5月6日(月・祝)東京ドームでは、井上尚弥 vs 『悪童』ルイス・ネリを筆頭に4つの世界タイトルマッチが行われる。その中でセミファイナルを飾るのが、武居由樹の挑戦を受けるWBO世界バンタム級王者ジェイソン・モロニーだ。
かつて井上と対戦したことでも知られる豪州のベテラン王者モロニーが本誌取材に答えた。オーストラリア編集部のトーマス・ナーンが伝える。
■5.6東京ドーム、リスペクトする日本のファンの前で防衛戦へ
ジェイソン・モロニーがどこを見渡しても、ビッグファイトのニュースで溢れている。
現WBO世界バンタム級王者の称号を持つ、このオーストラリア人は2度目のタイトル防衛戦を目前にしている。5月6日の東京ドーム、最大収容人数55000人の大舞台で迎え撃つ挑戦者は、無敗の武居由樹。モロニー vs 武居はパウンド・フォー・パウンドのスーパースターである井上尚弥がルイス・ネリと激突する世紀の一戦のアンダーカードのひとつである。
井上の絶大な知名度と人気のおかげで、今、ほかの軽量級のボクサーたちもかつて経験したことがないレベルの注目を浴びている。
「東京に着いて、少し食べ物を買おうと思って街に出たら、すぐにたくさんの人たちに囲まれて、写真やサインを頼まれたよ」と、モロニーはスポーティングニュースに語った。
「空港でもレポーターやカメラマンがたくさん待ち受けていて、インタビューされた。こんなことは今まで経験したことがなかったよ」
モロニーは2020年にラスベガスで井上と対戦したことがある。善戦はしたものの、7ラウンドKOで敗れた。日本のファンに人気があるのはその記憶のせいもあるだろう。
「日本のファンは僕のファイティング・スピリットを気に入ってくれたのだと思うよ。僕が本気で井上に勝とうとしたことを分かってくれている。ほかの相手はたいてい井上から逃げ回ろうとするからね」
「彼ら(日本のファン)には僕が勝つための強い決意を持っていたことは伝わったはずだ。そのチャンスがあったこともね。彼らは本当のボクシングファンだ。このスポーツを愛しているし、知識も深い。だから僕のファイトを気に入ってくれたのだと思うし、それはとても嬉しい。だけど、今の僕は彼らが見たときの僕よりもずっと強いファイターになっているよ」
もし、5月6日の武居戦に勝てば、この33歳のオーストラリア人は、さらに大きな意味を持つタイトル統一戦を年内に行うことを視野に入れている。この階級で最強であることを証明するチャンスになるはずだ。
■「バンタム王国」日本に4王者が集結! 統一戦への期待
「今、4人のバンタム級世界王者は全員が日本にいる」とモロニーは言った。WBO王者のモロニー自身、WBA王者の井上拓真、WBC王者の中谷潤人、そしてIBF王者エマヌエル・ロドリゲス。4団体統一を果たした井上尚弥がスーパーバンタム級転向に伴い、2023年1月に全タイトルを返上したことで、各王者の試合のタイミングが似通うことになったが、よもやその全員が5月上旬の日本に集結することになった。
「4人ともほぼ同じタイミングで試合をしてきた。だからこそ、武居を下したあとは、タイトル統一戦をやりたいと願っている。現在、日本のボクシング界では大きな試合が次々に行われている。その波に乗れることができたらと思うとワクワクする」
もしモロニーが武居を下せば、同階級のタイトルホルダー3人のだれと戦うことになっても、その資格を疑うものはいなくなるはずだ。
井上の弟である井上拓真は、現WBA世界バンタム級王者であり、モロニー同様、5月6日に東京ドームで石田匠と対戦する。そうした接点を踏まえれば、モロニーと激突する最初の対抗王者になるかもしれない。
モロニーの戦績は27勝2敗。唯一のKO負けは『モンスター』こと井上に喫したものだ。その頃の井上はバンタム級で戦っていた。モロニーは井上兄弟に雪辱するチャンスには発奮するはずだ。
同じように、モロニーの双子の兄弟であるアンドリュー・モロニーも中谷潤人から衝撃的なKO負けを喫した。その中谷は現WBC世界バンタム級王者だ。モロニー家としてリベンジへのモチベーションには不足はない。
モロニー自身は昨年5月、ビンセント・アストロラビオに判定勝ちを収め、空位となっていたWBOのベルトを獲得した。そのわずか1週間後に、中谷はWBO世界スーパーフライ級王座決定戦において、のちに年間最高ノックアウト賞に選ばれることになるKO劇でアンドリューを倒したのだ。
「あの屈辱を晴らすことは僕にとっても家族にとっても重要なことだ」と、兄として忸怩たる思いを語った。
「弟が中谷に負けたあの試合をこの目で見たことは、もちろん衝撃的だった。中谷にリベンジできるとしたら、それは特別な瞬間になるだろうし、世界統一王者になって、もうひとつのベルトを肩にかけるという僕の夢も同時に実現する」
そして現IBF世界バンタム級王者の『マニー』ことエマヌエル・ロドリゲスは、5月4日に西田凌佑を相手に大阪(エディオンアリーナ大阪)で防衛戦を行う。2018年に世界タイトル戦でモロニーからスプリット判定勝ちを収めたボクサーだ。このプエルトリコ人もモロニーの記憶から消えたことはない。
「僕にとってはロドリゲスとの再戦は願ってもないことだ」とモロニーは今年の初めに言及していた。
「もし次戦の相手を選べるなら、それはロドリゲスだ」
もっとも、『Mayhem』(メイヘム=騒乱)の異名をもつモロニーは、対戦相手がだれになっても構わないという。
「このうちのだれが相手になっても、僕にとっては因縁も意味もある試合になる。統一王座をかけて戦うチャンスは僕のキャリアに大きなステップになるし、そんな大舞台に上がれたら嬉しい」
「とくにだれかとの戦いを優先したいというわけでもない。順番がどうなっても構わない。ただ最初に実現する試合で勝つために全力を尽くすだけだよ。武居に勝てば、どの試合だって可能になるはずだ」
そしてモロニーは賢明だ。今回の対戦相手を見くびっているわけではない。
■モロニーへの勝利のカギは? 武居の変則性と強打を制すための集中力
同胞のティム・チューがセバスチャン・フンドラに番狂わせで敗れたあと(WBO世界スーパーウェルター級王座陥落、WBC同級王座獲得失敗)、モロニーは現在オーストラリア人で唯一の世界王者だ。このスポーツでは予期せぬことが起こることの証でもある。
今回の相手となる武居は、K-1王者としても知られる元キックボクサーだ。ボクシング転向後も目を見張るような成功を収めてきている。「KOアーチスト」井上尚弥との対戦を経ても、武居の強打は脅威に値するようだ。
「武居はまだプロボクサーとしては8戦しかしていないけど、そのすべてでノックアウト勝ちしている。それはすごいことだよ」とモロニーは評価する。
「武居の実力は未知数だ。今回の試合は彼にとっても大きな躍進のチャンスになる。だから生涯で最強の相手と戦うつもりで準備をしてきた。トリッキーな戦いになるかもしれないね」
武居には強打に加えて、キックボクシング由来の大胆なステップワークが特徴にある。その変則スタイルを警戒するモロニー陣営は、WBA/IBF世界バンタム級3位の堤聖也、日本スーパーバンタム級2位の池側純、元日本ユース・バンタム級王者の中川抹茶というスタイルの違う3人を招聘して対策を練ってきた。
「キャンプに3人のスパーリング・パートナーを日本から呼び寄せたのはそのためだ。真剣にトレーニングしてきたし、準備は万端だよ。武居が瞬発力に優れたパワーファイターだってことは分かる。変則的な動きもするね。遠い距離から飛び込んでくる強いパンチには気をつけるよ」
「武居のような相手には油断は絶対に禁物だ。そんな相手と戦った経験はあるし、慌てたりはしないよ。集中力を切らさずに全力を尽くせば、きっと良い結果はついてくると信じている」
井上尚弥が巻き起こした日本のボクシングブームは陰りを見せない。モロニーがこの試合に勝利すれば、母国では掴むことができなかった名声への扉が開けるだろう。
原文:Jason Moloney vs. Yoshiki Takei: Mouth-watering unification matchups loom as Australian rides Japanese wave
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部
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