カネロが2013年メイウェザー戦以来の敗戦、ゴロフキンとの第3戦に影響必至

神宮泰暁 Yasuaki Shingu

カネロが2013年メイウェザー戦以来の敗戦、ゴロフキンとの第3戦に影響必至 image

現地時間5月7日、米ネバダ州ラスベガスのT-モバイルアリーナで、現代ボクシング界の最強の男として認知される"カネロ"ことサウル・アルバレス(メキシコ)が、WBA世界ライトヘビー級スーパー王者ドミトリー・ビボル(ロシア)に挑戦するも決定打をだせず判定負けを喫した。カネロの敗戦は、2013年9月のフロイド・メイウェザー戦以来、約8年8か月ぶりとなった。

現スーパーミドル級(72.575 - 76.204kg)4団体統一世界王者で4階級制覇王者のカネロが負けた。1階級上のライトヘビー級(76.204 - 79.379kg)の19戦無敗の王者ビボルは想定以上に巧かった。

ライトヘビー級では2019年11月のセルゲイ・コバレフ(ロシア)を破り、すでにWBOタイトルを獲得していたカネロだが、その後はスーパーミドル級の4団体統一と防衛に集中していた。ライトヘビー級でのブランクはあるが、173cmの決して大きくない身体で11回TKO勝ちをあげたコバレフ戦のこともあり、約2年半ぶりの同級タイトルマッチでも大きな不安要素はないと見られていた。ブックメーカー各社でもカネロ有利のオッズを掲げていた。

ロシア出身のビボルについては、当初、母国によるウクライナ侵攻の影響で試合中止も叫ばれたが、WBAはロシアの国旗や国歌を使用せず、ビボルを米カリフォルニア州所属として紹介し、米国国歌が歌われた。開催地は米国内とはいえ、やはりブーイングが聞こえるなど、アウェイの立場でカネロを迎え撃つことになった。

183cmと10cm近く体格で優るビボルは序盤、下手に手をだすことはなかった。近年のカネロはパワーボクシングで相手をねじ伏せるスタイルで通してきたが、1階級上のビボルには効果が薄く、カミソリのような右アッパーなども大きなダメージにはならない。攻撃に転じたビボルは、手数と足で稼ぎ、カネロを心理的も追い込んでいく。

とらえどころのないビボルにカネロが撃ち合いを煽った場面は、逆に劣勢を印象付け、この時点から悪い流れが見えていた。懐に踏み込んだビボルを肩で持ち上げたシーンも直前にクリーンヒットを受けてのアクションだけに、苦し紛れにも見えた。

その後も両者から決定打はでることはなかったが、ビボルが着実にヒットを重ねた。ボクシングスタッツサイト『CompuBox』によると、カネロは495発中84ヒット(ボディ43)のヒット率17%、ビボルは710発中152ヒット(ボディ15)のヒット率21%で、ジャブに限っては、カネロが229発10ヒット、対するビボルは418発中46ヒットとなっており、とにかくビボルが細かく刻んだことが見て取れる。

12回フルラウンドを終えて勝利をアピールしたカネロだったが、判定は0-3(3者とも115-113)で同級2つ目のタイトルを逃しただけでなく、2013年9月のフロイド・メイウェザー(米国)戦の判定負け以来、約8年8カ月ぶりの敗戦を喫した。戦績は57勝(39KO)2敗2分となった。

敗れたカネロは、11度目の防衛に成功したビボルを「優秀なファイター。いい戦いだった」と称え、「ボクシングというスポーツではこういうことが起こるものだと思う」と素直に負けを認めた。再戦条項を行使し、リベンジマッチに臨むことを明言した。

カネロにおいては、年内9月17日にWBAスーパー・IBF世界ミドル級王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との3度目の対決(実施階級はスーパーミドル級とされる)が予定されていたが、ビボルとの再戦を優先することになった今、計画の見直しは避けられない状況だ。カネロの現在のプロモーターはエディー・ハーン氏のマッチルーム社だが、ビボルのプロモーターもまた同社となっている。結果として試合後のビボルが、ハーン氏に感謝しつつも、同氏が推し進めるカネロvsゴロフキン第3戦計画を「壊して申し訳ない」と謝るという、何とも皮肉なシーンが生まれた。

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神宮泰暁 Yasuaki Shingu

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日本編集部所属。ボクシング・格闘技担当編集者。