振り返ってみると…(打者は3番・4番の順)。

  開幕第1戦 5月第1戦 交流戦第1戦
ヤクルト 山田・村上 山田・村上 山田・村上
DeNA 神里・牧 宮崎・牧 宮崎・牧
阪神 ノイジー・大山 ノイジー・大山 ノイジー・大山
巨人 丸・岡本和 坂本・岡本和 秋広・岡本和
広島 秋山・マクブルーム 秋山・マクブルーム 秋山・松山
中日 高橋周・アキーノ アルモンテ・石川昂 細川・石川昂
オリックス 西野・杉本 中川圭・森 中川圭・森
ソフトバンク 柳田・栗原 柳田・栗原 近藤・柳田
西武 外崎・山川 外崎・中村 外崎・渡部
楽天 フランコ・浅村 浅村・島内 フランコ・浅村
ロッテ 山口・井上 藤原・井上 中村奨・ブランコ
日本ハム 石井・野村 松本剛・野村 マルティネス・万波

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4番が変わらなかったのはヤクルト、阪神、DeNA、巨人のセ4チームで、パは1チームもなかった。3番もヤクルト、阪神、広島、西武の4チーム以外は入れ替わり立ち代わり状態である。「日替わりワンツーパンチ」といっていいほど落ち着かないし、迫力が感じられない。前日3番かと思うと今日は1番といったチームもある。

そんな中でワンツーパンチの形ができつつあるのが巨人。秋広-岡本和のコンビが活躍し、交流戦の後半に大きな連勝をした。昨年の日本一オリックスも森-頓宮がそろって強打を発揮している。

5選手が3、4番を打ったロッテと日本ハム。とりわけ日本ハムは昨年の首位打者だった松本剛があちこちの打順を打っているのだから面白い。他チームから見たらつかみどころのない新庄野球だろう。もし大谷が在籍していたらどんな形になるのか。

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菅谷齊

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菅谷齊(すがや・ひとし)1943年、東京・港区生まれ、法大卒。共同通信で巨人、阪神、大リーグなどを担当。1984年ロサンゼルス五輪特派員。スポーツデータ部長、編集委員。野球殿堂選考代表幹事を務め三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。大沢啓二理事長時代の社団・法人野球振興会(プロ野球OBクラブ)事務局長。ビジネススクールのマスコミ講師などを歴任。法政二高が甲子園夏春連覇した時の野球部員。同期に元巨人の柴田勲、後輩に日本人初の大リーガー村上雅則ら。現在は共同通信社友、日本記者クラブ会員、東京プロ野球記者OBクラブ会長。著書「日本プロ野球の歴史」(大修館、B5版、410ページ)が2023年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞。