フィリピン大統領選出馬のパッキャオが引退示唆も、プロモーターは正式引退を否定

神宮泰暁 Yasuaki Shingu

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9月19日、ボクシング元世界6階級制覇王者のマニー・パッキャオが、母国フィリピンの大統領選出馬を表明。21日には、地元タレントのYouTubeチャンネルに出演し、改めてボクシング引退を示唆したが、所属プロモーターの代表が正式な引退表明ではないと否定した。米スポーツ専門メディア『ESPN』が伝えている。

42歳のパッキャオは、8月21日にWBA世界ウエルター級タイトルマッチで、王者ヨルデニウス・ウガス(キューバ)に判定負けを喫し、試合後に引退を意識したコメントを発した。この発言から長年噂されていた母国フィリピンの大統領選出馬に向かうと見られていたが、19日、正式に大統領選出馬表明に至った。

2007年の下院議員選初挑戦から、2010年のサランガニ州下院議員初当選を経て、2016年には上院議員に鞍替え当選。そして2022年5月大統領選では、最大与党のPDPラバン党の一部派閥から指名され、出馬する。出馬の声明では、「私はファイター。リングの内外でもつねにファイターになります。貧困に勝たなくてはならない」と宣言した。パッキャオはかつては現大統領ロドリゴ・ドゥテルテの支持者だったが、ドゥテルテ陣営と対立する与党内派閥からの出馬となった。

ドゥテルテ現大統領は再選が禁じられているため、自身は主流派の派閥からの指名で副大統領選に出馬し、権力維持を狙うとされている。2016年に大統領に就任したドゥテルテは、インフラ開発を協力に推し進め、経済的な成長を促したこともあり、国民に支持されている。その一方で強硬的な権威主義の面もあり、麻薬犯罪の取締強化を断行するも、警察の過剰な取締により市民が被害に遭う弊害が生まれ、汚職の一掃には至っていないという。また、南シナ海の排他的経済水域(EEZ)の中国船停泊問題に本腰を入れぬまま放置するなど、親中国派の顔も持つ。

元々はドゥテルテの長女でダバオ市長のサラ氏が大統領選指名を受けるとされたものの頓挫。主流派は代わりにドゥテルテの腹心のボン・ゴー上院議員を指名したが、辞退されてしまい、サラ氏が改めて出馬を否定したことで、別派閥のパッキャオ指名が実現した。パッキャオは現政権の汚職や対中国政策を真っ向から批判しており、米経済紙『Newsweek』では、与党内の権力争いが表面化したと指摘している。

こうした一筋縄ではいかない大統領選出馬を受けて、21日、パッキャオはフィリピン人の司会・女優・マルチタレントのトニ・ゴンザガの公式YouTubeチャンネルの番組「Toni Talks」に出演。登録者429万人の人気チャンネル上で、ボクシングのキャリアについて話した。

「私のボクシングのキャリアはすでに終わっている。私は長い間ボクシングを戦ってきたが、家族はもう十分だと言ってくれた」とタガログ語で語っている。「ほかのボクサーたちをサポートし、世界王者にしたい」とも述べており、事実上の引退宣言に受け取れた。

しかし、ESPNによると、パッキャオのプロモーション会社『PMプロモーションズ』のショーン・ギボンズ代表は、「正式な引退表明ではない」と話したという。

今後、数週間でパッキャオ自身がボクシングのキャリアの終わりについて(公式に)決定すると前置きした上で、「彼自身のTwitterやInstagramで公式に発表されるまでは、彼は引退しない」と話し、他のメディアやアカウントでの発言は「現在の考えについて話しているだけ」と釘を刺した。

フィリピンという国の未来を左右する大統領選に集中するためにも公式な引退表明が必要になりそうだ。

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神宮泰暁 Yasuaki Shingu

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日本編集部所属。ボクシング・格闘技担当編集者。