リング誌ベルトって何? クロフォードがメイウェザー以来8年ぶりに獲得した老舗誌認定王座とは

Dom Farrell

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去る7月29日(日本時間30日)、テレンス・クロフォードがエロール・スペンス・ジュニアに完勝し、男子世界初の2階級アンディスピューテッド王者になったが、同時に名高い『The Ring』誌(リングマガジン)ベルトも獲得した。

過去には井上尚弥もバンタム級の同王座を手にしたが、The Ring誌王座の誕生の経緯やその認定条件について、8年ぶりの王者誕生となったウェルター級での事情をもとに本誌ベテラン記者のドム・ファレルが解説する。

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エロール・スペンス・ジュニア vs. テレンス・クロフォードという長きにわたり熱望されてきたウェルター級頂上対決が7月29日、ラスべガスでついに実現した。

スペンスが持つWBAスーパー、WBC、IBFのタイトルと、クロフォードが持つWBOのベルトに加えて、『The Ring』誌(ザ・リング誌、リングマガジン)の王座もこの試合で争われたが、結果は完勝したクロフォードがそのすべてを手中に収めた。The Ring誌ウェルター級王座にいたっては、じつに2015年のフロイド・メイウェザー・ジュニア以来の認定になる。

なぜかくも長い期間、The Ring誌ウェルター級王座は空位だったのか。また、なぜ老舗とはいえ専門メディアが認定したベルトがボクシング界において『第5の世界タイトル』の価値を持つのか、そんな疑問を抱く人もいるだろう。

The Ring誌認定タイトルとはなにか

The Ring誌認定王座とは、アメリカの同名ボクシング専門誌が「真の王者」を認定するタイトルベルトである。このタイトル自体は、The Ring誌の創刊当初から存在し、最初の戴冠者は1922年のジャック・デンプシーのヘビー級王座だった。

クロフォードとパウンド・フォー・パウンド・キングの座を争う井上尚弥も、2019年5月の『ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ』バンタム級トーナメント準決勝において、自身の持つWBA王座とエマヌエル・ロドリゲスのIBF王座との統一戦に勝利した際、空位のThe Ring誌認定バンタム級王座も手に入れている。

ライトフライ級2団体王者の寺地拳四朗も2022年11月に京口紘人を破った際に、WBA王座とともにThe Ring誌認定同級王座も奪取し、現在も保持している。

同誌認定タイトルの存在意義は、良識あるファンや評論家たちが、近代ボクシング界にはあまりにも多くのタイトルが氾濫していることを長い間批判してきたことにある。

The Ring誌の共同創業者であり編集者だった故ナサニエル・フライシャー氏は、ボクシング業界で『バイブル』として権威を持つ同誌が月間ランキングとベルトを認定することで、20世紀大半における「真の王者はだれなのか」をはっきりさせようと試みた。

The Ring誌は、1990年代と2012年に王者認定方針を大きく変更している。とくに2012年の変更では、同誌ランキングの1位と2位(あるいは3位)の勝者だけが王者に認定されていた条件が、変更後はその対象を広げ、ランキング上位(5位まで)の挑戦者同士(ランカー戦)でも同誌王者を決めることを認めたのだ。

これは厳しい認定条件ゆえに多くの階級で空位となったことから導入されたとされるが、当初の「真の王者」を決めるという理念から逸脱しかねないため、多くの議論を巻き起こした。結局この緩和条件は3位までに再び狭められた。

ポリシー変更で批判を受けたものの、それでもこのベルトは現在も存続し、また業界から敬意を払われている。

The Ring誌ベルトの認定条件

メイウェザーは2015年にアンドレ・ベルトから勝利を収めたあとに引退したことで、The Ring誌認定ウェルター級タイトルは空位となった。

空位となったThe Ring誌ベルトを獲得するには、基本条件として、The Ring誌制定ランキングの1位と2位(あるいは3位)が対戦しなくてはならない。タイトル戦の度に同誌王座が懸けられないのはそのためだ。

同誌のランキングは世界中のボクシングジャーナリストがレーティングパネリストとして評価するもので、WBA、WBC、IBF、WBOといった主要統括団体のランキングやベルトは実績として参考にされるが、絶対的なものではない。

結果としてメイウェザーがウェルター級の舞台から姿を消したあと、同誌王座の認定機会はなかったのだ。

以下は、The Ring誌が公式サイトで公開している現在のタイトル認定・失効条件だ。

■The Ring誌タイトル認定条件

  • The Ring制定ランキングの同階級1位と2位が対戦すること。
  • 1位と2位の対戦が実現せず、1位が3位と対戦する場合、編集部が3位のファイターが王座にふさわしいと判断した場合、その勝者にベルトが与えられる。

■The Ring誌タイトル失効条件

  • チャンピオンがチャンピオンである階級で試合に負けた場合。
  • チャンピオンが他階級に転向した場合(2試合以上)。
  • チャンピオンが18か月間、どの階級でも試合をしない。
  • チャンピオンが18か月間、チャンピオンである階級で試合をしない(他階級での試合は対象外)。
  • チャンピオンが2年間、どの階級のトップ5コンテンダーとも試合をしない。
  • チャンピオンが引退した場合。
  • チャンピオンが身体強化系物質の陽性反応を示し、適切な機関(アスレティック・コミッションまたは統括組織)から罰金、出場停止などの処分を受けた場合。

■レーティング(ランキング)・ポリシー

  • 結果:最も客観的な基準であり、ほかのすべての基準よりも優先される。
  • パフォーマンス:ファイターが勝敗のなかでどのようなパフォーマンスを見せたかは、ランキングの順位を決める要因になる。
  • 実績:ファイターの最近の実績はランキングの順位を決める要因になる。対戦相手の質も含まれる。
  • The Ringレーティング(ランキング)は、世界中のボクシングジャーナリストからなる『The Ringレーティング・パネル』で制定・評価され、同誌の編集委員会が作成する。

ウェルター級王座の空位期間が8年に及んだ要因

The Ring誌が定めた細かな条件もあって、クロフォードがスペンスを下して同誌認定ウェルター級王座を手に入れるまで、8年もの空白期間が生まれたが、メイウェザー引退後にウェルター級で評価の高い試合が行われていなかったわけではない。

メイウェザーが引退した時期、ケル・ブルックがIBFのタイトルを保持していた。2017年にはスペンスがその王座をブルックから奪い、世界トップ戦線に躍り出た。

この試合はブルックの故郷である英国シェフィールドのブラモール・レーンにあるスタジアムで行われた。アメリカ人であるスペンスは試合序盤にやや苦しんだものの、11ラウンドにこのイギリス人ファイターを倒した。ブルックは左目の眼窩骨折を負った。

さかのぼると、ブルックは2014年、敵地でショーン・ポーターを破って王者になった。そのポーターはブルック戦に続いてWBA王者のキース・サーマンにも敗れたが、その後は見事に復活し、2018年9月に元王者のダニー・ガルシアを3-0判定で下して、空位となっていたWBCベルトを獲得した。

その1年後にポーターとスペンスが対戦したのだ。この語り草になった試合では『The Truth(本物)』ことスペンスが2-1判定で辛くも勝利した。ポーターは2021年11月にクロフォードから10ラウンドTKOで敗れ、その輝かしいキャリアに幕を引いた。クロフォードにとって5度目のタイトル防衛戦だった。

今に至るクロフォード王朝は、2018年にオーストラリア人のジェフ・ホーンを一方的に破って始まった。ホーンはその前にマニー・パッキャオに勝利する大殊勲を挙げ、世界を驚かせたばかりだった。

メイウェザーの古きライバルであるパッキャオは、その後もキャリア晩年を飾るいくつかの試合を行った。ルーカス・マティセーに勝利して、WBAの「レギュラー」タイトルを獲得し、そのベルトをエイドリアン・ブローナーから防衛した。そして、それまで無敗だったキース・サーマンを下して、「スーパー」王者に昇格した。

パッキャオとスペンスの対戦は2021年に成立していたが、直前にスペンスが網膜裂孔と診断されたために、対戦相手がキューバ人のヨルデニス・ウガスに変更された。ウガスはパッキャオに勝利して王座を奪還したが、その後スペンスから10ラウンドTKO負けを喫した。この勝利によってスペンスは4メジャー団体中3つのベルトを腰に巻くことになった。

こうして2015年以降もウェルター級で数々のスーパーファイトが実現していたものの、The Ring誌ランキング1位 vs. 2位(3位)の条件に当てはまらなかった。

The Ring誌ウェルター級王座を保持した名だたる王者たち

シュガー・レイ・ロビンソンはThe Ring誌認定ウェルター級王座を5度防衛し、史上最高ボクサーと称される。しかし、防衛回数に限って言えばヘンリー・アームストロングが1938年5月から1940年10月までの間で19度という同級での記録を持っている。

ロビンソンのあとにはキッド・ガビランが7度防衛し、第2次世界大戦後はホセ・ナポレスが10度防衛の記録を作った。

シュガー・レイ・レナードとロベルト・デュランは1980年に名高い2連戦を戦い、ベルトは2人の間を往復した。レナードと同じく米国人のドナルド・カリーは長い間王座に君臨したが、1986年9月に英国人ボクサーであるロイド・ハニガンに敗れた。

The Ring誌は1990年代に経営者が代わり、編集方針も変わった。同誌認定ベルトはその頃に一旦廃止されたが、2001年に復活し、ふたたび王座としての権威を取り戻した。

2002年1月、バーノン・フォレストがシェーン・モズリーを倒して21世紀初のThe Ring誌ウェルター級王者になった。その後はリカルド・マヨルガ、コーリー・スピンクス、ザブ・ジュダー、そしてカルロス・バルドミールが続いている。

バルドミールは2006年11月に『マネー』ことメイウェザーに敗れ、同誌ウェルター級ベルトを失った。メイウェザーは最初の引退で一旦手放すも、2013年にロバート・ゲレーロを下して2度目の獲得。4度の防衛後、2015年の2度目の引退で空位に。そして8年の時を経て、クロフォードが最新の王者となった。

7年空白のスーパーバンタム級は、井上vsタパレスで新王者誕生

なお、井上尚弥がスティーブン・フルトンを破ってWBC・WBO王者となったスーパーバンタム(ジュニアフェザー)級においては、2016年にギジェルモ・リゴンドーが18か月内にトップ5との対戦がなかったことで失効して以来7年間空位のままだ。

だが、この階級においてももうすぐこの長い空白期間が終わる。

2023年8月5日現在、The Ring誌同級ランキング1位が井上、2位がWBA・IBF王者マーロン・タパレスとなっており、11月にも行われるという4団体統一戦の勝者が、アンディスピューテッド王者になると同時に7年ぶりのThe Ring誌認定スーパーバンタム級王者となる。

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※本記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳後、日本向けの情報を加えた編集記事となる。原文:Dom Farrel、翻訳:角谷剛、編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮

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Dom Farrell

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Dom is the senior content producer for Sporting News UK. He previously worked as fan brands editor for Manchester City at Reach Plc. Prior to that, he built more than a decade of experience in the sports journalism industry, primarily for the Stats Perform and Press Association news agencies. Dom has covered major football events on location, including the entirety of Euro 2016 and the 2018 World Cup in Paris and St Petersburg respectively, along with numerous high-profile Premier League, Champions League and England international matches. Cricket and boxing are his other major sporting passions and he has covered the likes of Anthony Joshua, Tyson Fury, Wladimir Klitschko, Gennadiy Golovkin and Vasyl Lomachenko live from ringside.