今季最終戦アブダビGPで起きていたコース内外のエピソードを紹介|F1コラム

荒大 Masaru Ara

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アラブ首長国連邦(UAE)アブダビのヤス・マリーナ・サーキットにて行われた第22戦・アブダビGPでもって2022年のシーズンを終えたF1世界選手権。同GPは、4度の王座獲得を果たしたセバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)の引退レースともなったわけだが、この最終戦ではコースの内外で様々な話題が飛び交った。

シーズン終了の余韻を振り返りながら、いくつかを取り上げつつ紹介したい。

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「ベッテル風」ヘルメットを被ったのは…?

白をベースカラーに、ドイツ国旗を連想させる黒・赤・黄の3本ライン。見るからにセバスチャン・ベッテルのヘルメット…と言いたいところだが、アメリカ発祥のヘルメットメーカー「BELL」のロゴがあり(ちなみにベッテル自身は日本のアライヘルメット社の製品を使用)、バイザー部分には「ALPINE(アルピーヌ)」の文字。果たして誰がこのヘルメットを使用したのか、と言えば、アルピーヌのフェルナンド・アロンソだ。

ヘルメットの横にはベッテルへの感謝を意味する「DANKE(ドイツ語で「ありがとう」) SEB(セバスチャン)」とも記されている。自身のインスタグラムにこのヘルメットの写真を載せたアロンソは、「Danke Seb、最後にもう一度、君とコースを一緒に走る。感情的にもなるし、そして悲しいことだが、君の次の章の成功を祈っているよ」とコメントを添えた。

2010年代の前半には、レッドブルとフェラーリのエースとして、互いにチャンピオンの座を巡って激しく争い続けた間柄の2人。そして来シーズンのアロンソは、引退するベッテルの後任としてアストンマーチンへ移籍することとなっている。ときには自チームやチームメイトに対してさえ歯に衣着せぬ物言いをするアロンソだが、同じ時代を過ごしたライバルの去り際には、寂しさが見え隠れしていたようだ。

また、ベッテルが何かと気にかけ続け、ドイツ人ドライバーの「弟子」としてかわいがっていた、ハースのミック・シューマッハもベッテルをオマージュしたデザインのヘルメットを着用。こちらにも「Danke Seb」と添えられていた。

一方、ベッテル本人が被ったヘルメットには、ファンの写真が無数にちりばめられたフォトモザイクアートが施され、さらにヘルメット側面に「THE FINAL LAP」と記されていた。これまで数々のスペシャルヘルメットでファンの興味を誘ったベッテル。そのラストレースに、ほかのドライバーがこうしたスペシャルヘルメットで応えたということは、彼が愛されたほかならぬ証だったのではないだろうか。

ヒュルケンベルグがハースで復帰!アメリカ人・サージェントもウィリアムズでデビューへ

来シーズンのドライバーズラインアップは、アブダビGPの直前時点でハースとウィリアムズを除いて各チームが決定済みだった。そんななか、11月17日にハースはミック・シューマッハが今季限りで離脱することを発表すると同時に、来シーズンのドライバーとしてニコ・ヒュルケンベルグの起用を決定。フル参戦は実に4年ぶりのことで、ルノーのシートを失った2019年以降は、体調不良で出場を取りやめたドライバーの代役として計5レースに参戦(2020年はレーシングポイント、2021~2022年はその後進チーム・アストンマーチンのリザーブドライバー)。

復帰に当たってヒュルケンベルグは、「また一番好きなことをする機会を得たことに興奮しているし、ジーン・ハース(チーム創設者)とギュンター・シュタイナー(チーム代表)に信頼されたことに感謝したい」とコメントを残している。

すでにケビン・マグヌッセンの契約継続が発表されているハース。35歳のベテラン、ヒュルケンベルグとのコンビで、来シーズンさらなる飛躍を遂げることが期待される。

また、アブダビGP終了後の11月21日には、ウィリアムズがアメリカ人ドライバーのローガン・サージェントの起用を発表した。ウィリアムズはすでにニコラス・ラティフィの離脱が発表されており、来季の参戦ドライバーの動向が注目されていた。

サージェントは2021年の10月にウィリアムズのドライバー育成プログラムの一員となり、F1の下部カテゴリーに当たるFIA-F2選手権に参戦。今シーズン、F2の最終ランキングで4位に入ったことで、F1に参戦するために必要な「スーパーライセンス」の発給条件を満たした。アメリカ人ドライバーのF1参戦は、2015年に当時のマノー・マルシャに所属したアレクサンダー・ロッシ以来、年間フル参戦のドライバーとなると、2006年から2007年途中までトロ・ロッソ(現・アルファタウリ)から参戦したスコット・スピード以来となる。

サージェントはウィリアムズを通じて、「昨年ウィリアムズ・ドライバー・アカデミーに参加したことで、ドライバーとして成長し、次のチャプターに備えるための重要な土台を築くことができました。チームとしての旅(Journey)の一員となり、ポジションを上げに行く準備はできているし、ワクワクしている」とコメントを残している。

これで、来シーズンのドライバーラインアップ20人全てが決定。来季の開幕が、早くも待ち遠しいことだろう。

メルセデスからアルファタウリへ「お届けもの」

アブダビGP決勝レース終了直後、メルセデスチームのピット裏を担がれて運ばれていたのは、今シーズンまでメルセデスEQフォーミュラEのほかF1カテゴリーのリザーブドライバーとして契約していたニック・デ・フリース。アレックス・アルボンの代役として、イタリアGPで(メルセデスファミリーの)ウィリアムズから緊急参戦し、9位に入賞した姿は記憶に新しいところだ。そんな彼が向かった先は、ピットからほど近い場所にあるマリーナ(ボートやヨットなどを留め置く港)だった。デ・フリースはそのまま海へドボン。メルセデスはその映像を収めたチームのInstagramに、「チームを去る者の伝統」とコメントした。

ところが、この話には続きがあった。直後、デ・フリースは台車に載せられ、手足を結束バンドで「パッケージ(固定)」されていく。ピット裏をデ・フリースの乗った台車とともにそのまま「行進」していったメルセデスの一行が向かった先は、なんとアルファタウリのピットだった。賑やかに突入していったメルセデス陣営に対して、拍手と笑顔でアルファタウリチームに迎えられたデ・フリース。そのままアルファタウリのガレージへ「お届け」となった。

来シーズンから角田裕毅のチームメイトとしてアルファタウリから参戦することとなったデ・フリース。あくまでアルファタウリとの契約は来シーズンからとなっており、レース終了2日後に、ヤス・マリーナ・サーキットで行われたシーズン後のテスト走行には、メルセデスからのレンタル移籍というかたちでの参加となった。

オフシーズンも随時コラム更新

スポーティングニュース日本語版では、オフシーズンもF1にまつわるコラムの更新を予定している。来シーズンに向けた話題や、過去のF1にまつわる雑学的なもの、F1初心者という方から、玄人の皆さんでも思わず頷くような内容まで幅広く取り扱う予定だ。ぜひオフシーズンの楽しみとしていただきたい。

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荒大 Masaru Ara

荒大 Masaru Ara Photo

茨城大学卒。福島県内のテレビ局で報道記者を務めたあと、web編集者を務めた2019年からモータースポーツの取材を行う。2020年に独立後、Bリーグの取材を開始し、現在は記事執筆のほか動画コンテンツの編集などで活動中。