【F1ガイド】終盤戦でも目まぐるしい変化。 2023年型マシンと前年型との比較も解説

Sporting News Japan Staff

荒大 Masaru Ara

【F1ガイド】終盤戦でも目まぐるしい変化。 2023年型マシンと前年型との比較も解説 image

Alpha Tauri AT04

▶F1を観るならやっぱりDAZN。4画面配信のF1ゾーンのほか、F2、F3も完全中継!

2023年シーズンのF1世界選手権は第19戦のアメリカGPまでを終了。終盤戦に入り、これまでの戦いのフィードバックを経て意欲的なアップデートを施したチームも出始めている。そこであらためて判明した部分も含め、今季のF1を走るマシンたちを紹介する。

2022年の大幅なレギュレーション改定による影響ほどではないものの、今季も各チームで試行錯誤がみられる。パワーユニット(PU)や昨シーズン型のマシンや開幕当初のマシンからの仕様変更などもこの本記事で紹介していく。なお、本記事は【アメリカGP終了時点版】となり、中盤戦や後半戦での各マシンの変更に際して適宜更新予定だ。

[AD] F1を観るならDAZNで。スマホやTVでスポーツをいつでも楽しもう

キープコンセプトで連覇へ

■レッドブル・RB19

昨季、実に9年ぶりのコンストラクターズチャンピオンに輝いたレッドブル。今季のニューマシン「RB19」は、その正常進化型といっても差し支えないかたちに仕上がっている。チャンピオンチームであることに加えて、予算制限オーバーのペナルティーで今季はかなり開発の制限を受けてしまった、今季のレッドブル。ただ、テストでは上々の走りを見せて王者の底力を見せつけた。

なかでも目を引くのが、マシンのフロア部分だ。切り欠きや立体的な造形を多く作り出すことで、抵抗の低減やダウンフォースのさらなる獲得を狙ったであろうことが推察される。

PUは今季からサプライヤー名が「ホンダRBPT」に変更。パワフルなPUを得て、今季もチャンピオンを目指した戦いへと乗り出す。

  2022年型 RB18 2023年型 RB19
PU レッドブル・パワートレインズ(RBPT)製
RBPT H001
レッドブル・パワートレインズ(RBPT)製
RBPTホンダ H001
空力 プレシーズンテストでは多くの部分はキープコンセプトも
フロア部分の造形が複雑化し、切り欠きが増えたデザインに

開幕後の
変更

第3戦のオーストラリアGPでフロントウイングを変更。
フラップ上部に新デザイン投入


第4戦アゼルバイジャンGPや第8戦スペインGPなどで細かなデザイン処理を変えていて、
細部のリファインで優位を保つ

第16戦シンガポールGPでは新デザインのフロアを投入。
シンガポールでこそ苦戦するも、その後も決勝でのパフォーマンスは抜群

覇権奪還へ着実にトレンド導入

フェラーリ・SF-23

昨シーズンの序盤戦で速さを見せたものの、その後失速したフェラーリは、ニューマシン「SF-23」でもトライを欠かしていない。注目を集めているのがその空力処理の部分だろう。

マシン前方のノーズが短縮され、フロントウイングには外向きの整流板が付いている。昨季の終盤戦でメルセデスがこれにチャレンジしたものの実戦には投入されず、今季のレギュレーションで明文化とともに禁止…されたものだが、どうやらフェラーリはその抜け穴を見つけたようだ。

また、フロア(マシン床面)でのダウンフォース獲得をめざして、フロアへの絞り込みを強化。より内側に、そして下部に向けて造形されている。

チームとしては15年ぶりの王座獲得に向けた戦いへ。改変が吉と出ることを期待したい。

  2022年型 F1-75 2023年型 SF-23
PU フェラーリ製
066/7
フェラーリ製
066/10
空力 ノーズが昨季に比べて先端部を短縮してウイング後方に取り付け
ウイングに外向きの整流板を追加
サイドポッド(マシン横)は曲面を意識したデザインに
フロアの内側・後方に向けた絞り込みが顕著に
開幕後の
変更
第8戦・スペインGPで大きなアップデート。
上部にくぼみを作っていた「バスタブ型」ボディを改め、
マシン後方へ向かってカウル造形を下ろす「ダウンウォッシュ」デザインに
フロアもこれまでより波打たせた造形が際立つ
第10戦・オーストリアGPではフロアのアップデートにも乗り出す

第17戦・日本GPでフロアを再びのアップデート。リアに向けた空力処理のアプローチを変えてきた

冒険を続け、より現実的な答えを

■メルセデス・W14 E performance

昨季の「ゼロポッド」スタイル(極狭サイドポッド)が失敗に終わったかに見えたメルセデスAMG。しかし、今季の「W14 E performance」でもその方針を変えてはおらず、マシンのサイドポッドはかなりそぎ落とされた造形のままだ。

ただ、サイドの吸入口の形状は縦長の長方形となり、多少なりともマシン下部に向けた絞り込みを作れるかたちに変更された。このほか、フロントウイングの形状などに変更が大きく加えられている。

昨季は長らくポーポイズ現象に悩まされたメルセデス。その発生源とも揶揄された革新的なゼロポッドスタイルを続けたままでのトップ奪還は可能なのか、独自のアプローチを続けるなかで、昨季のような「2強の少し後ろ」のようなポジション定着化を、しっかり打破できるかがポイントだろう。

  2022年型 W13 E Performance 2023年型 W14 E Performance
PU メルセデスAMG製
M13 E Performance
メルセデスAMG製
M14 E Performance
空力 サイドポッドの形状変更も"ゼロポッド"スタイルは継続
吸入口は縦長の長方形に
さらに、上部から下部への絞り込みに変更
ノーズは幅を狭め、フロントウイングの翼端板形状も変更
フロントウイングは中央部を持ち上げたかたちに
開幕後の
変更
第7戦・モナコGPでサイドポッドを変更し、"ゼロポッド"に別れ
ポッドは横へせり出し、フロアへの空力を活かせる造形に
さらに「ダウンウォッシュ」への意識も

第11戦・イギリスGPでフロントウイングを変更。
外向きに風を流す「アウトウォッシュ」へのトライが見える

第17戦・日本GPでリアウイングの端にフラップを追加。
第19戦・アメリカGPではフロア改造にも乗り出すなど、シーズン最終盤まで逆襲を狙う

フレンチ軍団は意欲作で逆襲へ

■アルピーヌ・A523

ピエール・ガスリーとエステバン・オコンによる「オールフレンチ」態勢で若返りと成長を目指すアルピーヌ。今季の「A523」は正常進化も狙いつつ、意欲的なチャレンジも盛り込んだマシンとなっている。

最大の特徴と言えるのが、リアサスペンションの形状変更。A523では「プッシュロッド」と呼ばれるタイプのサスペンションを投入した。プッシュロッドは構造物が増えるものの、ボディ下面の設計自由度を高められるという利点がある。ただ、テストで目を見張るような速さを見せたシーンはなく、意欲作ゆえの不安も見られたのは確かだろう。

2022年のマシン規定導入以来、車体の下面を使ったエアロデザインはレーススピードを大きく左右する部分となっているだけに、そのチャレンジが実を結ぶかが注目されるシーズンだ。

  2022年型 A522 2023年型 A523
PU ルノー製
E-Tech RE22
ルノー製
E-Tech RE23
空力 ノーズは"くびれ"を作りつつワイドな形状に
サイドポッドを張り出させつつ絞り込む形状をより顕著なものに

リアサスペンションの形状をプッシュロッドに変更
フロアまわりのデザイン自由度アップなるか
開幕後の
変更
第3戦・オーストラリアGPでHalo周辺の整流板を変更。
フラップを追加し、立体的なデザインへ
第7戦のモナコGPでサイドポッドを変更。
アストンマーチン的「ダウンウォッシュ+バスタブ」両取りスタイルへ
第11戦のイギリスGPでフロントウイングを改良。
ノーズ周りの立体化に加え、「アウトウォッシュ」デザインの強化が見える
  
第16戦・シンガポールGPでミラー周りの整流板を追加。
「塵も積もれば」的リファインを続ける

トレンドをそつなく取り入れて名門復活へ

■マクラーレン・MCL60

今年がチーム創設60周年となるマクラーレン。そのため今季のマシンは命名規則から外れて、「MCL60」と名付けられている(昨季までの命名規則を踏襲するなら「MCL37」となるはずだった)。横に張り出したサイドポッドをリアに向けて落とすという、昨季のレッドブル・RB19のようなスタイリングに。マシンの後ろ半分は、カラーリングを変えてしまえばレッドブルのRB19とそう大差ないように思えるほどだ。

一方でフロントサスペンションの取り付け位置や形状を変更するなど、独自のアプローチも多く見られるMCL60。2シーズンぶりの勝利を果たし、名門復活への狼煙を挙げられるだろうか。

  2022年型 MCL36 2023年型 MCL60
PU メルセデスAMG製
M13 E Performance
メルセデスAMG製
M14 E Performance
空力 ショートノーズは継続も
全体のフォルムが一気に"レッドブル化"
フロントサスペンションの取り付け位置などを変更
開幕後の
変更
第10戦のオーストリアGPで新サイドポッドを投入。
「ダウンウォッシュ+バスタブ」を導入のほか、吸気口に段差を設けるなど、「レッドブル化」の兆候も
  



第16戦のシンガポールGPでリアウイングやサイドポッドなどを改良。
当初はエースのランド・ノリスのマシンにアップデートを投入し、
第17戦の日本GPでは僚友のオスカー・ピアストリも同仕様に   

大幅刷新で中団争いに差を付けるか

■アストンマーチン・AMR23

昨シーズンの途中にボディワークを大幅に改め、通称「AMR22B」を投入したアストンマーチン。今シーズンを戦う「AMR23」は、レッドブルやフェラーリなどのコンセプトを落とし込んだのか、膨らみと絞り込みという「メリハリ」をかなり前面に押し出してきた。

また、ドライバーシートの後方に吸入口を増設したり、マシン後端の排気口を大型化するなど、PUの熱対策などにも徹底した力の入れようを見せている。古参フェルナンド・アロンソ・ディアスの加入で競争力アップも期待されるなか、テストから上々の走りを見せていたが、度々表彰台入りを果たすなど、昨季よりも大幅なパフォーマンスアップを見せている。

  2022年型 AMR22 2023年型 AMR23
PU メルセデスAMG製
M13 E Performance
メルセデスAMG製
M14 E Performance
空力 フロントノーズはウイング先端まで下ろすデザインに

マシン上部吸気口と排気口の大型化・増設など
マシンの"メリハリ"を鮮明に
開幕後の
変更
第9戦・カナダGPでサイドポッドのアップデートを投入。
レッドブル型「ダウンウォッシュ」とフェラーリ型「バスタブ」の造形をさらに強めて、
空力的なデザイン最適化を狙ったか
カナダGPではさらにフロア造形を変更。
曲面造形や絞り込みを増やし、より空力の使い方を意識か
第11戦・イギリスGPでフロントウイングを変更
こちらはウイング上段のデザインをシンプル化
第19戦のアメリカGPで新たなフロアを導入。
フロアに向けて空気を「落とす」処理に着手した

空力で虎視眈々とアイデア投入

■アルファロメオ・C43

今季がザウバーチームとの提携ラストイヤーとなるアルファロメオ。今季投入予定の「C43」は新車発表の場ですでに実車が公開されるという仕上がりの早さを見せていた。大きく目を引いたのはサイドポッドからフロアへの絞り込み。ここに「くびれ」ともいうべきスペースを設けて、空力を活かそうという意図も見える。レッドブルやフェラーリなどもこうしたアプローチは見せており、一足先に今季のトレンドとして印象づけている。

さらに昨季の英国GPで周冠宇が横転クラッシュした際に脱落したため、問題視されてしまったロールフープについては、前後に段差を設けた吸入口を設置することで、「ブレード型」の構造を維持したまま解決を果たした模様だ。

  2022年型 C42 2023年型 C43
PU フェラーリ製
066/7
フェラーリ製
066/10
空力
サイドポッド(マシン横)の絞り込みを深く取り
フロアの有効活用を狙ったかたちに
 
懸念となったロールフープは前から見ると上下2段に
それでも前後の段差で"ブレード型"維持

 
開幕後の
変更
オーストラリアGPでフロントノーズの形状を変更
ウイング先端までノーズコーンを伸ばす

第16戦・シンガポールGPで新型フロアを投入し、第19戦のアメリカGPでフロアを再びアップデート
このほか、フロントウイングやディフューザーなど、精力的な改良を重ねる

トータルバランスの底上げで勝負

■ハース・VF-23

ハースは昨季のマシン「VF-22」にシーズン途中でフェラーリのコピーともとれる大改造を施した。今季の「VF-23」はそれをベースにしたところもあり、上から俯瞰するとくぼみが見える「バスタブ型」と呼ばれるサイドポッドは健在である。

一方で、細かく改良を重ねた部分も全体にうかがえる。フロントウイングに細かな整流デザインが施されたほか、サイドポッドの吸入口の形状が変化し、吸入口の下側が突き出した「受け口」のようなかたちに。これによってピーク時のダウンフォースをやや犠牲にしつつも、安定した空力パフォーマンスを得ようとしているようだ。

昨季は序盤戦で快進撃を見せたハース。シーズン全体での中団争いを常にできるようになれば、今季も台風の目となっていくだろう。

  2022年型 VF-22 2023年型 VF-23
PU フェラーリ製
066/7
フェラーリ製
066/10
空力
「塵も積もれば」な改良を施し、安定したパフォーマンスを狙う
冷却と空力のバランスを模索か
 
開幕後の
変更
第19戦・アメリカGPでボディやフロアを全面刷新
フロア、サイドポッドに空気の通り道を意識した造形がみられる

上位陣への挑戦状を叩き付けるか

アルファタウリ・AT04

昨季はどこか足並みの揃わないシーズンを過ごし続けてしまったアルファタウリ。今季のマシンである「AT04」は、昨季の反省からか空力トレンドをいくつも試したデザインとなった。サイドポッドは宗家である「レッドブル流」ともいうべきワイドなスタイリングに。逆にマシン上部の吸入口は狭められたほか、ノーズもかなり細く作られており、抵抗になる部分を減らそうと言うリファインが各所に見られている。

その一方で、ウイングやサスペンションなど、フロント周りについては昨季を踏襲したようなデザインが多く投入された。元々パワフルかつ信頼度も高いRBPTホンダのPUを持つからこそ、それを活かせるようなマシン作りができれば、上位争いも可能なはず。マシンのバランスを整え、中下位集団からの脱出をめざしたい。

  2022年型 AT03 2023年型 AT04
PU レッドブル・パワートレインズ(RBPT)製
RBPT H001
レッドブル・パワートレインズ(RBPT)製
RBPTホンダ H001
空力 ノーズや上部の吸入口はコンパクトに、サイドポッドの吸入口はワイドに、と
空力の最適化を狙う
フロントウイングなど昨季型AT03と似た形状のパーツも残されている
開幕後の
変更
第3戦・オーストラリアGPでフロアの改造に着手
第11戦・イギリスGPで大規模なアップデートに乗り出す
フロアやウイングなどを大幅に変更し、後半戦での逆襲へ
第16戦・シンガポールGPで再びの大規模アップデート
フロア、サイドポッドの造形を改め、コーナリング時の空力バランスを強化

競争力回復へ、まずは正常進化でアプローチ

■ウィリアムズ・FW45

ある意味「メルセデス流」の空力コンセプトを試すも、高速サーキット以外でなかなか良いところが出なかった昨季のウィリアムズ「FW44」。昨シーズンの上位進出は、アレクサンダー・アルボンのドライビングに頼る部分もままあった。シーズン途中に大幅なアップデートを施すほどだったのだが、今季の「FW45」はその発展型ともいえるマシンのようだ。

サイドポッドを壁のように作りつつ、リアに向かってフロア方向に下げていくデザインは健在な一方で、サイドポッドの前半部分はトップチームのような「くびれ」を意識したフォルムを作り込んできた。マシンの上と下で空気を分けていく手法は功を奏するのか、古豪チームの復調の兆しを見せてもらいたいところだ。

  2022年型 FW44 2023年型 FW45
PU メルセデスAMG製
M13 E Performance
メルセデスAMG製
M14 E Performance
空力 横方向の迫り出しも持たせつつ、
サイドポッドは後方へさらに拡大
昨季の空力特性・ダウンフォース不足の改善を狙うか
開幕後の
変更
第3戦・オーストラリアGPでリアウイングに整流板を追加
第9戦・カナダGPでサイドポッドのほか、マシン後方のデザインを大幅に変更
ダウンウォッシュデザインを本格的に投入

[AD] Amazonでレッドブル、アルファタウリ、アストンマーチンなどF1公式グッズをチェック!


F1関連リンク

Sporting News Japan Staff

Sporting News Japan Staff Photo

日本を拠点に国内外の様々なスポーツの最新ニュースや役に立つ情報を発信しているスポーティングニュース日本版のスタッフアカウント。本家であるスポーティングニュース米国版の姉妹版のひとつとして2017年8月に創刊された日本版の編集部員が取材・執筆しています。

荒大 Masaru Ara

荒大 Masaru Ara Photo

茨城大学卒。福島県内のテレビ局で報道記者を務めたあと、web編集者を務めた2019年からモータースポーツの取材を行う。2020年に独立後、Bリーグの取材を開始し、現在は記事執筆のほか動画コンテンツの編集などで活動中。