【ボクシング】アンディスピューテッド・チャンピオンと統一王者の違いは?

Tom Gray

神宮泰暁 Yasuaki Shingu

石山修二 Shuji Ishiyama

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5月18日、オレクサンドル・ウシクは25年ぶりにヘビー級アンディスピューテッド・チャンピオンとなった。このウクライナの偉大なボクサーは、イベンダー・ホリフィールドが30年以上前、3団体時代に達成して以来となる、クルーザー級アンディスピューテッド王者を経てヘビー級の世界タイトルを独占した、ボクシング史上2人目の傑物となった。

昨今のボクシング界でよく聞く『アンディスピューテッド・チャンピオン』(4団体統一王者)と『ユニファイド・チャンピオン』(統一王者)、その違いについて、名門誌『The Ring』(リングマガジン)元編集人で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが解説する。

■25年要したヘビー級以外に4団体統一未達の階級がまだある現実

3団体の統一王者だったウシク(22勝0敗、14KO)は、サウジアラビア・リヤドのキングダムアリーナで、これまで無敗だったWBC王者タイソン・フューリー(英国)を相手に、見事な12ラウンドのスプリット判定勝ちを収めた。

この試合は何年も前から準備されていたが、多くのファンやメディア関係者は(ヘビー級戦線の流動的な交渉事や主にフューリーのきまぐれ具合から)実現しないと確信していたほどだった。最終的に、運良くボクシング界は近年の記憶に残るであろう最高のヘビー級対決のひとつを目にすることができた。

しかし、ヘビー級アンディスピューテッド王者を決めるのはなぜこんなにも難しかったのだろうか? もっと言えば、ヘビー級は25年を要したが、長らくアンディスピューテッド王者が生まれていない階級はまだいくつもある。

WBA/WBC世界ライトフライ級統一王者の寺地拳四朗は同階級で最強の呼び声も高いが、対抗王者の入れ替わりや指名挑戦者の存在、交渉の不発によりアンディスピューテッド王者への道は険しいままだ。井上尚弥がスーパーバンタム級をわずか2試合で完全制圧できたことは、奇跡的な好タイミングだったとも言える。それだけ今のチャンピオン事情は複雑だからだ。

現在のボクシング界で誰がチャンピオンかを把握するのは、熱心なボクシングファンならともかく、カジュアルにボクシングを楽しむ層には難しくなってきているのが実情だろう。各階級にいくつものベルトが存在し、かたや『ユニファイド・チャンピオン』(統一王者)がいて、もう一方で『アンディスピューテッド・チャンピオン』(4団体統一王者)がいたりすると、その違いもよく分からなくなってしまうに違いない。

1960年以前であれば、ほとんどのボクシングのタイトルは『アンディスピューテッド(undisputed=議論の余地がない、疑いようのない)』なものだった。というのも各階級にチャンピオンはひとりしかいなかったからだ。しかしボクシング人気の隆盛とともにボクシング団体(タイトル・ランキング認定団体)が増え、結果としてチャンピオンも増えていった。そうすると、『本当の』チャンピオンはいったい誰なのかという議論が巻き起こるのも当然の話だろう。

特に、ボクサーが階級を行き来したり、ボクシング界の政治的な動きなどが絡んでくると、チャンピオンの価値はなおさら難しいものになってくる。

2004年までボクシング界にはWBA(World Boxing Associatio、世界ボクシング協会)、WBC(World Boxing Council 、世界ボクシング評議会)、IBF(International Boxing Federation、国際ボクシング連盟)の3つの主要団体が存在していた。

そして2004年、WBAに続き、WBCにも認められる形でWBO(World Boxing Organization、世界ボクシング機構)が主要団体に昇格した。以来、ボクシング界ではこの世界主要4団体のベルトが、階級ごとに存在するようになり、アンディスピューテッド王者の定義とそこに至る壁はさらに高くなった。

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■『アンディスピューテッド・チャンピオン』とは?

『アンディスピューテッド・チャンピオン』(Undisputed Champion)とは、ひとつの階級に存在する主要4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)の世界タイトル全てを手にしているチャンピオンのことをいう(日本では「4団体統一王者」とも呼ぶ)。

なお、IBO(International Boxing Organization、国際ボクシング機構)や名門誌『The Ring』(リングマガジン)認定王座は、いずれも「第5の世界タイトル」という扱いで、現状、主要4団体以外はアンディスピューテッド王者の条件には含まれない認識。

また、主要4団体の世界タイトルでも、アンディスピューテッド扱いとなるのは「スーパー王座(WBA)・正規王座」以上の認識が通例。「暫定・シルバー・休養王座」はカウントしない。

4団体時代に突入した2004年以降でみても、同一階級で4本のベルトを手にしたボクサーは男子で9人、女子で10人となっている。4団体時代史上初のアンディスピューテッド王者は、2004年9月18日にオスカー・デラホーヤ(米国)を破ったバーナード・ホプキンス(米国)。

■アンディスピューテッド・チャンピオン(男子)

  • オレクサンドル・ウシク(クルーザー級、ヘビー級)*
  • カネロ・アルバレス(スーパーミドル級)*
  • バーナード・ホプキンス(ミドル級)
  • ジャーメイン・テイラー(ミドル級)
  • ジャーメル・チャーロ(スーパーウェルター級)
  • テレンス・クロフォード(スーパーライト級、ウェルター級)
  • ジョシュ・テイラー(スーパーライト級)
  • デヴィン・ヘイニー(ライト級)
  • 井上尚弥(バンタム級、スーパーバンタム級) *

*現チャンピオン
*2024年6月6日付

■アンディスピューテッド・チャンピオン (女子)

  • サバンナ・マーシャル(スーパーミドル級)
  • フランション・クルーズ=デザーン(スーパーミドル級)
  • クラレッサ・シールズ (スーパーウェルター級、ミドル級)* ミドル級は2度
  • セシリア・ブレークフス(ウェルター級)
  • ジェシカ・マッキャスキル(ウェルター級)
  • シャンテル・キャメロン(スーパーライト級)
  • ケイティ・テイラー(ライト級、スーパーライト級)*
  • アリシア・バウムガードナー(スーパーフェザー級)*
  • アマンダ・セラーノ(フェザー級)
  • セニエサ・エストラーダ(ミニマム級)*

*現チャンピオン
*2024年6月6日付

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しかし、ひとつの階級で2〜3本のベルトを手にしたボクサーとなると大勢存在する。

■『ユニファイド・チャンピオン』とは?

ユニファイド・チャンピオン』(Unified Champion)とは、ひとつの階級でWBA、WBC、IBF、WBOの主要4団体のうち、2つないしは3つのタイトルを手にしたチャンピオンのことをいう(日本では「統一王者」と呼ぶ)。

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現在の『ユニファイド・チャンピオン』は?

現在『ユニファイド・チャンピン』(統一王者)には以下のようなボクサーたちがいる。団体Aのスーパーor正規王座と団体Bの暫定or休養王座を持つケースは除いた。

ユニファイド・チャンピン(男子)

  • ライトヘビー級:アルツール・ベテルビエフ — WBC、IBF、WBO 
  • ミドル級:ジャニベク・アリムハヌリ — IBF、WBO
  • スーパーウェルター級:セバスチャン・フンドラ — WBC、WBO 
  • ウェルター級:テレンス・クロフォード — WBA、WBO
  • ライトフライ級:寺地拳四朗 — WBA、WBC

*2024年6月6日付

ユニファイド・チャンピン(女子)

  • スーパーミドル級:サバンナ・マーシャル — WBA、IBF、WBO
  • スーパーウェルター級:エマ・コジン — WBC、WBO 
  • ライト級:ケイティ・テイラー — WBA、WBC
  • フェザー級:アマンダ・セラーノ — WBA、IBF、WBO
  • スーパーバンタム級:エリー・スコットニー — IBF、WBO
  • バンタム級:ディナ・ソルスルンド — WBC、WBO
  • フライ級:ガブリエラ・アラニス — WBA、WBC、WBO
  • ライトフライ級:ジェシカ・ネリ・プラタ — WBA、WBC
  • ライトフライ級:エブリン・ベルムデス — IBF、WBO
  • アトム級:松田恵里 — WBA、WBO

*2024年6月6日付

※この記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳し、日本向けに一部編集を加えたものとなります。翻訳・編集: 石山修二(スポーティングニュース日本版)、編集:神宮泰暁(スポーティングニュース日本版)

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Tom Gray joined The Sporting News in 2022 after over a decade at Ring Magazine where he served as managing editor. Tom retains his position on The Ring ratings panel and is a full member of the Boxing Writers Association of America.

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日本編集部所属。ボクシング・格闘技担当編集者。

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スポーティングニュース日本版アシスタントエディター