前の試合から1週間でアンソニー・ジョシュアと急遽対決することになったロバート・ヘレニウスとは?

Dom Farrell

前の試合から1週間でアンソニー・ジョシュアと急遽対決することになったロバート・ヘレニウスとは?  image

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ディリアン・ホワイトの薬物違反で8月13日(日本時間)にロンドンで予定されていた試合が中止危機に陥ったアンソニー・ジョシュアだが、決戦4日前、新たな対戦相手が見つかった。名乗りを上げたのは、わずか1週間前に試合をしたばかりのロバート・ヘレニウス。

過去にホワイト、デオンテイ・ワイルダーとも対戦経験がある『北欧の悪夢』が辿ってきた紆余曲折の経歴を、本誌ベテラン記者のドム・ファレルが解説する。

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再起戦から7日でジョシュアと戦うフィンランドの巨人

アンソニー・ジョシュアが8月12日(日本時間13日)にイギリス・ロンドンのO2アリーナで対戦する相手が直前になって急遽変更になった。当初、旧敵ディリアン・ホワイトとの約7年半振りとなる再戦が予定されていたが、先週末にホワイトの禁止薬物検査結果に違反が疑われる分析が報告されたことで、試合成立が暗礁に乗り上げていたからだ。

それからの3日間は、何人ものヘビー級ボクサーの名前がジョシュアの対戦相手代役に浮かんでは消えた。最も噂されたのはアンディ・ルイス・ジュニアだ。ルイスはジョシュアと1勝1敗であり、当人もトリロジー(第3戦目)を呼び掛けていた。

一方で、フィリップ・フルゴビッチデンプシー・マッキーンデレック・チソラ、そしてジェラルド・ワシントンは全員が当日のアンダーカードに名前を連ねており、彼らのうちのだれかがメインイベントの代役にステップアップする選択肢も考えられた。しかし、最終的に選ばれたのは、ベテランでかつての世界ヘビー級王座挑戦者でもあるロバート・ヘレニウスだった。

そのヘレニウスはなんと先週末の8月5日、地元フィンランドでミカ・ミロネンに3回TKO勝ちを収めたばかりだ。事実上減量が不要なヘビー級とはいえ、わずか一週間で2試合目、しかもメインイベントを戦うことは、プロボクシング界では異例である。

無謀とも言える戦いに挑む『The Nordic Nightmare(北欧の悪夢)』の異名を持つヘレニウスとは何者か。以下に紹介していこう。

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ロバート・ヘレニウスのボクシング戦績

ロバート・ガブリエル・ヘレニウスは、身長200cm、リーチは201cmのオーソドックススタイル、スウェーデン生まれ・フィンランド国籍の39歳だ。ここまでの戦績は32勝4敗、そのうちの21試合がKO勝利である。

ヘレニウスは2006年にヨーロッパ・アマチュア・ボクシング選手権で銀メダルを獲得し、2008年5月にプロに転向した。デビュー戦ではドイツ人ボクサーのジーン・ピュカルから1ラウンド目に3回のダウンを奪い、鮮烈なTKO勝利を収めた。

その後の8年近くにわたり、ヘレニウスは22連勝を飾った。そのなかにはウラジミール・クリチコに勝ったことがあるレイモン・ブリュースター、そして元世界王者のサミュエル・ピーターとセルゲイ・リャコビッチから挙げたTKO勝利が数えられる。

当時クリチコ兄弟が長く支配していた世界ヘビー級王座を受け継ぐ者としてヘレニウスの名前が取り沙汰されるようになったが、2011年にヨーロッパ王座をかけたチゾラ戦で思わぬ試練が待ち受けていた。

フィンランドのヘルシンキで行われたこの試合では、地元出身のヘレニウスに判定勝ちが告げられたが、チゾラが優勢であったと見るものが多く、疑惑のホームタウンデシジョンだとして多方面からの批判を浴びた。

問題となった試合のあと、ヘレニウスは肩の手術を受け、13か月に渡る休養を余儀なくされた。復帰後はシャーマン・ウィリアムスとマイケル・スプロットから連続して判定勝ちを収めたが、さらなる故障に悩み、またプロモーターのザウアーラント氏(ワールドボクシングスーパーシリーズの主催者)と契約上のトラブルに見舞われた。

ヘレニウスが負けた因縁の相手

2015年3月、ヘレニウスは2年振りとなった試合でアンドラス・チョモールを1ラウンドKOに沈めた。しかし、ヘレニウスがリングから遠ざかっていた間にヘビー級戦線はすっかり様変わりしていた。この2か月前にはデオンテイ・ワイルダーがWBC世界ヘビー級王者バーメイン・スタイバーンを下してタイトルを獲得していたし、その年が終わる前にはタイソン・フューリーがウラジミール・クリチコを王座から追い落とすことになる。そして英国人ファンにとって『次世代の王者』の称号は、ロンドン五輪の英雄アンソニー・ジョシュアに移っていた。

ヘレニウスはフランツ・リルを倒して2度目のヨーロッパ王者となったが、チゾラとの再戦を回避したため、そのベルトを手放すことになった。代わりにヨハン・デュオパと2016年4月に対戦。フランス人ボクサーのデュオパはその6か月前にワイルダーに敗れたばかりだった。

チゾラ戦やリル戦と同じくヘルシンキで行われた試合で、ヘレニウスは4ラウンド目と6ラウンド目にダウンを奪われ、プロ初黒星となる6ラウンドKO負けを喫した。

ヘレニウスの2敗目は、2017年10月に英国カーディフでホワイトから喫した12ラウンド判定負けであるが、同日、ジョシュアが急遽対戦相手に決まったカルロス・タカムを破ってWBAとIBFの王座を防衛した試合のアンダーカードであったため、幸か不幸か世間の注目を浴びることはなかった。だが、この6年前の出来事が今週末に奇妙なめぐり合わせを見せることになった…。

今週末のO2アリーナのアンダーカードでチゾラと対戦するワシントンも、ヘレニウスにとっては因縁のあるボクサーだ。2019年7月に対戦した両者だが、8ラウンド目にワシントンがKO勝ちを収めている。

3敗目を喫したヘレニウスのキャリアは終わったと思われたが、その後3連勝を飾って、そうした世間の見方を自身の力で否定した。そのなかにはアダム・コヴナッキから挙げた2連続KO勝利が含まれる。

ワイルダー戦惨敗の悪夢からトップ戦線返り咲きなるか

2021年10月にフューリーとの第3戦目で敗れたワイルダーが、1年後(2022年10月)の復帰戦相手に選んだのはヘレニウスだった。

ワイルダー戦を前にして、ヘレニウスは欧州スポーツメディア『Sky Sports』に次のように述べている。
「ここまで厳しい道のりでした。私はボクシングを25年続けています。このスポーツではベテランです。良いときも悪いときもありました。怪我も多くしました。しかし、ここ最近の数年はとても調子が上がっています。私がそれほど年老いているわけではないことを見てもらえるでしょう。私はまだ何年か現役を続けるつもりです」

ところが、米国ニューヨークのバークレイズ・センターで試合が始まると、ヘレニウスは2分間も立っていられなかった。1ラウンド開始早々に先手を取ったのはヘレニウスのように見えたが、ラウンド終了間近にワイルダーが放った右パンチ一発ですべてが終わってしまった。

トップファイターがキャリアの幕を下ろすにしても、あまりにもあっけない結末だった。

キャリア終焉レベルの惨敗から10か月、ヘレニウスは先週末(8月5日)にミカ・ミロネンから3ラウンドTKO勝利を収めたが、相手の実力を考えるとワイルダー戦での悪い印象を完全に拭い去れたとは言えない。このままではフィンランド国内あるいはヨーロッパ圏内のレベルに留まり、若い選手たちに経験を積ませるだけの役割を演じることになるかもしれない。

それゆえに今週末にロンドンで行われるジョシュア戦は、ヘレニウスが再びヘビー級トップ戦線に浮かび上がるために、思いもかけぬチャンスとなるだろう。ミロネン戦で健康状態は好調であることは証明済みだ。

ただし、別の見方もある。ヘレニウスには確かに一定の実力と経歴がある。それでもジョシュアにとっては、かつてのルイスやフルゴビッチに比べると危険性に乏しい、イージー(安全)な相手に見えるかもしれない。

ジョシュア陣営が思い描く青写真としては、ヘレニウスが「まあまあの戦い」を見せ、数ラウンド後にはジョシュアが劇的なKOで試合を終わらせることを期待しているだろう。そうなれば、新トレーナーのデリック・ジェームズ氏がこの数年行ってきた成果が証明される。ウシク戦連敗以来、不調にあえいでいたロンドン五輪金メダリストが、最高に近い状態に戻ったことを世間に示すチャンスなのだ。

しかし、予断は禁物である。ボクシングファンなら、ジョシュアが(やはり薬物違反を犯したジャレル・ミラーの)急遽代役に抜擢された相手と戦った2019年6月のことを覚えているだろう。ジョシュアがルイスに敗れた、あの「今世紀最大の番狂わせ」と揶揄されたマディソン・スクエア・ガーデンでの試合だ。

ジョシュア陣営の思惑通りとなるのか、それとも歴史は繰り返されるのか。注目のジョシュア vs. ヘレニウスは、日本では8月13日午前6:30頃、DAZNでライブ配信される。

原文:Who is Robert Helenius? Anthony Joshua's replacement opponent who has faced Whyte, Wilder and Chisora
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮泰暁

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Dom Farrell

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Dom is the senior content producer for Sporting News UK. He previously worked as fan brands editor for Manchester City at Reach Plc. Prior to that, he built more than a decade of experience in the sports journalism industry, primarily for the Stats Perform and Press Association news agencies. Dom has covered major football events on location, including the entirety of Euro 2016 and the 2018 World Cup in Paris and St Petersburg respectively, along with numerous high-profile Premier League, Champions League and England international matches. Cricket and boxing are his other major sporting passions and he has covered the likes of Anthony Joshua, Tyson Fury, Wladimir Klitschko, Gennadiy Golovkin and Vasyl Lomachenko live from ringside.