年間最高試合、年間最高トレーナー、年間最大番狂わせ、そして年間最高ノックアウト。スポーティングニュース(TSN)が選ぶ2023年度ボクシング最高の瞬間──オシャキー・フォスター vs. エドゥアルド・エルナンデスから、エイドリアン・クリエルがやってのけたシベナティ・ノンティンガ戦の2回KO勝利まで。
名門『The Ring』誌(リングマガジン)元編集人で本誌格闘技部門副編集長を務めるトム・グレイがそれぞれ解説する。
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2023年はボクシングの歴史において、特筆大書(「目立つように書く」の意)されるべき1年だった。スーパーファイトを挙げるならば、ジャーボンテイ(ガーボンタ)・デイビスがライアン・ガルシアを7回KO、デビン・ヘイニーがワシル・ロマチェンコを12回3-0判定、そしてテレンス・クロフォードがエロール・スペンスを9回TKOでそれぞれ下した試合があった。
そのどれをとっても多くのファンにとっては(ファイター同士、周辺の事情などの軋轢の多さから)見ることを諦めていた試合だったが、3試合とも実現した。
ほかにもある。クロフォードと井上尚弥は2人とも2階級4団体統一王者になった。女性ボクシングでは、パウンド・フォー・パウンド最強の座を争うケイティー・テイラーとシャンテル・キャメロンが2回対戦し、どちらも僅差の判定で星を分け、互いの無敗記録をストップさせた。
数多くの素晴らしい試合、鮮明なノックアウト、劇的な大番狂わせのなかから、それぞれの分野で最高の称号を得るものは誰か。スポーティングニュースでは世界中のボクシング担当チームが投票を行った。結果は以下の通りである。
年間最高試合
オシャキー・フォスター vs. エドゥアルド・エルナンデス戦(12回2分38秒TKO勝利)
- 日程:10月28日
- 会場:ベニート・フアレス・スポーツ・センター、カンクン(メキシコ)
オシャキー・『ショック』・フォスター vs. エドゥアルド・『ロッキー』・エルナンデスは、忘れがたい世紀の一戦となった。
試合前の予想では現WBC世界スーパーフェザー級王者のフォスターが有利だとされていた。このテキサス州出身の30歳は、それまで無敗だった2階級世界王者のレイ・バルガスを下し、空位になっていた同タイトルを獲得した。当分の間、王座は安泰だと思われていたのだ。
メキシコ人であるエルナンデスには本国で戦うアドバンテージがあり、強打の持ち主であることも知られていた。しかし、この挑戦者の勇気こそがこの試合を盛り上げた要因である。フォスターは序盤のラウンドでは後退を余儀なくされ、エルナンデスが大きくリードした。
11ラウンド目の開始ゴングが鳴った時点ですでに素晴らしい試合だった。開始早々にフォスターが強烈なアッパーカットでエルナンデスを棒立ちにさせ、さらに追撃の手を緩めなかった。しかし、挑戦者は逆に右のパンチでフォスターをよろめかした。
それをきっかけにロッキーことエルナンデスが反撃に出たが、フォスターはまたしても強烈な右アッパーカットをヒットさせた。激しい打ち合いが交錯したが、2人のファイターは倒れなかった。
最後の1分間(インターバル)の休憩でより回復したのはフォスターだった。最終ラウンドでも連打を重ね、ついに衝撃的な逆転勝利を収めた。
これ以上求めるものがない試合だった。
年間最高ノックアウト
中谷潤人の対アンドリュー・モロニー戦(12回KO勝利)
- 日程:5月20日
- 会場:MGMグランド、ラスベガス(米国)
この試合がデビン・ヘイニー vs. ワシル・ロマチェンコのアンダーカードとして行われることが決定したとき、アンドリュー・モロニーにとっては悪夢の展開となることが予想された。
だが、このオーストラリア人ボクサーは勇敢だった。圧倒的な不利とされていたにもかかわらず、強打で知られる中谷潤人を相手に積極的な打ち合いに出たのだ。
試合展開は予想されたものと寸分違わなかった。モロニーは有効打を放つことはできなかったが、それでも攻撃の姿勢は崩さなかった。最終12ラウンド目のゴングが鳴るまでに、すでに2回のダウンを喫していた。
試合を決めた1発は恐るべきパンチだった。試合終了まで30秒を切ったとき、サウスポーの中谷は右で距離を測り、そして強烈な左フックをマロニーの顎に炸裂させた。マロニーがキャンバスに頭を叩きつけるような壮絶なノックアウトで試合は終わった。
幸いなことに、マロニーは意識を取り戻し、自分の足でリングから下りた。この勝利によって、中谷は空位となっていたWBO世界スーパーフライ級のタイトルを獲得した。
2024年の中谷は、2月24日にひとつ上の階級に転向し、WBC世界バンタム級王者アレハンドロ・サンティアゴに挑む予定だ。
年間最高トレーナー
ブライアン・『ボーマック』・マッキンタイア
ブライアン・『ボーマック』・マッキンタイアに関する最大のニュースは、本人が忘れたがっているに違いないが、それでもこのオマハ出身のトレーナーが2023年のボクシング界ではたした役割は否定できない。
マッキンタイアはテレンス・クロフォードをウェルター級4団体統一王座へと導いた。もちろん、長い間のライバルだったエロール・スペンス・ジュニアを9回TKOで下した7月のスーパーファイトのことえである。
マッキンタイアは元プロボクサーの53歳だ。ライト級の新鋭スターであるキーショーン・デイビスも指導している。デイビスは2023年に3勝した。もっとも、デイビスが直近の試合後にマリファナ検査で陽性と診断され、無効試合になってしまったが。
しかし、マッキンタイアは英国人のミドル級ボクサーであるクリス・ユーバンク・ジュニアも指導している。元世界王者のリアム・スミスに惨敗したあと、ユーバンクはマッキンタイアとともに9月の再戦に挑み、雪辱を果たすことに成功した。
その翌日、『ボーマック』ことマッキンタイアはマンチェスター空港において銃器不法所持により逮捕されてしまった。それから数週間に渡って収監されたが、「特例」によって釈放された。クロフォードを含む多くの人が証言台に立った。
たしかに大きな過ちを犯したが、『ボーマック』が手掛けた2023年のボクシング界における様々な功績は正当な評価に値する。
年間最大番狂わせ
エイドリアン・クリエルの対シベナティ・ノンティンガ戦(2回KO勝利)
- 日程:11月4日
- 会場:カジノ・ド・モンテカルロ、モナコ
南アフリカ出身のシベナティ・ノンティンガは2022年まで無名の存在であったが、ライトフライ級のダークホースへと浮上し、同級に君臨する寺地拳四朗の挑戦者としても認められる存在になった。
ノンティンガは空位になっていたIBF世界ライトフライ級王座をかけてエクトル・フローレスと戦い、激し打ち合いの末に判定勝ちを収め、王座を獲得した。その9か月後には挑戦者のレジー・スガノブから大差の判定勝利を収め、初防衛にも成功した。
この時点では、ノンティンガが寺地との統一王座戦に挑む資格は十分だと思われた。11月、モンテカルロで対戦したエイドリアン・クリエルは、無名のメキシコ人ボクサーであり、ノンティンガにとっては踏み台に過ぎないはずだった。だが、試合は予想を覆す展開となった。
クリエルは試合開始から積極的な攻撃でプレッシャーをかけた。王者は戸惑っているように見えた。2ラウンド目が始まってもノンティンガは後退し続け、背中がロープに詰まってしまった。1分を過ぎたとき、ノンティンガは抜け出してジャブを放ったが、挑戦者はそこに強烈なカウンターとなる右パンチをノンティンガの顎にヒットさせた。ノンティンガは立ち上がれなかった。
戦術面においても、対戦相手の実力においても、これ以上ないほどの大番狂わせだった。両者は2024年2月16日、クリエルの母国メキシコでダイレクトリマッチを行う予定だ。
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※本記事は国際版記事を翻訳、日本向け情報を加えた編集記事となる。翻訳:角谷剛、編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮泰暁
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