ライス元国務長官がつくる“壁”で、NCAAは多くの問題に巻き込まれる【後編】

Mike DeCourcy

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4月28日、インディアナ州ウェストフィールドで開かれたナイキEYBL(エリート・ユース・バスケットボール・リーグ)で、ハイレベルなバスケットボールキャンプを30年運営してきた人物と話をした。彼は過去に経験したNCAAとの集団訴訟を踏まえ、2つの問題を指摘した。

まず、前述の7月のイベントの運営者に関してだ。このイベントはハイスクール選手たちを評価するために多くのNCAAコーチ陣が参加している。認定を受けるためNCAAはコーチ陣に対して一連の条件を設け、運営側のビジネスモデルにしっかりと沿わせている。忠告や不祥事の証拠が無いにもかかわらず認定を取り下げるなどということになれば、訴訟問題になるだろう。

もし、NCAAがキャンプの運営をUSAバスケットボール(米国バスケットボール協会)に依頼すれば、それはそれで問題が生じる。USAバスケットボールは、アパレルスポンサーのナイキから相当な運営資金を得ているため、トップの選手ら2500人はナイキが運営に関与しているキャンプに参加することになる。蚊帳の外に追いやられた他のメーカーたちは平然としていられるだろうか?

そしてもうひとつ。選手たちを評価するイベントの中には、NCAAが認定していないイベントも多く存在する。もし大学側がすべての学外イベントからスカウトを追い出せば、認定外の試合がはびこり、スカウティング自体が無秩序なものになってしまう。

エージェント

報告書には、選手がエージェントに接触し、プロで活躍するポテンシャルを評価・相談することを認めるという内容が2ページにわたって記載されている。しかし、エージェントからの融資や贈与に関しては一切書かれていない。

これに関しては、考えが甘すぎると言わざるを得ない。

エージェント側は、未来のスター選手を早い段階から見つけ出すことができ、できるだけ多くの顧客と接触して早く契約に結びつけることが可能な機会となれば、手放しに喜ぶだろう。一方、選手たちにとって、自分の将来性についてエージェントに相談する意味はあまりないのだ。

NBAエージェントは大金を稼ぐ。昨シーズン、一般的なエージェントの報酬額は33.6万ドルだったが、最高額は年間200万ドル以上だった。エージェントがクライアントを成功に導いた場合、結果としてそのインセンティブは非常に高額となる。

選手たちがエージェントと正式な契約を結んで、正式な資金支援を受けなければ、不正な方法で融資や贈与のやり取りが引き続き行われるだろう。もし仮に、選手たちが大学の融資を受けられる契約を結び、NBAへ昇格することができなかった場合には返金しなくても良いという条項が組み込まれたとしたら、違法な行為は防げるかもしれない。少なくとも、この問題に関しては公にして合法化すべきだ。それどころか、ライス議長はエージェントと選手との不正な関係にはほとんど影響を与えない“認定制度”を採用した。

ワン・アンド・ダン

NBAが愚かにも年齢制限のルールを撤廃しても、キャンパスへ練習しにくる選手たちや、カレッジバスケットボールを1シーズンだけプレーしてからNBAドラフト入りを目指す選手たちがいなくなることはないだろう。

一方、委員会は、プロ入りを希望しない選手たちを何シーズンも大学に拘束させる“ベースボール・ルール”に対しては関心がないと発言したが、これは賢明だった。ライス議長は、プロ選手として将来性があるにもかかわらずプロ入りを禁じられた選手たちは、不満を抱き、不正行為を引き寄せる要因になると言及している。

しかしおそらく委員会が理解していない点は、例えば、仮に特定の高校のトップ10の選手がNBAのドラフトに進めば、11位の選手がトッププレイヤーとなり、ルール違反を厭わない大学や、将来有望な選手を探しているエージェントにとって、格好のターゲットになるということである。

2013年から2017年の5年間で、11位から20位の10人の選手がワン・アンド・ダンを行使したが、そのうちの5人はNCAAトーナメントで優勝し、2人はオールアメリカンに選出された。委員会は、ドラフトの年齢制限の廃止を推し進めることにより、ターゲットを変えること以外、何一つ成し遂げていないのである。

委員会はワン・アンド・ダンを非難しながら、700憶ドルの費用をかけて壁をつくって不法入国という問題解決策を提案する人たちと同じ類の、空虚な政治的美辞麗句を使っている。

カレッジバスケットボール委員会は、報告書の調査と編集に7か月近くを費やした。30秒の政権放送と比べて、それはさぞかし洗練されていたことだろう。

原文:The walls built by Rice Commission may cause enormous problems for NCAA
翻訳:日本映像翻訳アカデミー

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Mike DeCourcy

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Mike DeCourcy has been the college basketball columnist at The Sporting News since 1995. Starting with newspapers in Pittsburgh, Memphis and Cincinnati, he has written about the game for 35 years and covered 32 Final Fours. He is a member of the United States Basketball Writers Hall of Fame and is a studio analyst at the Big Ten Network and NCAA Tournament Bracket analyst for Fox Sports. He also writes frequently for TSN about soccer and the NFL. Mike was born in Pittsburgh, raised there during the City of Champions decade and graduated from Point Park University.