カネロ vs. フリオ・セサール・チャベス:記録と統計を超える「最も偉大なメキシコ人ボクサー論争」の現在地

Albert Perez

カネロ vs. フリオ・セサール・チャベス:記録と統計を超える「最も偉大なメキシコ人ボクサー論争」の現在地 image

日本時間の5月7日昼、地元グアダラハラでジョン・ライダーを相手にスーパーミドル級4団体統一王座戦に臨むカネロ・アルバレス。2005年のプロデビュー以来、メキシコ人ボクサーとして世界的な評価を受け、パウンド・フォー・パウンド最強の座も手にした。そのカネロ以前にメキシコ人最高のボクサーと称されたのが、フリオ・セサール・チャベスだ。

いずれもメキシコの英雄として人々から愛される存在だが、カネロとチャベス、どちらが『GOAT』(Greatest Of All Times)なのかという論争が長らく続いている。この論争の『現在地』について、本誌スペイン語編集部のアルベルト・ペレスが伝える。

関連記事:カネロvsライダーは5月7日昼ゴング!独占配信のDAZNでお得に観る方法:日程・試合開始時間

時代をも超える偉大なメキシコ人ボクサーは、カネロかチャベスか

Chavez_cropped

1990年代初頭の聖別(意訳:その類まれな才能が神にすらも認められて)以来、フリオ・セサール・チャベスは、世間からメキシコの偉大なファイターとして名指しされた。

その卓越した才能、致命的な左フック、石のような顎、そして容赦ない勇気によって、彼はボクシング史上最も伝説的な夜のいくつかを生み出した。これらの偉業は、この偉大なるメキシコのチャンピオンが台頭する前に、アステカのボクシング界で最高とされていた、『エル・プアス』ことルーベン・オリバレスと早世の天才サルバドル・サンチェスのキャリアを超えることにつながった。

ミレニアム(2000年)に入った頃、メキシコボクシング界でチャベスの後継者と目される『エル・テリブレ』エリック・モラレスと『ベビーフェイス・アサシン』マルコ・アントニオ・バレラが登場した。両者とものちに国際ボクシング殿堂入りするほどのキャリアを築いた。しかし、結局、モラレスもバレラも『クリアカンのスルタン』(クリアカンの支配者=クリアカンはチャベスの出身地)の偉大さには及ばなかった。

その後、2010年代の終わりには、メキシコのグランドチャンピオンの息子にして真の後継者であるフリオ・セサール・チャベス・ジュニアとともに、グアダラハラ出身のサウル・アルバレスという少年も頭角を現した。両者とも、メキシコの主要テレビ局(TV AztecaとTelevisa)によってスターダムに押し上げられ、「Pay As You Go」(従量課金制、見たい瞬間だけに課金する)システムの普及により、大衆がメガファイトを自由に観ることができなかった(メキシコの生活水準ではPPVが超高額になるため)この国のボクシング熱を20年ぶりに復活させた。

残念ながらチャベスJr.はその伝説的なファミリーネームにふさわしい活躍をすることはできなかったが、その反面、『カネロ』の愛称で人気者となったアルバレスは、メキシコ人としてチャベスSr.しか見たことのない高みを目指し、大スターに成長した。(下記画像は2017年に行われた、カネロ=左端とチャベスJr.=右端の一戦の記者会見の模様。オスカー・デ・ラ・ホーヤの隣がチャベス)

Alvarez-Chavez-Boxing-Getty-FTR-050417

フロイド・メイウェザーJr.とマニー・パッキャオが引退したあと、カネロは世界的評価という『聖火』を手にし、2016年からは『ボクシングの顔役』と言われている。カネロがメキシコ人ボクサーとしてチャベスを抜いて、歴代最高額の興行収入を記録したことは間違いない。1996年のオスカー・デ・ラ・ホーヤとの試合で、チャベスはキャリアハイの900万ドルを稼いだ。それに比べてアルバレスは、直近の2022年9月の試合(ゲンナジー・ゴロフキンとのトリロジー最終戦)だけで、4500万ドルの保証金を得た。

カネロはここ数年、米経済誌『Forbes』の「世界で最も稼ぐアスリート」リストに名を連ねている。2023年のリストでは、ハリスコ出身のカネロは、1億1000万ドルの収入で5位にランクインし、NBAの象徴であるレブロン・ジェームズや、サッカー界のスーパースターであるキリアン・ムバッペ、リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドに次ぐ稼ぎだった。そして、この経済的な成功は、明らかにリング上でのパフォーマンスと密接に関係している。

リング歴約18年、62戦のカネロは、4つの階級(スーパーウェルター級、ミドル級、スーパーミドル級、ライトヘビー級)で世界タイトルを獲得した。2021年には、メキシコ人として初めてボクシングの主要4団体(WBC、WBA、IBF、WBO)の1部門の王座を統一。同時に168ポンド(スーパーミドル級)でそれを達成した世界初のファイターとなり、文字通り歴史を作った。1年前、無敗のWBA世界ライトヘビー級チャンピオン、ディミトリー・ビボルに敗れるまで、彼は3年間、パウンド・フォー・パウンドのベストファイターと言われていた。

カネロはまだ引退していないが、これらの功績により、チャベスに追いつくことができるかどうか、メキシコ人ボクサーのなかで史上最高のファイターとして話題になることが確実となった。対して、25年のキャリアのなかで、『スルタン・デ・クリアカン』ことチャベスは、3つの異なる階級(フェザー級、ライト級、スーパーライト級)でタイトルを獲得し、1990年から1993年までは、世界最高のファイターとみなされていた。

カネロ vs. フリオ・セサール・チャべス:記録を比較する

2021年に伝説のロベルト・デュラン(日本では小林弘、ガッツ石松らと対戦したことで知られるパナマ出身の剛腕)が試みたように、この議論を実績だけを見て分析するならば、アルバレスはすでにチャベスを超えている。しかし、物事はそれだけでは決まることはなく、白黒はつけられない。

ボクサーの偉大さの多くは、その勝利の質によって測られるものだろう。そしてこの分野では、現段階のカネロよりもチャベスの記録の方がはるかに素晴らしい。

89勝0敗1分という『メキシコの大王者』の神話的な連勝記録には、確かに水増しがあるが── チャンピオン時代には、新人記録を持つ何人かのライバルがいた一方、2勝15敗などという明らかな当て馬もいた ──強敵が揃った全盛期には、その対戦相手たちの質が高かったという事実は否定しようがない。チャベスが最初の栄冠を手にした相手が誰であったかを見れば十分である。

1984年、チャベスは同郷のマリオ・マルティネスを破り、空位のWBC世界フェザー級タイトルを獲得した。『エル・アザバチェ』マルティネスは、この対戦を有利に進め、当時ほとんど無名のチャベスよりも大きな可能性を秘めたファイターと見なされていた。

一方、カネロは空位のWBC世界スーパーウェルター級王座で英国人マシュー・ハットンを破り、初戴冠を果たした。しかし、この元2階級世界王者リッキー・ハットンの弟は、コンテンダーとしての資質に欠ける、単に肥大化したウェルター級ファイターでしかなかった。

チャベスの戦績には、ロジャー・メイウェザー、ホセ・ルイス・ラミレス、グレッグ・ハウゲン、メルドリック・テイラーといった強豪との対戦が含まれている。後者に対しては、『クリアカンのスルタン』は、アステカ史上最高のファイターとしての地位を確立する勝利を収めた。テイラーは無敗の元ロス五輪金メダリストで、当時最高の選手のひとりであった。また、メルドリック戦に加え、プエルトリコのエドウィン・『チャポ』・ロサリオ、ヘクター・『マッチョ』・カマチョという殿堂入りしたふたりに勝利したことも、チャベスの記録を宝石のように輝かせている。

アルバレスのキャリアを分析すれば、オースティン・トラウト、ビリー・ジョー・サンダース、カレブ・プラント、ミゲール・コット、セルゲイ・コバレフ、ゴロフキン(第2戦)に対する勝利が最も顕著である。

最初の3人は素晴らしいチャンピオンだったが、それでもテイラーのレベルに達していたとは言えない。コットはすでに殿堂入りしているし、コバレフとゴロフキンも間違いなく殿堂入りするだろう。しかし、カネロの勝利は、チャベスがロサリオやカマチョに対して記録した勝利ほど説得力のあるものではない。また、コットやコバレフがハリスコ出身の男と対戦したとき、すでにリング上で最盛期を過ぎていたことも見逃せないポイントだ。

しかし、アルバレスがチャベスに追いつき、メキシコ人最強のファイターとなるには、32歳にしてすでにその規律が最大の武器となっている。

チャベスが近い年齢の頃、リングの外での行き過ぎた行為(薬物乱用とアルコール依存症)は、そのキャリアを大きく狂わせてしまった。一方、カネロは昨年、手を痛めた以外は、まだ体調は万全である(ゴロフキン戦におけるドーピング疑惑はあったものの)。カネロはきっとあと数年、ボクシングの大舞台で戦い、さらに大きな勝利と名声を集めることができるだろう。

カネロが5月6日の再起戦でジョン・ライダーを退けた先、もし、ビボルに借りを返し、さらに168ポンド(Sミドル級)で最大のライバルと目されるデビッド・ベナビデスを倒せば、チャベスに匹敵、あるいは超えるかもしれない。

しかし、追って通知があるまで、フリオ・セサール・チャベスはメキシコ・ボクシングの紛れもない王者であり続けるだろう。

※本記事は、スペイン語記事を翻訳し、日本独自の情報も加えた編集記事となる。

5.7 カネロ vs. ライダー:DAZN独占配信

  • 試合日時:現地時間5月6日(土)/ 日本時間5月7日(日)
  • 試合会場:エスタディオ・アクロン(メキシコ合衆国ハリスコ州グアダラハラ)
  • アンダーカード開始時間:日本時間午前8:00配信開始
  • メインイベント開始時間:日本時間午前11:30頃

カネロ vs. ライダーの試合中継は、日本では「DAZNスタンダード」で見放題。5/8の18時まで、DAZNスタンダード年間プラン(月々払い)の最初の4か月が月々税込990円になるお得なGWキャンペーンも実施中だ。

▶カネロvsライダーはDAZN独占配信!5/8まで年間プラン(月々払い)が最初の4か月間が月々990円でお得!

Albert Perez

Albert Perez Photo

Albert es graduado en Comunicaciones de la universidad de Cal Poly, Pomona en California. Es amante de los temas polémicos y las estadísticas en el deporte. Ganó tres ediciones del concurso de sabiduría deportiva “El Sabio de la República” en República Deportiva de Univision en los Estados Unidos. Es experto en boxeo, fútbol, fútbol americano, lucha libre y tacos.