井上尚弥が1位に!|スポーティングニュース選出パウンド・フォー・パウンド・ランキング【2023夏版】

Tom Gray

神宮泰暁 Yasuaki Shingu

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7月25日の夜、井上尚弥がWBC・WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトンを強烈な猛打で撃破したことで、各国・各メディアの制定するパウンド・フォー・パウンド・ランキングはそれぞれ更新を避けられない事態となった。

本誌スポーティングニュース選出P4Pランキングも例に漏れず更新された。名門誌『The Ring』(リングマガジン)出身で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが解説する。

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井上が激勝によってパウンド・フォー・パウンド界隈を騒がす

ボクシング界では、ここ半年だけでもパウンド・フォー・パウンド・ランキングを入れ替えるような候補者が続々と浮上してきたが、そんななか、『ザ・モンスター』井上尚弥がそれまで無敗だったスティーブン・フルトンを8ラウンドTKOで下し、4階級制覇を達成した。

この試合は7月25日、東京の有明アリーナで行われ、井上にとって初の122ポンド(スーパーバンタム)級戦線進出となった。29歳のフルトンはWBCとWBOのタイトル保持者としてリングに上がり、日本の戦士がこれまで対戦したなかで史上最強のボクサーとみなされていた。フルトンは21戦無敗にして、相手に一度もポイントを取られたことがない技巧派ファイターだった。

ただ、実際のところ、それは少しも問題にはならなかった。

井上は開始ゴングから優勢に試合を進め、高速でソリッドなジャブとコンビネーションでフルトンを追い詰めた。フルトンはテクニカルなセンスと巧みな動きで序盤をしのいだが、ラウンドが進むにつれてダメージが蓄積し、口鼻から出血した。

第8ラウンド、井上の右が炸裂すると、フルトンをその場に凍りつかせた。その瞬間、井上は驚異的な反応速度で獲物に襲いかかり、身体ごと浴びせるような左フックをアゴに叩き込む。フルトンにリカバリーする術はなく、立ち上がった直後に試合はストップされた。

この衝撃の勝利をもってスポーティングニュースは、井上尚弥を「現役最高のパウンド・フォー・パウンド・ファイター」と見なしている。

賛成か、反対か、あなたの意見があるだろう。それがどんな答えにせよ、以下がスポーティングニュース選出の新パウンド・フォー・パウンド・ランキング(2023年夏版)である。

関連記事:【速報】井上尚弥が8回TKOで4階級制覇達成!|試合経過・ハイライト・結果

No.1:井上尚弥

  • 戦績:25勝0敗(22KO)
  • 保有タイトル:WBC・WBO世界スーパーバンタム級王座

この傑出したファイターに『ザ・モンスター』ほどふさわしいニックネームがあるだろうか? 井上(30歳)はプロになった瞬間から、圧倒的なパンチ力、驚異的なハンドスピード、そして模範的なテクニックを持っていた。エマヌエル・ロドリゲス(2回TKO)、ノニト・ドネア(3-0判定/2回TKO)、スティーブン・フルトン(8回TKO)らを撃破してきた。とどまることを知らない日本人スターは、アジア人初の4団体統一(バンタム級)、世界4階級制覇など、ボクシング界における偉業を次々に打ち立てており、今後も新たな歴史をつくることになるだろう。

次の試合:年末、WBAスーパー&IBF同級王者マーロン・タパレスとの4団体統一戦で2階級目のアンディスピューテッド王者を目指す

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No.2:オレクサンドル・ウシク

  • 戦績:20勝0敗(13KO)
  • 保有タイトル:WBAスーパー・IBF・WBOおよびThe Ring誌認定世界ヘビー級王座

元オリンピック王者であり、元クルーザー級4団体統一王者でもあり、そして現ヘビー級世界3団体統一王者。35歳のウシクは、間違いなく現在のボクシング界で最高のテクニシャンであり、完璧なパッケージ(すべてを備えたファイター)だ。猛烈なハンドスピード、素早いフットワーク、驚異的な運動能力、そして比類なきリングIQに恵まれたウクライナの魔術師は、マイリス・ブリエディス(2-0判定)、ムラト・ガシエフ(3-0判定)、アンソニー・ジョシュア(3−0判定、2-1判定)からキャリアを決定付ける勝利を収めている。

次の試合:タイソン・フューリー戦が頓挫したため、WBA指名挑戦者であるダニエル・デュボアと8月26日にウクライナの隣国ポーランドで対戦予定

No.3:テレンス・クロフォード

  • 戦績:39勝0敗(30KO)
  • 保有タイトル:WBO世界ウェルター級王座

米国オマハ出身のクロフォードは、今日のボクシング界で最も栄誉ある才能豊かな世界チャンピオンのひとりである。『バド 』ことクロフォードは、ライト級での世界タイトルの成功に続き、スーパーライト級でアンディスピューテッド王者になった。2018年以降、この35歳のハードパンチャーはウェルター級で防衛ロードを歩んできたが、そのパフォーマンスレベルは依然としてエリートクラスである。

キャリアハイライトは、リッキー・バーンズ戦(3-0判定)、ユリオルキス・ガンボア戦(9回TKO)、ビクトル・ポストル戦(3-0判定)、アミール・カーン戦(6回TKO)、ショーン・ポーター戦(10回TKO)など。

次の試合:7月29日(日本時間30日)に待望のエロール・スペンスJr.との頂上対決

関連記事:7月の2大決戦、井上vsフルトンはスペンスvsクロフォードを上回るスーパーファイトとなるか?

No.4:エロール・スペンスJr.

  • 戦績:28勝0敗(22KO)
  • 保有タイトル:WBAスーパー・WBC・IBF世界ウェルター級王座

この米国人天才ボクサーがボクシングのリングでできないことは何もない。33歳のテキサンは、インサイドもアウトサイドも得意で、パンチのバリエーションは群を抜いている。147ポンド(66.8kg以下)級のベルトの4分の3を保持する『ザ・トゥルース 』(真実)は、世界最高のウェルター級選手である。

主な勝ち星はケル・ブルック(11回KO)、ショーン・ポーター(2−1判定)、ダニー・ガルシア(3-0判定)、ヨルデニス・ウガス(10回TKO)。

次の試合:7月29日、宿命のライバル、テレンス・クロフォードとの待望の一戦

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No.5:カネロ・アルバレス

  • 戦績:59勝2敗2分(39KO)
  • 保有タイトル:スーパーミドル級4団体統一王座

言うまでもなく、カネロ(サウル・アルバレス)はボクシング界最大のスターだ。

スーパーウェルター級、ミドル級、ライトヘビー級の王者だったメキシコのスターは、現在168ポンド(76.2kg以下)のアンディスピューテッド王者に君臨している。アマチュアの基礎がほとんどないカネロは、プロとして実地で学び、充実した技巧派に成長した。2022年5月にはディミトリー・ビボルに敗れはしたが、カネロの経歴は同業者が羨むほどだ。

エリスランディ・ララ(2-1判定)、ミゲール・コット(3-0判定)、ゲンナジー・ゴロフキン(2-0判定、3-0判定)、ダニエル・ジェイコブス(3-0判定)、セルゲイ・コバレフ(11回KO)ら多くの強豪を退けてきた。

次の試合:9月30日、ジャーメル・チャーロを相手にスーパーミドル級4団体統一王座の防衛戦に臨む

No.6:ディミトリー・ビボル

  • 戦績:21勝0敗(11KO)
  • 保有タイトル:WBA世界ライトヘビー級王座

「彼はどこからともなくやってきた」。ビボルについて表現する際、こう表現したくなる。そのくらい突如としてパウンド・フォー・パウンド・ランキングに現れたからだ。

31歳のビボルは、ライトヘビー級のタイトル保持者として長く君臨していたが、ボクシング界のスーパースター、カネロ・アルバレスの『生け贄』に選ばれるまで、世界的な知名度は高いとは言えなかった。そしてそのカネロの計画はこの無名王者によって打ち砕かれた。

才能豊かで屈強なビボルは、12ラウンドにわたってメキシコのスターを圧倒し、パウンド・フォー・パウンドのランキングを塗り替え、群雄割拠から抜け出したのだ。

2022年11月、ロシアのテクニシャンはそれまで無敵だったヒルベルト・ラミレスをアウトボクシングで下した。ビボルはジャン・パスカル(3-0判定)、ジョー・スミス・ジュニア(3-0判定)にも勝利している。KOは少ないがそのテクニックはボクシング界でも指折りだ。

次の試合:現時点では予定がない
 

No.7:デビン・ヘイニー

  • 戦績:30勝0敗(15KO)
  • 保有タイトル:ライト級4団体統一王座

2023年5月、『ザ・ドリーム』ことヘイニーが伝説の元3階級制覇王者ワシル・ロマチェンコを下した(3-0判定)。しかし、誰もがこの判定勝利に納得したわけではなく、多くのファンが即刻の再戦を求めている。

昨年6月、ヘイニーはWBC世界ライト級王者としてオーストラリアに渡り、テオフィモ・ロペスを退けたジョージ・カンボソスJr.と4団体王座統一戦を行った。24歳のヘイニーはカンボソスを圧倒し(3-0判定)、世界主要3団体時代だった1980年代後半のパーネル・ウィテカー以来となるライト級アンディスピューテッド王者に輝いた。この若きチャンピオンのスピード、技術、距離感、そして卓越した戦略は最高レベルだ。

その他の印象的な勝利には、ホルヘ・リナレス(3-0判定)、ジョセフ・ディアス・ジュニア(3−0判定)、そしてカンボソスとの再戦での勝利(3-0判定)などがある。

次の試合:WBA正規王者ジャーボンテイ・デイビスとの対決が望まれているが、ヘイニーがスーパーライト級に転向するという噂は根強い
 

No.8:テオフィモ・ロペス

  • 戦績:19勝1敗(13KO)
  • 保有タイトル:WBO・The RIng誌認定世界スーパーライト級王座

これまで無敵だったジョシュ・テイラーに歴史的勝利を収めたロペスが、今後パウンド・フォー・パウンド・リストの上位に返り咲く可能性は高い。

2020年にワシル・ロマチェンコを破ったとき、ロペスはボクシング界の喝采を浴び、パウンド・フォー・パウンド・キングの有力候補だった。しかし、ジョージ・カンボソスJr.に屈辱的な敗北を喫し、その後のパフォーマンスも芳しくなく、25歳のロペスは外野に追いやられた。

しかし、ボクシングの世界ではトップに返り咲くのに必要なのは、鮮烈な試合ひとつだけで十分であり、ロペスはまさにそれをやってのけた。ロマチェンコを倒して以来のベストを尽くしたロペスは、12ラウンドにわたってテイラーをアウトボクシングで料理し、全会一致の判定勝ちを収めた。

次の試合:ライト級のヘイニーとの対決の噂が絶えない

No.9:タイソン・フューリー

  • 戦績:33勝0敗1分け(24KO)
  • 保有タイトル:WBC世界ヘビー級王座

この巨人が2015年11月から2018年6月にかけて表舞台から姿を消したとき、多くの者が『ジプシー・キング』はボクシング界に永久に戻って来ないと思っていた。薬物違反やメンタルヘルスの問題を抱え、そして本人が後述したその身体は「豚のように太っていた」からだ。フューリーが最初に起こした奇跡は、ヘビー級の世界王座に返り咲く前に行った、マイナス140ポンド(約64kg)の大幅減量だった。

ヘビー級最前線に復帰したフューリーのリングIQとファイティングスピリッツは非の打ち所がない。体格任せだったファイトスタイルは、巧みなアウトボクシングを取り入れさらに磨きがかかったが、特筆すべきは驚異的なタフさと回復力だろう。

ウラジミール・クリチコ(3-0判定)、デオンテイ・ワイルダー(7回TKO、11回KO)にはキャリアを決定づける勝利を収めている。

次の試合:フューリーは10月29日、元UFCヘビー級王者のMMAスター、フランシス・ガヌーと対戦する

関連記事:タイソン・フューリー vs. フランシス・ガヌー:まさかのスーパーファイトが実現する理由
 

No.10:シャクール・スティーブンソン

  • 戦績:20勝0敗(10KO)
  • 保有タイトル:-

25歳のスティーブンソンは現在、世界タイトルを保持していないが、それに惑わされてはいけない。元フェザー級、元スーパーフェザー級世界王者であるスティーブンソンは非凡な才能の持ち主で、2023年4月のライト級デビュー戦では吉野修一郎を完膚なきまでに叩きのめした。オリンピック銀メダリストであるスティーブンソンは、プロのリングでも見事に適応しており、まさに完璧なファイターの定義そのものだ。

ニュージャージー出身のこのスターは、すでにジャメル・ヘリング(10回TKO)、オスカル・バルデス(3-0判定)、ロブソン・コンセイカオ(3-0判定)に勝利している。

次の試合:直近では予定がないが、井上尚弥との対戦が期待されているひとりだ

No.11:ファン・フランシスコ・エストラーダ

  • 戦績:44勝3敗(28KO)
  • 保有タイトル:WBC・The Ring誌認定世界スーパーフライ級王座

メキシコのスター、エストラーダは母国の血と粘り強さと頭脳的なファイト・アプローチをうまく融合させている。フライ級の元統一王者である『エル・ガロ』は、115ポンド(スーパーフライ)級に転向し、かなりの成功を収めている。

32歳のエストラーダは、キャリアを決定付ける数々の勝利で、すでに殿堂入りの切符を手にしたも同然だ。そのなかにはブライアン・ビロリア(2-1判定)、シーサケット・ソー・ルンビサイ(3-0判定)、ローマン・ゴンサレス(2-0判定、2-1判定)などが含まれる。

次の試合:友好的なライバル、ロマゴンとの4度目の対戦が取り沙汰されている。エストラーダはこのシリーズで2勝1敗とリードする。また、WBA王者の井岡一翔が対戦を熱望している
 

No.12:ワシル・ロマチェンコ

  • 戦績:17勝3敗(11KO)
  • 保有タイトル:-

昨年10月、ライト級の新鋭ジャメイン・オルティスを相手に精彩を欠いた試合を見せたあと、ロマチェンコの凋落を嘆く声が多く聞かれたが、まだまだそんなことはなかった!

ロマチェンコは今年5月20日、ライト級アンディスピューテッド王者デビン・ヘイニーに判定負けを喫したが、往年のファンを奮い立たせるパフォーマンスを見せた。

このウクライナの戦士は、2つのオリンピック金メダルを獲得したあと、世界最速で3階級を制覇。ゲーリー・ラッセル・ジュニア(2−0判定)、ローマン・マルチネス(5回KO)、ニコラス・ウォルターズ(7回TKO)、ギジェルモ・リゴンドー(6回TKO)、ホルヘ・リナレス(10回TKO)らを撃破してきた緻密なボクシングは今も健在だ。

次の試合:休養明けのロマチェンコは積極的にヘイニーに再戦を申し込むだろう。それが実現するかどうかは別問題だが…

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原文:The Sporting News: Boxing top 12 pound-for-pound list
翻訳/編集:スポーティングニュース日本版編集部 神宮

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Tom Gray

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Tom Gray joined The Sporting News in 2022 after over a decade at Ring Magazine where he served as managing editor. Tom retains his position on The Ring ratings panel and is a full member of the Boxing Writers Association of America.

神宮泰暁 Yasuaki Shingu

神宮泰暁 Yasuaki Shingu Photo

日本編集部所属。ボクシング・格闘技担当編集者。