ライス元国務長官がつくる“壁”で、NCAAは多くの問題に巻き込まれる【前編】

Mike DeCourcy

ライス元国務長官がつくる“壁”で、NCAAは多くの問題に巻き込まれる【前編】 image

カレッジバスケットボール委員会が調査報告書を提出し、NCAA(全米大学体育協会)に対し規則の変更を勧告した数日後、テレビではインディアナ州の上院議員選挙のために、もの凄い数の選挙広告が流れていた。渦中の候補者は、アメリカはメキシコとの境界線に壁を建設することを保証すると豪語していた。

それを見て、ピンと来るものがあった。

NBAに入るために最低1年は大学に在籍しなければならないという『ワン・アンド・ダン』の規則は、カレッジバスケットボール版の『壁』なのだ。

NBAの年齢制限

NBAの年齢制限の規則は、批判の的になりやすい。元アメリカ国務長官で、現在カレッジバスケットボール委員会議長を務めるコンドリーザ・ライスも、規則の変更対象にワン・アンド・ダンを選んだ。なぜなら、スポーツ界が直面している問題に取り組む当委員会は、これを目玉にしたかったからだ。

委員会は、もしNBAがワン・アンド・ダンルールについて委員会の意向に従わないのであれば、再度委員会を召集して、大学1年生を無資格にするという可能性も含めて他の変更を提案すると脅した。これは、現実問題の妥当な解決策ではなく、ましてやNCAAが執行できるものでもない。しかし、納得するしかないのだ。

報告書には「ワン・アンド・ダンは、カレッジバスケットボールを腐敗させ、弱体化させる重大な規則である」と記載されている。しかし司法省に現在までに提示された証拠によれば、贈収賄事件に関与していたのは、カレッジバスケットボールに数年在籍していた選手や、大学がスカウトした時には期待度が低かった選手たちである。

これはライス議長の直感が外れ、完全に矛盾している一番分かりやすい例である。そしてNCAA配下の委員会は、この下手な思い付きを早急に勧告したことをきっと後悔することだろう。

その他にも、現実と矛盾している勧告がある。

夏のバスケットボール

委員会は、NBA、選手会、USAバスケットボール、そしてNCAAが合同でキャンプを実施することを奨励している。ライス議長によると、この地域キャンプを「スカウトが行われる極めて重要な時期に、NCAAのコーチ陣が参加する唯一の場」にするという。

委員会には、調査報告書の内容を数カ月の内に今後の方針へと変えたいという思惑があるため、ライス議長の声明や報告書の概要からその詳細までもが、驚くほどに不明瞭となっている。そのため、今はまだNCAAにも逃げ道が残されているのだが、一度ライス議長の提案を受け入れてしまえば、NCAAは様々な面で訴えられることになってしまう。

委員会は大事なことを考慮していない。カレッジバスケットボール選手を目指す選手たちが、多数のコーチ陣からスカウトを受けられるイベントが7月に設けられているのだが、現状、彼らはそこでチームに入り、公式試合(昨年7月は100試合以上あった)に出場する。もし、NCAAが評価の対象を地域キャンプだけに限定すれば、興味がある選手を全員受け入れられるとは到底思えない。2017年には、55万人のハイスクールバスケットボール選手がいたのだ。

そうなると、どこかで線引きをする必要がある。だが“壁”ができれば、キャンプに参加できず結果的にディビジョンⅠの奨学金の対象外となってしまう選手たちは、集団訴訟を起こすだろう。

NCAAが責任を取らされる可能性のある問題はこれだけではない。

後編へ続く)

▶バスケ観るならDAZNで。スマホやTVでスポーツをいつでも楽しもう

Mike DeCourcy

Mike DeCourcy Photo

Mike DeCourcy has been the college basketball columnist at The Sporting News since 1995. Starting with newspapers in Pittsburgh, Memphis and Cincinnati, he has written about the game for 35 years and covered 32 Final Fours. He is a member of the United States Basketball Writers Hall of Fame and is a studio analyst at the Big Ten Network and NCAA Tournament Bracket analyst for Fox Sports. He also writes frequently for TSN about soccer and the NFL. Mike was born in Pittsburgh, raised there during the City of Champions decade and graduated from Point Park University.