【F1コラム】ウィリアムズの新代表、ジェームス・ボウルズは何者?

荒大 Masaru Ara

【F1コラム】ウィリアムズの新代表、ジェームス・ボウルズは何者? image

James Vowles, new team principal of Williams F1 team

F1で1990年代に黄金期を迎えながら、現在は下位に喘ぐウィリアムズ。このほどチーム代表の交代が発表され、メルセデスで長年レース戦略を担ってきたジェームス・ボウルズの就任が発表された。F1の公式サイトでも一連の流れに関する分析コラムが掲載されるなど、注目を集めていると言える。

ちょっとニッチなF1ファンにはなじみのある人物ではあるが、それほど注目を集めるのはなぜなのか。記事の解説をはさみつつ、この男に迫る。

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F1歴20年以上、一貫して現場に立つ

ボウルズがF1でのキャリアをスタートさせたのは2002年シーズンのこと。イギリス人の彼は、イギリスチームの1つであるB.A.Rに加入する。以来、ホンダF1、ブラウンGP、メルセデスとチームのオーナーシップが変わるなかでも、チームには常にボウルズの姿があった。

キャリアの転機となったのは、2008年限りでホンダF1が撤退したときのこと。チーム代表だったロス・ブラウンがホンダF1を買収するかたちをとり、「ブラウンGP」として再出発を図った際に、チームのチーフストラテジストへと任命され、レース戦略の立案を担当するようになる。撤退したホンダの「置き土産」となったマシンをメルセデスエンジンと組み合わせたマシン「BGP001」は、ジェンソン・バトンとルーベンス・バリチェロのドライブによってドライバーズ、コンストラクターズの2冠に輝く。資金難に悩まされ、ライバルたちの猛追があるなかでの王座獲得劇だったわけだが、それを戦略面で支えたのがボウルズだった。

チームは翌年からメルセデスの手に渡り、メーカー直系チームとなるのだが、ボウルズはそのままのポジションを維持。ルイス・ハミルトンやニコ・ロズベルグの王座獲得にも貢献を続け、2019年シーズンからはチームの作戦責任者に就いていた。

メルセデスチームの表の顔がドライバーやチーム代表のトト・ウォルフとするならば、その右腕のポジションを長く務めた男。それがジェームス・ボウルズなのだ。

信頼の高さはスピード感に現れて

就任後、F1公式サイトが1月13日に公開した記事によれば、ボウルズがウォルフにチーム離脱、つまりウィリアムズへの着任について打診したのは年が明けてからのことだったという。それほどまでに電撃的な事態だったはずだが、「ウォルフはとてつもなく親切にしてくれた」とボウルズはコメントしている。

これがリップサービスではない…と思われているのにはいくつか理由があり、そのなかの大きな部分が、実際に就任が発表されるまでのスピード感だろう。通常、ライバルチームへの引き抜きやそれによる機密漏洩などを避けるべく、責任者クラスのスタッフがチームを離れるという場合には、「ガーデニング休暇」と呼ばれる長期の有給休暇を消化してからの離脱となる。ここのところのF1でも、この言葉が登場しており、例えばフェラーリのチーム代表を離れることとなったマッティア・ビノットに対し、フェラーリは1年のガーデニング休暇を与えていると伝えられるほどだ。

ところが、作戦責任者まで務めたボウルズの離脱に、メルセデスは横槍を入れることなく、ウィリアムズへと言わば放出したかたちである。こうした動き自体は過去にもあったことで、かつての技術統括責任者だったパディ・ロウがウィリアムズへと移籍した事例もある。F1公式サイトは、今回の人事異動がスムーズに進んだ背景として、メルセデス陣営がボウルズの後継者育成に対して十分な道筋が立っているからだろう、とも記しているほか、ウォルフも好意的なコメントを残している。

名門復活へ、名門の経験を活かす

ウィリアムズは、古くからのF1ファンなら多くの人が耳にしたことのあるチームだろう。「車椅子の闘将」フランク・ウィリアムズとパトリック・ヘッドとパトリック・ヘッドによる指揮のもとで、アラン・ジョーンズ、ケケ・ロズベルグ、ネルソン・ピケ、ナイジェル・マンセル、アラン・プロスト、デーモン・ヒル、ジャック・ヴィルヌーヴと7人の王者を輩出した。

そんな屈指の名門ではあるが、ヴィルヌーヴの王座獲得を最後に、25シーズンにわたってチャンピオン戦線から遠ざかっていて、2012年を最後にレースでの優勝もない。チームに名を残すウィリアムズ家もサーキットを去って久しい。

そうした名門復活を託されたのが、かつてウィリアムズと並んでイギリスチームの名門と呼ばれた「ティレル」の流れをくむメルセデス出身のボウルズなのだ。四半世紀前に「ティレルの首脳陣のひとりが、低迷するウィリアムズを率いる」と伝えられても、恐らく(当時の両チームの力関係もあって)相手にされなかっただろうが、それが現実になるあたり、F1の歴史の流れも感じさせられる一件となった。

ボウルズによるチーム改革が、ウィリアムズを再びトップコンテンダーへと押し上げる原動力となるのか。現代の名門チームを率いることで養った力が、古豪復活の狼煙となるのか。一筋縄ではいかない日々だとは思えるが、彼の挑戦の行く末を見守りたい。

オフシーズンも随時コラム更新

スポーティングニュース日本語版では、オフシーズンもF1にまつわるコラムの更新を予定している。来シーズンに向けた話題や、過去のF1にまつわる雑学的なもの、F1初心者という方から、玄人の皆さんでも思わず頷くような内容まで幅広く取り扱う予定だ。ぜひオフシーズンの楽しみとしていただきたい。


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荒大 Masaru Ara

荒大 Masaru Ara Photo

茨城大学卒。福島県内のテレビ局で報道記者を務めたあと、web編集者を務めた2019年からモータースポーツの取材を行う。2020年に独立後、Bリーグの取材を開始し、現在は記事執筆のほか動画コンテンツの編集などで活動中。