マクレガーの前に、大西洋を越えて“マネー”に立ち向かった、ハットンの物語

Brendan Bradford

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熱狂者たちの一群が大西洋を越えるべく、飛行機に乗り込んでいく。自国の英雄を支援するために米国・ラスベガス(ネバダ州)に向かうのだ。その英雄は、一組のグローブをはめた最も偉大なる人物と対戦するのだ。その相手はフロイド・メイウェザー。多くがメイウェザーの勝利を確信している。だが、シンシティ(ラスベガスの俗称)でこの1週間、ビールの力を借りて、ラスベガスを接見中の喧嘩好きなファンたちは、自国の英雄が勝利することを信じて疑わない。

何と、この英雄の「テーマソング」まで書かれている。そして複数の都市にわたるプレスツアーが、このファイトを大々的に盛り上げてきた。

どこかで聞いたことがある話だって?

上の話は、コナー・マクレガーが今週末“マネー(メイウェザーの愛称)”に対戦するという話ながら、およそ10年前、MGMグランドで英国人のリッキー・ハットン相手にWBC世界ウェルター級タイトルを防衛した時と、まったく同じスクリプトでもあるのだ。

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ハットンは英国市民の間で英雄であり、メイウェザーはその「悪役」だった。オスカー・デラホーヤにスプリット・デシジョンの末、勝利し、米国人のメイウェザーはほぼ無名の世界チャンピオンから真のスーパースターへの道を歩んでいる最中だった。ハットンに対しての勝利で、ボクシング界の目はメイウェザーに向けられたが、それもただ世界チャンピオンの座を確認しただけにすぎなかった。

一方のハットンは、激しいボディショットでのノックアウトにより、ホセ・ルイス・カスティージョに勝利したばかりだった。2002年、メイウェザーを倒すだろうと多くの人が信じていた。

この時の対戦は、英国のボクシングでも数年ぶりの注目の一戦だった。

ハットンは自伝『リッキー・ハットンのベガス物語(原題:Ricky Hatton’s Vegas Tales)』で、当時のことをこう振り返っている。

「町にはオレのファンが3万5000人くらいいた」

「計量を見るために、ファンは朝の早い時間から行列を作り始めた。多くは試合のチケットを持っていなくて、これがこのファイトを最も近く生で見ることができる機会かもしれなかった」

「計量の前、更衣室でバンドが音楽を演奏し、ファンがみな声を合わせて歌っているのが聞こえた。『リッキー・ハットンはただ1人』という歌を、何度も何度も歌っていた」

ハットンとメイウェザーがその日計量を行うまでの間、ハットンを応援するファンのほうがずっと多いことは明らかだった。そして、その全員が歌い、彼の名を呼び、そしてビールを飲んでいた。メイウェザーは地元ミシガン州の社会的に恵まれない子供たちのために慈善活動を行ったりしていたが、この試合のためにやってきたのはその中のほんのひと握りだった。

「そうして当然のごとく、ボクのファンたちは、メイウェザーのサポーターたちに向かって『お前は学校にいるべきだ』と歌い始めた」と、ハットンは回顧する。

今週、マクレガーが計量をする際、同じようなシナリオが展開することが想像できる。騒々しい観衆は、マクレガーがファイトするどこにでも付いてきて、今回、すでにラスベガスの「ストリップ」と呼ばれる街中で、パーティを繰り広げる姿が目撃されている。

マクレガーのファンは、10年ほど前、メイウェザー対ハットン戦よりも、少しはいい展開になることを期待しているはずだ。

マンチェスター出身のハットンは、計量では勝利したものの、ファイトそのものでは完全に打ち負かされていた。

観衆は歌うのを止めなかった。“ヒットマン(殺し屋、ハットンの愛称)”は前半30分でリングを制圧されていき、ついに10ラウンド目で2回、床に倒れた。

審判のジョー・コルテス氏、マクレガーが自らのスパーリング・セッションのために3人目の男として雇用した伝説の審判はこの時、10ラウンドの1分35秒で試合を打ち切った。

ハットンは後にこう語った。

「彼は、ミスを誘うのが非常に上手かった」

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「また、思ったよりもインサイドに優れていた。そして、彼はオレを捉えた。オレは躍起になっていた。彼はすごく賢くて、いくつかのパンチで狙いを定めて、それで、終わりだった」

「オレは自分の力を尽くしていた。そして良くやってもいた。ただ、あとほんの少し、注意深くやるべきだった」

この言葉はマクレガーにとっては悪いニュースだ。ただでさえ、マクレガーはこれまでの人生の中で、プロのボクシングマッチを戦ったことはないのだ。

マクレガーにとっては、連射しながら、いささか汚い勝負をし、早い時点でのノックアウトを狙うことが最善策だろう。技術力が高く、経験もあるファイターたちはそんな方法を試し、そして失敗をしてはいる。

一方、今回の試合はメイウェザーにとって、最後の正統な「KO勝ち」になる可能性もある。そんな場面、想像してみてほしい。

「過去最高」と自称するメイウェザー、ハットンの後10年間で戦った10試合のうち、KO勝ちしたのは唯一1回のみ。しかもそれは、2011年ビクター・オルティス相手に、ふとした瞬間に奪ったKOだった。もちろん、これはいつものメイウェザーの勝ち方ではない。メイウェザーは通常、賢く戦い、ポイントで相手を凌ぐスタイルだ。

そんなことすべてが、今週末(8月27日)、ひっくり返ることになるかもしれない。

どこでこの試合に賭けるにしろ、メイウェザーが大西洋を越えてやってきた大ファンたちに囲まれている強打者・マクレガーを、再び後半のラウンドでノックアウトした場合、かなりのオッズが得られることになるだろう。

ハットンの時のように、いずれにしても、メイウェザーは相手の男を黙らせることはできるかもしれない。だが、そのファンを黙らせることはできないだろう。

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Brendan Bradford