英大手プロモーター、エディー・ハーン氏がジェイク・ポールらYouTuberボクサーを支持する理由

Daniel Yanofsky

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英大手スポーツプロモーター『Matchroom』(マッチルーム)会長エディー・ハーン氏が、YouTuber(インフルエンサー)たちのボクシング界への貢献について自身の考えをスポーティングニュースに語った。

本誌格闘技エキスパートのダニエル・ヤノフスキー(Daniel Yanofsky)記者が伝える。

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YouTubeやTikTokなどの人気配信者(インフルエンサー)によるボクシングは、格闘技の世界ですっかりお馴染みになった。もちろん、今でも反対する人はいる。正統派ファンや関係者から拒否反応が起きるのは、やむを得ないだろう。最近ではプロレスよろしくタッグチームによるボクシングの試合までもが実際に導入されるくらいだからだ。

しかしながら、ジェイク・ポール、KSI、アネソンギブ(AnEsonGib)、そして多くのYouTuberボクサーたちが人気を集め、かつてないほどの視聴者数を獲得しているという現実がある。非伝統的な手法ながら、ボクシングを見る(視る・観る)人の数を増やしているのだ。

YouTube(インフルエンサー)ボクシングを支持するか、否か。

いち早く支持を表明したひとりの人物が、英大手プロモーター『Matchroom』(マッチルーム・スポーツ/マッチルーム・ボクシング)会長エディー・ハーン氏である。

2018年にKSIとローガン・ポールがアマチュア・ボクシングの試合を行った。マンチェスター・アリーナ(イギリス)には2万1000人の観客がふたりのYouTuberたちの戦いを観るために詰めかけた。前座試合では、それぞれの実弟で同じくYouTuberのデジとジェイク・ポールが対戦した。このイベントはペイ・パー・ビュー(PPV)では世界中から130万人が視聴した。これを目の当たりにしたハーン氏は、新たなビジネスチャンスを見逃さなかった。こうしてKSIとローガンの再戦が2019年にプロボクシング公式戦の興行として行われた。ステイプルズ・センター(ロサンゼルス)に1万2000人の観客を集め、PPVの全世界視聴者数は200万人を越えた。

エディー・ハーン氏はYouTubeボクシングについてどう考えているか

兄ローガンがフロイド・メイウェザーとのエキシビションマッチを経て、世界最大のプロレス団体WWEと大型契約を結んで肉体派タレントとして成功する一方で、弟のジェイク・ポールは、もはやボクシング界で欠かせない存在になった。

ジェイクはプロ戦績を6勝0敗に伸ばし、Showtimeから ESPN+まで、あらゆるメジャーなメディアに登場している。2月26日には、WBC世界ヘビー級王者タイソン・フューリーの異母弟であるトミー・フューリーとの対戦が予定されている。この試合はESPN+で中継される。ジェイクが持つ影響力はファンとアンチの間で大きな議論を呼んできた。

ハーン氏は前述通りローガン・ポールの試合をプロモートした。一方で、2022年の年間最高試合に選ばれたケイティー・テイラー vs. アマンダ・セラノをプロモートしたのもハーン氏だ。いわゆるインフルエンサーボクシングについても「エンターテイメント」として一定の理解を示しており、またジェイク・ポールというファイターは、もはやそのレベル(単なるYouTuberボクサー)に分類されるべきボクサーではないとも考えている。

2月4日のアマンダ・セラーノ vs. エリカ・クルス戦を前に、ハーン氏はスポーティングニュースの取材に応じ、次のように語った。

「『YouTubeボクシング』はサーカスのようになってきています。私たち(正統派のボクシングビジネス)から切り離されているからこそ、成功しているのです。あれは多くの観客を呼び込むエンターテイメントです。ボクシングではありません」

「ジェイク・ポールはもはや(エンターテイメントの)『YouTubeボクシング』(の人物)ではありません。彼は『ボクシング』(のプロのファイター)なのです。ボクサーと戦ってきたのですから(厳密にプロボクシング経験者といえるのはアンデウソン・シウバのみだが)。誰にでもリングに上がり、プロのファイターになろうとする権利はあります。彼の舞台は誰よりも大きく、それでも彼は真剣にスパーリングやトレーニング・キャンプをしてからリングに上がっているのです。多分、この(セラーノ対クルス)前座に出ている選手のうちのひとりかふたりより実力は上でしょう。それなら反対する理由はありません。彼はボクシング界にいるのです。

タッグ・チームを導入するYouTubeボクシングは(エンターテイメントとして)素晴らしいものです。私たちはただ、『好きにしたらいい』と言いたいのです。良い数字を出しているのですから。私たちにとってはDAZNの数字(視聴者数)が上がりました。そして、私たちがプロモートするボクサーの視聴者数が増えました。そうしたイベントが後押ししているからです。それが事実なのです」

この界隈の口火を切ったKSI vs. ローガン・ポール戦以来、『Creator Clash』、『Social Gloves』、そして『Triller Fight Club』などのインフルエンサーボクシングのイベントが続々と生まれている。KSIはDAZNとパートナーシップを組んで、新たなシリーズ『MF x DAZN: X Series』を作り上げた。同シリーズは最近5年間の契約延長が発表された。「DAZNにおいて最も世界的に有名なエンターテイメント、スポーツ、そしてライフスタイルのショーケース」を名乗っている。

KSIは一度はハーン氏と組んだが、『MF x DAZN: X Series』では、別のプロモーターである(ワールドボクシングスーパーシリーズを手掛けた)カッレ・ザウアーランド氏を選んだ。その経緯について、KSIはスポーティングニュースに次のように語っている。

「オレはただエディー(ハーン氏)よりカッレ(ザウアーランド氏)と親しくなっただけさ。エディーはさらっと『それはいいね。君とローガンでそれをやろう』と(単発イベントとして)話しただけだった。カッレはもっと長期的な視野で熱心になってくれたのさ」

今は距離を置くハーン氏も認めざるを得ないポジティブな影響力

ハーン氏はかつて手掛けた『KSI vs. ローガン・ポール第2戦』を振り返り、成功を収めたにもかかわらず、その後は距離を置いている理由について説明した。

「私は一度、KSIとローガン・ポールの試合をプロモートしました。(インフルエンサーボクシング)史上最大の試合のひとつです。ですから、あの数字が現実であることは知っています。ただ私はあれを自分の本職にしたくはないのです。私はあくまでボクシング(の正道)に関わっていきたいのです。それと同時に『あれは本物のボクサーを侮辱するものだ』などとは言いません。彼らは自分たちの力でファン層を作り上げました。それを使って何をするのも彼らの自由でしょう」

「彼らがやるべき唯一のことは、若い世代にボクシングの草の根を広げる努力ではないでしょうか。KSIやほかのYouTuberボクサーたちは、子どもたちが憧れるヒーローなのです。彼らが真剣にボクシングに取り組めば、若い世代がもっとジムに足を向け、競技層が広がっていくと思います」

事実、KSIが主宰する『Misfits Boxing』は、若い観客を開拓するイベントをいくつか創り上げてきた。KSI本人が一晩にふたりのファイターと戦ったイベントには、ハシム・ラーマン・ジュニアとグレッグ・ハーディが参加し、母国イギリスでその人気を高めた。3月の『MF & DAZN: X Series 005』では、タッグチームの試合を導入する。KSIとYouTuberボクサーたちはボクシングというスポーツを変えようとしている。

伝統的なアプローチをとるボクシング関係者らは、常に人気については軽視する。ハーン氏は、これを格好のビジネスチャンスと捉えている。YouTube(インフルエンサー)ボクシングを否定しないことで、ボクシング側も恩恵を得ることができる。両者にとって利益になる道があるはずだ。

ハーン氏は以下のように続けた。

「視聴者数や観客数についてはより複雑になります。YouTubeボクシングを見る人が、(正統派の)ボクシングの世界タイトル戦を見ないとは決めつけられないからです。正しい方法はあるはずです。その点、DAZNの人たちは賢明です。こんな風にできるのです。『KSI vs. テンパーで視聴契約者が30万人増えた。その30万人に今週の土曜日のセラーノ vs. クルスを宣伝できるじゃないか。本当のボクシングを見てみないか、ってね』」

「ファンがいる限りはチャンスがあります。彼らは常に手が届く観客なのです。いつでも呼びかけることができます。本当のボクシングを宣伝して、人々をこちらに振り向かせるチャンスなのです。トップボクサーの試合を見れば、このスポーツがどれだけ素晴らしいかをきっと分かってくれるはずです」

原文: Matchroom's Eddie Hearn explains positive impact of Jake Paul, YouTubers on boxing
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部

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