テレンス・クロフォードは史上最高のウェルター級ボクサーか? 歴史から見るGOAT賛否両論

Andreas Hale

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テレンス・クロフォードはエロール・スペンス・ジュニアを圧倒し、4メジャー団体時代になってから初めてのウェルター級統一王者になった。もはや史上最高のウェルター級ボクサーの称号に相応しいと断言するべきか、まだそう認めるには早いという賛否両論が巻き起こっている。

井上尚弥のフルトン撃破を凌駕するようなパフォーマンスをみせたクロフォードのGOAT論について、賛否それぞれの議論をもとに、『The Ring』『Boxing Scene』等大手ボクシングメディアでの執筆経験を持つアンドレアス・ヘイルが紐解いていく。

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井上尚弥を超えるパフォーマンスをやってのけたクロフォード

エロール・スペンス・ジュニア を圧倒し、ウェルター級4団体統一王者になったテレンス・クロフォードが現在のパウンド・フォー・パウンド世界1位であることを疑うものはいないだろう。

本誌スポーティングニュースを含めたいくつかのメディアにおいて、井上尚弥がその座についたのは7月25日のことだった。スティーブン・フルトンをTKOで下した『ザ・モンスター』を上回る評価を得るためには、クロフォードにはかなり鮮烈な勝利が必要になるだろうと予想されていた。

そしてクロフォードはまさにそれをやってのけた。人生最高のパフォーマンスであったし、しかも対戦相手はそれまで試合中に顔色を変えたことさえなかったような無敗のファイターだったのだ。スペンスはキャリアを通してウェルター級で戦い続け、強敵を次々に倒して、同級メジャー4団体のうち3つのタイトルを保持していた。

クロフォードにとって世界主要4団体タイトル統一戦は、Top Rank社と契約していた頃からの念願だった。ボクシング界最大の試合のひとつに数えられ、真に50-50の戦いになると見られていた。しかし、スペンスが最も手強い対戦相手になるかどうかを問われたとき、クロフォードは肩をすくめて、それはリングで戦ってみないと分からないといつものように答えた。

クロフォードはスペンスに対しても、それまでの対戦相手と同じように圧倒した。ラウンドを重ねるごとにクロフォードの優勢は明らかになっていった。1ラウンド目にスペンスのジャブがクロフォードに当たっていたことを除けば、あとはパウンド・フォー・パウンドのスター選手同士の戦いとしては類がないほどの一方的な展開だった。
 

クロフォードが現在のボクシング界で最強であるかどうかを問うより、今はこのネブラスカ州オマハ出身のボクサーがウェルター級の歴史で「最高の男」と認められるべきかどうかを議論するに相応しいときである。

テレンス・クロフォードがウェルター級の『G.O.A.T.』(Greatest Of All Time ― 史上最高)であるかどうかの賛否をそれぞれの議論を紐解いて紹介する。

賛成論:クロフォードは史上最高のウェルター級ボクサーである

クロフォードがウェルター級に転向したのは2018年のことである。それからの戦績は8戦8勝8KOだ。まずジェフ・ホーンを破ってWBO王座を獲得し、ショーン・ポーター、ケル・ブルック、アミール・カーン、エギディウス・カバリアウスカスといった強敵から次々に勝利をおさめ、今回の4団体統一戦に辿り着いた。

それでもクロフォードの実力に疑問を抱くものはいた。スペンスはそれまでクロフォードが39試合で戦った相手とは別格であるとも思われていた。クロフォードはそのスペンスを圧倒するパフォーマンスを見せつけ、そうした疑問を一掃してみせた。主要4団体時代になってから初めてのウェルター級アンディスピューテッド王者であるが、『史上最高』かどうかの議論を始めても良いのか。

もちろんだ。

多くのボクシング通にとって、史上最高のウェルター級ボクサーはシュガー・レイ・レナードであろう。このボクシング界のレジェンドは、22勝1敗16KOのキャリア成績を残した。唯一の敗戦はロベルト・デュランに喫した判定負けであるが、その5か月後には再戦で『石の拳』と呼ばれたデュランを試合放棄に追い込む勝利を挙げた。

フロイド・メイウェザー・ジュニアもウェルター級史上最高のひとりと考えられるボクサーだ。同階級における12勝0敗3KOの戦績のうち、ザブ・ジュダー、マニー・パッキャオ、シェーン・モズリー、そしてファン・マヌエル・マルケスに勝利している。

あるいはシュガー・レイ・ロビンソンこそが最も偉大なウェルター級ファイターだとすぐに頭に浮かぶが、じつはこの階級での試合数はさほど多くはない。ほかにはキッド・ガビラン、エミール・グリフィス、ホセ・ナポレスといった名前を挙げる人もいるだろう。確かに過去50年のウェルター級史に飾られるべき存在だが、彼らのキャリアは史上最高の議論にはいささか不十分と言わざるを得ない。

それに対してトップクラスの強敵たちに加えて、3団体王者スペンスに勝利したことで、クロフォードはメイウェザーより優れたウェルター級ボクサーであるとの認識が高まった。メイウェザーは偉大ではあるが、ウェルター級で対戦した相手は必ずしも強敵ではなかったからだ。

Floyd Mayweather FTR

ファン・マヌエル・マルケスはメイウェザーに対して体格が小さすぎた。シェーン・モズリーは全盛期の強さはなかった。マニー・パッキャオは明らかにこの階級には向いていなかったし、ザブ・ジュダーもまた全盛期を過ぎていた。つまりメイウェザーはクロフォードのようにパウンド・フォー・パウンド級の相手とウェルター級で対戦していないのだ。クロフォードはウェルター級を主戦場としている強敵を完璧な形で圧倒してきた。

ではシュガー・レイ・レナードはどうか。レナードはウェルター級の黄金時代に活躍した。しのぎを削った相手にはデュラン、トーマス・ハーンズ、そしてウィルフレド・ベニテスらがいた。レナードには偉大なデュランに判定負けを喫した事実が残るし、再戦での勝利もデュランの減量失敗を理由に挙げる人もいる。ハーンズ戦での逆転TKO勝ちは間違いなくキャリア最高の勝利に数えられるが。

しかし、多くの対戦相手をことごとく倒してきたクロフォードの圧倒的なまでの戦績はまさに驚異的である。パワー、スピード、防御、決定力、そしてボクシングIQをすべて兼ね備えたクロフォードに匹敵するボクサーは現在のウェルター級には存在しない。

クロフォードが無敵であることは証明された。史上最高のウェルター級ボクサーの称号にふさわしい。

これが「賛成論」だ。

反対論:クロフォードは「まだ」史上最高のウェルター級ボクサーではない

一方、まだクロフォードを史上最高と認めることを拒む声もある。「否」の議論を見ていこう。

まず事実として、クロフォードはウェルター級でのキャリアはさほど長くはないうえ(2018年6月〜)、まだ終わってもいない。35歳という年齢を考えるとこれから失敗する可能性はあるし、引退するまでには同階級8勝0敗8KOの完璧な戦績に傷がつくかもしれない。

好意的な視点の賛成論と打って代わり、クロフォードがスペンス以前に対戦した相手のリストは過去の偉大な王者たちのリストと比べると「見劣り」するという評価がベースになる。最大のライバルである『The Truth(真実)』の異名を持つスペンスが真にウェルター級の歴史に残るボクサーであったかもまだ分からない。

そして、デュランに負けたとは言え、それでもシュガー・レイ・レナードを「史上最高」の座から外すことは実に困難である。どれほどクロフォードが現在のウェルター級で圧倒的であっても、現時点ではハーンズやデュランのような強敵と戦ったとは到底思えないからだ。

実際のところ、クロフォードはまだシュガー・レイ・レナードではなく、ドナルド・カリーと比較する方が適切ではないだろうか。

カリーは1980年代にウェルター級で猛威を振るったボクサーだ。それまで無敗だったミルトン・マクローリーを2ラウンドKOで倒し、1985年当時の3団体時代におけるウェルター級の全メジャー団体タイトルを獲得した。マーロン・スターリングにも2連勝している。

カリーの戦績が25勝0敗20KOにまで伸びたとき、その当時のパウンド・フォー・パウンド最強であるとだれもが考えた。しかし、カリーがロイド・ハニガンに6ラウンド終了時に棄権負けを喫するという大番狂わせが世界を驚かせ、すべては一瞬にして終わってしまった。

もちろんカリーに起きたことがクロフォードにも起きるとは限らない。だが、その可能性は存在する。ここまで述べたように、相対的にみて今はまだキャリアで最高の勝利を挙げたばかりだ。やはり史上最高かどうかの議論は「時期尚早」かもしれない。

これが「否定論」となり、ポテンシャルは認めながらも「時期尚早」という着地点だ。

この賛否両論のどちらを支持するにせよ、現時点でひとつだけ確実なことがある。テレンス・クロフォードは史上最高のウェルター級ボクサーの議論に名前が挙げられる資格があるということだ。

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原文:Is Terence Crawford the G.O.A.T. at 147 pounds? The case for and against Bud being greatest welterweight in history
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮

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Andreas Hale

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Andreas Hale is the senior editor for combat sports at The Sporting News. Formerly at DAZN, Hale has written for various combat sports outlets, including The Ring, Sherdog, Boxing Scene, FIGHT, Champions and others. He has been ringside for many of combat sports’ biggest events, which include Mayweather-Pacquiao, Mayweather-McGregor, Canelo-GGG, De La Hoya-Pacquiao, UFC 229, UFC 202 and UFC 196, among others. He also has spent nearly two decades in entertainment journalism as an editor for BET and HipHopDX while contributing to MTV, Billboard, The Grio, The Root, Revolt, The Source, The Grammys and a host of others. He also produced documentaries on Kendrick Lamar, Gennadiy Golovkin and Paul George for Jay-Z’s website Life+Times.