英大手プロモーターMatchroomが日本で仕掛ける「プライズファイター」ってなに?

Tom Gray

神宮泰暁 Yasuaki Shingu

英大手プロモーターMatchroomが日本で仕掛ける「プライズファイター」ってなに? image

1月31日、英大手プロモーターのMatchroom(マッチルーム)社が、楽天チケット、NSN、ABEMAとの提携で、年間3大会を3年間に渡って開催することを改めて発表。3月30日の第1弾大会では、賞金トーナメントの実施と、亀田興毅氏の「3150FIGHT」と提携し、共同開催すること明らかにした。

Matchroom社の発表の流れと、目玉企画となる『プライズファイター』とはどんな大会なのかを解説する。

英大手Matchroom社の日本戦略が今春スタート

世界的なプロモーター、エディー・ハーン氏率いる英「Matchroom」社は昨年9月28日、ボクシングでは井上尚弥の大会チケット販売を一手に手掛ける「楽天チケット」と、元スペイン代表で昨年までJ1ヴィッセル神戸で活躍したアンドレス・イニエスタが共同創業者を務めるエージェント会社「Never Say Never(NSN)」とパートナーシップを結び、2024年から3年間に渡って年3回のイベントを日本で開催することを発表した。

この時点では、アンソニー・ジョシュアやディミトリー・ビボル、ジェシー・ロドリゲス、ムロジョン・アフマアダリエフ、日本人では京口紘人といった世界中の実力派ボクサーと契約する、あのMatchroom社が日本で定期的にイベントを行うらしい、という程度の情報しかなかった。大会配信も国内では、Matchroomと縁が深い「DAZN」ではなく、楽天グループ(楽天TV)で行うという説もあり、ディティールは判然としないものだった。

第1弾イベントを2024年1月に予定しているとされたものの、それ以降、新たな発表はないままだったが、1月31日、第2弾発表が都内で行われた。

3月31日に開催する国内初大会についての会見となった今回、前回の発表内容に加えて、日本国内の配信パートナーとして、格闘技のPPV販売実績を持つインターネットTV「ABEMA」が加わり、各大会をABEMA PPVで配信する。アジア以外ではDAZNが世界配信を担うことがわかった。

また、名古屋国際会議場イベントホールで開催される国内初大会は、元3階級制覇世界王者の亀田興毅氏がファウンダーを務める「3150FIGHT」の『3150FIGHT VOL.8』と共同開催する。同大会名義としては亀田和毅(負ければ引退の)再起戦が予定されている。

3150FIGHT(亀田プロモーション)もMatchroom社とパートナーシップ契約も結んでおり、契約内容の詳細は不明だが、今後の国内大会運営面で協力する一方、3150FIGHT単体のイベントではMatchroomがサポートするものとみられる。

これまで3150FIGHTでは、重岡優大・銀次郎兄弟の世界戦などを含め、海外から視聴する手段はほとんどなかったが、Matchroom社との提携によりDAZNでの世界配信が実現する可能性もある(これまで3150FIGHTは無料配信だったため、PPV配信になるのか気になるところだが)。国内では敵なしの日本ヘビー級王者・但馬ミツロも、Matchroom配下のヘビー級戦士を迎え撃つというプランも可能になるだろう。

そして、国内初大会の目玉となるのが、『Prizefighter』(プライズファイター)だ。このトーナメントがどんなものか詳しく解説していく。

Matchroomの『プライズファイター』とは?

1月31日の会見では、『プライズファイター』(以下PF)は8選手参加のミドル級トーナメントとして実施されることが明らかになっているが、このトーメントは元々はMatchroomが本拠地の英国で展開していた若手登竜門、あるいはベテラン復活の舞台となる意欲的なトーナメントだった。

名門『The Ring』誌(リングマガジン)元編集人で本誌英国編集部所属の格闘技部門副編集長のトム・グレイに聞いた。

「PFは、ワンナイトで終了する英国ベースのボクシングトーナメントでした。当初のフォーマットでは、ファイターたちは賞金3万2000ポンド(現在のレートで約595万円)を目指して準々決勝、準決勝、決勝を勝ち進むことになる。すべての試合は3ラウンド制で、視聴者にも優しい、ファストペースな大会運営が特徴でした」

「新しいフォーマットとの主な違いは、準々決勝、準決勝、決勝が別の夜に開催されること。また、試合の大部分は10ラウンド制で行われ、決勝戦は12ラウンド制となります。そして最後に、賞金総額は大幅に増額され、トーナメント優勝者は100万ドルを獲得します」

Mr.グレイが言うように、2024年版のPFはワンナイト形式ではなく、井上尚弥やオレクサンドル・ウシクが制した『ワールドボクシングスーパーシリーズ』のように、年間に渡ってシリーズ展開される見込みで、発表によれば、3月末の1回戦(準々決勝)後、準決勝を夏、決勝を冬に行うという。

また、賞金は100万ドル(約1億4707万円)に跳ね上がった。さらに決勝出場ボーナス65万ドル(約9560万円)、準決勝出場ボーナス27万5000ドル(約4044万円)、大会参加ボーナスが7万5000ドル(約1103万円)にKO賞が10万ドル(約1470万円)と、まさしく賞金(プライズ)を競い合う『プライズファイター』という名前に恥じない莫大な賞金が用意される。

「初期のイベントは英国のSKYスポーツによって放送され、2008年から2015年まで開催されました。トーナメントはスーパーフライ級からヘビー級まで、ほぼすべての階級で実施されています」

「初期PF参加後に世界王者になったファイターには、元WBA世界スーパーミドル級王者ロッキー・フィールディング、元WBA世界ライト級王者アンソニー・クローラ、元WBO世界ライト級王者テリー・フラナガンらや、参加時点で元世界王者だったベテランは、元WBA世界スーパーライト級王者ゲビン・リース、元WBA世界スーパーライト級王者ジュニア・ウィッター、元WBC世界スーパーミドル級王者ロビン・リードなどが含まれます」

2024年版は前述通り、まずはミドル級で8名参加のトーナメントとなり、会見で準々決勝の組み合わせ抽選会が行われた。日本からは同級日本王者の国本陸(六島)、同1位の可兒栄樹(T&T)が参加し、両者は3月に早速激突する。

3月31日名古屋大会の準々決勝は以下の組み合わせとなる。

  • 準々決勝A:国本陸(日本、10勝1敗 4KO) vs. 可兒栄樹(日本、8勝3敗3分 4KO)
  • 準々決勝B:マーク・ディキンソン(英国、6勝0敗 2KO) vs. アナエル・ガミセンゲ(フランス、13勝0敗 8KO)
  • 準々決勝C:キーロン・コンウェイ(英国、20勝3敗1分 5KO) vs. アイニウェア・イリィアティ(中国、19勝1敗 14KO)
  • 準々決勝D:アーロン・マッケンナ(アイルランド、18勝0敗 9KO) vs. ジョバニー・エステラ(米国/プエルトリコ、14勝0敗 5KO)

いずれも世界王者を目指すファイターだが、中でもコンウェイは現WBAインターコンチネンタル王者とあって、優勝候補筆頭になるだろう。

最後にMr.グレイはMatchroomの試みについてこう解説する。

「ファイターたちが大きな大会で人生を変えるほどの賞金を賭けて競い合うということは、ファンにとっても最初から最後まで熱狂的な対戦を楽しめることを意味する。過去7年間にわたって運営されていたことが示すように、PFフォーマットのトーナメントは大きな成功を収めました。Matchroom、NSN、楽天チケットが『PF』を復活させたことは、このスポーツ(ボクシング)にとって大きな前進と言えます」

Tom Gray

Tom Gray Photo

Tom Gray joined The Sporting News in 2022 after over a decade at Ring Magazine where he served as managing editor. Tom retains his position on The Ring ratings panel and is a full member of the Boxing Writers Association of America.

神宮泰暁 Yasuaki Shingu

神宮泰暁 Yasuaki Shingu Photo

日本編集部所属。ボクシング・格闘技担当編集者。